受験落ち元エリートの俺が探偵業で才能発揮
@laptop
第1話 受験落ち、探偵送り。
「今年の魔術官が決まったぞ、王様は城で任命式を執り行うらしい!」
「10万名のうち受かったのはたったの102人だそうだ!」
国家魔術師官、それは人々から称賛を受ける特別な魔術師達である。
倍率が約1000倍の試験を潜り抜けた彼らは、頭脳明晰で魔術に長けており、格闘術まで身につけていると言う、文武両道のまさに非の打ち所がない天才達だ。
貴族だけでなく平民からも受けることができるので、市民達の中には魔術官になることを夢見て勉学に励む者も多い。
「以上102名を国家魔術官として任命する、これより赤翼のローブを着用する許可を与える」
王がそう言うと、魔術官は一斉にローブを身に纏った、魔術官に与えられる紅色のローブは彼らの誇りである。
任命式が終わると人々は街の広場に集まっていた。
「よくやった、お前は私達の誇りだ」
「魔術官が出たとなると我が家も安泰だ」
喜ぶ人々を横目に落ちてしまったダクティーは、この世の終わりの様な気分でいた。
市民の出身だが、幼少から神童と言われて魔術官になるべく、エリート校に特待生として進学していた彼は、今回の試験に自身の人生がかかっていた。
「ダクティー、我々アルーマ校は君に期待しているぞ」
「お前の成績なら落ちるはずがない、受かってこい!」
学校長や教員達も、口を揃えてこう言っていた。
自分には才能があって努力までしている、 そんな自分がなれないはずはない、神はきちんと見てくれているはず、そう考えていた。
「落ちたのか俺は、これだけの歳月をかけたのに」
自身の身に起きた現実を、まるで夢でも見ているのかと思えるほど、理解できずにいた。
ダクティーは暗然とした心のまま、その場を立ち去った。
その日は王都の宿に泊まり、部屋の中で一人漠然と過ごしていた。
そのまま眠らずに夜が明けてしまい、日が昇る中ダクティーは仕方なく就職の相談をすべく学校に向かった。
「ダクティー君、これからどうするつもりだい」
就職課の担当教員はダクティーにそう尋ねた。
「学校で学んだ結界関係の仕事に就きたいと思いましたが、それは無理そうです」
ダクティーは学校の就職課に訪れ、今後のことについて相談していた。
「城の結界はもちろん、郊外の町や砦の結界でさえも魔術官が仕事を独占していて、とても一般魔術師が就職できる状況じゃあありません」
ダクティーは途方に暮れていた。
「こんなことになるとは夢にも思わなかった、まさか試験に落ちて挙句仕事に就けないなんて、死体蹴りもいいとこだ」
「確かに就職は厳しいだろうな、1つを除いて」
「仕事があるんですか?」
ダクティーは息を呑んだ、このまま路頭に迷うと思っていた彼にとって、1つだけでもしごとがあるのはありがたかった。
「まあ聞いてくれ」
教員はそういうと、棚から魔法の力を使ってファイルを引き寄せ、そのまま机の上に広げて見せた。
「1つ残っている仕事それは探偵だ」
教員は続けた。
「君も知っていると思うが、この国の探偵というのは自警団に近く、犯罪者などを発見し制圧そして国へ引き渡すという、犯罪者専門の傭兵業を行っている」
「それが私に適任なんですか?」
ダクティーが口を開いた。
「ああ、君は魔法の腕もあり、法学にも精通して体術も扱える、荒くれ者を相手にしても問題ない」
教員は続けた。
「そして何より……」
それを聞いたダクティーは、納得して席を立った。
「ありがとうございます、さっそく探偵社を当たってみたいと思います」
そう礼を言うと、さっそく探偵社へ面接を受けに行った。
探偵社の事務所がある大きなレンガの建物の中で面接が始まった、しかし面接が始まってすぐに、面接官はこう言い放った。
「はい、採用」
面接が始まって履歴書を見ると、いきなり探偵社の面接官はそう言って、ダクティーを採用した。
「採用ですか?」
「ああ、この成績ならうちでもやっていける、そして何よりこの結界を扱えると言うのが素晴らしい」
学校の成績を提出したら、簡単に内定を取れると聞いていたので、その通りだとダクティーは感心したが、同時に不信感を抱いていた。
