第3話 いつも心にヒーローを
あれは私が高校2年くらいの頃か……
近所にニューヒーロー『タフガイ』現る。
出現場所は、私ががよく行く近所のレンタルビデオ店。
そう……ヤツはいつの間にやら現れた。
借りたいビデオを選んでる私の目の前に……。
「2泊……いや……明日で」
その日からヤツは……いや、彼は『ヒーロー』となった。
彼には定番のコスチュームがある。少し古いタイプの黒いプーマのジャージ。
ソレが彼が『コト』を成す時の正装なのだろう。
黒いジャージに身を包んだ彼はビデオ店のカウンターに上半身だけその身を現し、アダルトコーナー専用の借口に手早く10本ほどのビデオを置く。
もちろんすべてアダルトビデオだ。
店員「こちらすべて1週間のレンタルとなりますので……」
私は胸を撫で下ろした。
なぜなら最初の頃、彼は『アダルトビデオをよく借りに来るオッサン』でしかなかっのだ。
私は彼が日を増すごとに徐々に増やしていくビデオの本数に不安すら感じていたのだ。
彼との最初の出会いは覚えていない。
いや、覚えていないというより、最初のうちは特に意識もしていなかったのだろう。
「よく借りる人だな。」せいぜい、その程度だ。
しかし、3本……5本……8本……
日を重ねるごとに増えていくビデオ。
さすがの私も彼を、彼の存在を無視するわけにはいかなくなっていった。
彼を意識し始めてどれくらい経っただろう……私は彼に名前をつけた。
『タフガイ』
彼に限定して言えば侮蔑すら感じられる呼び名だったが、週1ペースでアダルトビデオを借りに来る彼にはふさわしい名だと我ながら納得していた。
ちょうどその頃から彼が借りていくビデオの本数は安定期に入る。
安定期に入ってからというもの、私の中の『タフガイ』の印象は徐々に薄れていていった。
1週間に10本。
たしかにすさまじいペースではあるが、「変わらないモノ」を見続けるというのはひどく退屈だからだ。
私は、彼が着ている黒いジャージに反応しなくなり。
訪れるたびにチェックしていたアダルトコーナー専用口は見なくなった。
私は彼を意識しなくなっていった・・・。
しかし彼との出会いから半年程経った頃だろうか……
私は近所のレンタルビデオ店で黒いプーマのジャージを着ている男とすれ違う。
『タフガイ』だ!
彼を意識しなくなったはずの私がなぜか今日その日は黒いジャージに反応してしまった。
私なりになにか感じとるものでもあったのだろうか?
とりあえず私はカウンターで彼を待つことにした。
5分ほど経っただろうか?
しばらくして、彼はカウンターごしに姿を現した。カウンターに置かれたそのビデオの本数に、私は目を疑った……。
ご……5本?
安定期に入ったとはいえ仮にも『タフガイ』と呼ばれていた男が……5本?
ありえない。そんなはず……
「こちら、すべて新作になりますが返却はいつになさいますか?」
店員の声が私の思考をさえぎる。
し……新作? じゃあ2泊3日じゃないか。2泊3日で5本なんて……
タフガイ「……明日で」
な! 5本を1晩で?
驚きのあまり立ち尽くす私を残して彼は去っていった。
その時……時刻は、午後12時過ぎ。ビデオ店閉店は3時だ。返却まで27時間。
とはいえ、彼だって仕事をしているだろう。睡眠も取る。メシだって食う。
多く見積もっても残り10時間。
10時間でエロビ5本を見る超人……いや彼こそ『ヒーロー』なのだ!
それ以来、私は彼を見かけなくなった。
その時に真っ白に燃え尽きてしまったのか?
それとも新しいステージを探して旅立ったのか?
それは分からない……だが、さっそうと去っていく彼の背中は、たしかに何かを語りかけてきた。
「『タフ』ってのは、こういうことなんだ。ボウヤ……」
男は背中で語る……昔の人はよく言ったものだ。
黒きチーターを背負ったその背中は、今もどこぞの軟弱な日本男児に「喝」を入れているのだ!!
この人のことふいに思い出してしまいました……
そう! このヒーローと比べてしまうと最近の若者は……
軟弱すぎる!
と言われても仕方ない……
若者よ! もっとタフであれ!
しかしねぇ……
サブスクとか、タフガイ殺す気のシステムよなぁ……
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