第2話 ダクティーの本領
日付が変わるころ、王都は昼間の賑やかさを失い、街は完全に寝静まっていた。
そんな中、暗い街をわが物のように歩いていた者がいた、その怪しげな装束を身に纏った者は盗賊であった。
盗賊は目的の宿に到着すると、透明化の魔法を唱えて宿の中へ侵入した。
玄関を抜け、階段を上がり、例の窓が破られた部屋の前に立った。
「到着した、開けてくれ」
盗賊は窓から入った他の仲間とこの部屋で合流する手はずになっていた。
「ああ、今開けてやる」
聞いたことのない声だったが、いつも通り新人だろうと盗賊は思った。
カチャリという扉の鍵を開けた音が聞こえた。
「さあ、入れ」
そう言われて盗賊は扉を開けた、しかし目の前には予想もしない光景が広がっていた。
「なんだと、これは」
扉を開けた先には仲間が鎖で縛られいて、探偵とダクティーに囲まれていた。
「チェーン!」
探偵がそう叫ぶと、盗賊の周りに鎖が出現し、盗賊の体に巻き付いた。
「うっ」
身体を縛られた盗賊はその場に倒れ込んだ。
「確保!」
探偵は吠えた。
「なぜ我らがここに来ると分かった」
盗賊は体を縛られながら、苦しそうに口を開いた。
「金塊がなくなって、窓が破られていたのに誰も姿を見ていない、それを聞いて初めは透明化してそのまま逃げようとしたのかと思った」
ダクティは続けた。
「でも窓ガラスの破片を見て違和感を感じた」
「違和感だと」
ダクティーの言葉に、盗賊は戸惑った。
「あの破片は少し曲がっていた、それを見て窓ガラスの破片にしてはおかしい、そう思ったんだ」
ダクティーは破片を見て、宿の主人に扉を開けてからどのような行動をしたのか詳しく聞いたところ、扉を開いて真っ先に窓から外に人がいないか確認して、それから金塊を確かめたと答えた、それは物を盗まれた可能性がある時には正しい行動だった。
そのことを聞き、ダクティーは顧客名簿を見せて欲しいと頼み、名簿を見たところ何人か現役の魔術官や魔術官になったばかりの者たちが、事件当日に泊まっていたことが分かった。
おそらく、魔術官の試験を受けに来た者や、今年の受験者を一目見ようと集まった魔術官が宿泊をしていたのだろう。
これらの情報からダクティーは1つの答えにたどり着いた。
「犯人はまだ金塊を盗めていない、あの時扉の前で透明化した人間がガラスの食器か何かを割り、それを聞いて駆けつけた主人は窓が破られた音だと勘違いしたんだ」
ダクティーの推理を聞いて、盗賊が口をはさんだ。
「待て、それだと窓ガラスが割れているのはおかしいと思うだろ」
「金塊が運び込まれる前から事前に割っておいたんだろ、そして割れていないように魔法で見せかけていた」
盗賊は息を呑んだ。
「事前に知っていたのならお前たちが透明化をかけて、そのまま盗まなかった理由が分かる」
「理由?」
「あの時宿だけでなく、王都にはさまざまな魔術官が集まっていた、もし金塊を抱えて透明化しているところを見つけられるような者がいれば、一巻の終わりだ」
幻影の魔法は物体が大きければ大きいほど、その精度が落ち、さらに移動しながらだと持続時間がかなり減ってしまう、魔術官レベルの人間なら見破れてもおかしくない。
そのことを思い出していたダクティーは、魔法鑑定で人が1人隠せる程度の魔法が使われていたことも相まって、移動していないと予想した。
「盗賊たちは金塊があの部屋に運び込まれることを聞いて、その前に部屋へどうにかして侵入し、窓を割っておき、運び込まれてからガラス製の物を破壊して音を鳴らした」
ダクティーは推理をまとめ始めた。
「そしてカギを主人に開けさせ、窓から人影がないか確認している間に金塊を透明化、パニックの宿から手ぶらで抜け出し、沈静化した後に盗み出そうとした」
ダクティーは盗賊の方を見ていった。
「これが今回の犯行だ」
盗賊はうろたえながら口を開けた。
「何故今日の夜だと思った」
「今日で任命式のために宿泊していた客はいなくなった、そして魔法の効力が明日には切れていた、来ないはずがない」
「効力だと、そんなこと魔法鑑定でも分かるはずがない」
盗賊はダクティーの方を見てつぶやいた。
「この魔法への知識や高度な鑑定技術、こいつ、まさか魔術官……」
推理を聞き終わった探偵はさえぎるように手をたたいた。
「衛兵さん、あとは任せました」
探偵がそう唱えると、隣の部屋に控えていた衛兵たちは、盗賊の身柄を引き取るため姿を現し、鎖をつかんで連行しようとした。
「ほら、さっさと立て!」
衛兵はそう言って盗賊たちを立たせると、建物の外に連れて行った。
「これで一件落着だな」
探偵はダクティーの肩をたたきながらそう呟いた。
「探偵さん、衛兵隊への連絡ありがとうございます」
「ベルデルだ、俺の名前は」
探偵は表情を変えずに答えた。
「てっきり何もできずに辞めていくかと思ったが、思った以上に優秀だった、これからも長い付き合いになるだろう、よろしくな」
ベルデルの言葉を聞き、ダクティーは表情を緩ませた。
「よろしくお願いいたします」
「ああ」
ダクティーを横目に、ベルデルは考え事をしながら宿を出た。
あの日付を聞いて任命式と即答するあたり、やはり受験者なのか、もし有力な候補生だとすれば弱っていたとはいえ、透明化を結界術で見破ったのも頷ける。
「こいつなら、あるいは……」
帰路の途中、ベルデルは1人呟いた。
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