「明日は仕事を覚えてもらって、明後日から探偵に付き添ってもらう」
「ちょっと待ってください」
ダクティーは口を開けた。
「こんなに簡単に採用して、その上明後日から仕事を行うって、そんな事をして大丈夫なんですか?」
そう言うと、面接官はため息を吐きながら喋った。
「あのねぇ君、ひょっとしてこの仕事を給料だけみて、よく調べずにきた感じ?」
「それはきちんと調べてきました、犯罪者専門の傭兵業だと」
ダクティーは面接官の質問を答えた。
「だったら分かるでしょ、この仕事は危険が伴うから入れ替わりが早い、だから1人1人を育成してる暇なんてない」
ダクティーはその言葉に唖然とした。
「とにかく明後日から付き添いに行ってもらうからよろしく」
こうしてダクティーは一抹の不安を抱えたまま、探偵社へ勤めることとなった。
翌日の研修を終えて、ダクティーはいよいよ探偵と共に実践に出かけた、なんでも任命式の日に窃盗事件が起きたらしく、現場である宿へ向かっていた。
「気づいた事があればなんでも言っていい、それが探偵になるには必要な事だ」
探偵は口を開いた。
「もっとも君がいつまで続けられるか見ものだがね」
「頑張ります」
ダクティーはそんな探偵の言葉に適当な相槌を打った。
王都の中心から東の方へ歩いた通りにあるその宿は、貴族なども利用する大きな宿で、今回は貴族の荷物置きに使用していた部屋から物が盗まれたらしい。
事件現場である宿は、レンガ細工で作られていて、日の光を浴びて赤い輝きを放っていた。
「探偵さん、お待ちしておりました」
宿の主人はそう挨拶をし、ダクティーたちを二階の部屋に案内した、二階に部屋があるのは窃盗対策だと主人は話した。
「この部屋の窓は町の大通りに面していて、二階から侵入しようとすれば通りから丸見えになっているので、今まで盗みに入られることはなかったのですが」
主人はそう不安げに話した。
案内された部屋は大きめの窓が1つある他、荷物を収納するための棚が並んでいた。
「さっそくだか、詳しい状況を説明してくれ」
「はい、今回盗まれたのは金塊でして、扉に鍵をかけた部屋に保管していたのですが、今日の13時頃にガラスが割れた音を聞きました」
主人は続けた。
「それで従業員と共に部屋へ向かい、鍵を開けて扉を開くと、窓が破られて金塊が無くなっていたのです」
探偵は説明を聞いて、自分の意見を述べた。
「なら窓から金塊を持って逃げたんじゃあないか、魔法鑑定の方はまだか」
「ええ、まだやっていません」
「了解した、おい助手、やってみろ」
探偵はいきなりダクティーに仕事を振ってきた。
魔法鑑定とは、その場所で10日以内に使った魔法を分析する基本の魔法である、ダクティーも当然魔法学校で習っていた。
「分かりました」
ダクティーは空に手をかざし、魔法の言葉を唱えた。
「解!」
するとダクティーの目の前に緑の魔法陣が広がり、そこから黄色の光を放った。
「解析が終わりました」
ダクティーは平然と言い放った。
「使われた魔法は幻影の魔法かと」
「幻影か、透明化や存在しないものを映し出す魔法、規模は?」
「規模は人を丸々包めるほどかと、使用回数は3回です」
ダクティーはそう答えると、探偵の方を見た。
「どう思います?」
「窓から透明化で入ったと考えるのが無難だな」
探偵はそう答えを出したが、ダクティーは納得しなかった。
怪しすぎる、金塊の窃盗という大がかりな犯罪をやっておきながら、使ったのは幻影の魔法だけ、しかも簡単にわかってしまう量なのはどうもおかしい。
何より自分と金塊を透明にするだけなら2回で十分だ。
そんなことを考えながら、破られた窓の破片を見て、ダクティーはあることに気が付いた。
「この破片は……」
ガラスの音を聞いて主人が駆け付け、部屋に入ったら金塊は消えていた。
そのことを思い返し、ダクティーは確信した。
「探偵さん」
「どうした?」
ダクティーは息を吸ってからこう答えた。
「犯人を捕まえる方法が分かりました」
探偵はいきなりの発言に戸惑った。
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