第14話惑乱
現実は……とてもまばゆい光を放ち、俺達を見つけるんだ。
どんな小さな罪もかくせないように。
whOlE*lOttA*lOvE
The Doors - People Are Strange (Official Audio)
https://www.youtube.com/watch?v=AgHaGrZkkv4
「ゴメンネ」
俺に並んで右側へ座った教授が力なく言う。
「おい、なんで謝んだよ」
俺の方が慌ててしまった。
「メーワクかけた」
隣に座っているのに声が遠い。さっきの笑顔が嘘のようだ、焦る、鼓動が俺のことを無視して駆けていく。
「な、まって? 教授謝るなよな。俺等友達だし、俺等まだ出逢ってから間もないけどなんでも話せるような仲だし、な、そうだろ?」
慰めたつもりが逆に追い込んだみたいだ、教授は俺の言葉を聞き終える前に膝を立てすねを両手で抱え込んだ。
「オレは隠してたよ、Jのこと」
まるで悪いことを見つかった子供のように小さく、どんどん小さくなっていく教授。
「俺はお前に知られたくなかったんだ」
教授は誰のことも見ずに、それでも誰かにははっきりと告白するみたいに言う。
俺は教授の横顔を覗き見るような姿勢のまま黙るしかなった。
「ね、なんでか、わ……かる?」
立ててる膝に顎を乗せて、教授がクチビルを噛んでいる。
すねを抱え込んでいる両手の指が組んだり外されたりして忙しない。
正直、まださっぱりわからない。
教授の忙しない指の動きはきっと、教授がなにかに焦っているのだろう、とは思わせるけれど、だけど、さっき慌てて失敗した俺は、今度は一生懸命考えを巡らせていた。
そうして、やっと思い出したんだ。
Jとマスターの言葉を思い出したんだ。
そして連想する間もなく教授が俺のことを好きだということを思い出したんだ。
なぜこんな大事なことをふんわりとしか覚えていなかったんだ、俺は俺のことを責めながら、いやそんなことより、本当なの? まさか、だよな?
と、すっかり動揺してしまった。めぐるめく事実、なんて答えればいいだ……どうしよう、という俺だけが知る心情。
沈黙
部屋の空気がゆらゆらと揺らいでる。
俺はだらしなく伸ばしたままの足先を、ただ見ていた。だけど、呼吸が浅くなってきて、ときおり鼻を掠めるあの、あの甘ずっぱい匂いに、俺の中のナニカがカラダの中で大きくなっていく。
苦しい、よ
俺はなぜか泣きたいのを我慢するときみたいな、瞼と鼻と喉の奥のツンとする辛さを感じている。
「ね、ハル。今度は、聞いてくれる?」
教授の声があまりにも凛としていて、俺は慌てて事務的に答えてしまう、
「うん聞くよ、ちゃんと聞く」
俺は思わずためらうことすら忘れてしまって即答していた。
ああね、さっきの紅茶がもうぬるいな……とうっすら思いながら慌ててたっぷりと飲み込むと、さっき飲み込んだときよりも少し苦くなったような気がした。
教授は、組んでいた右手の指先を解いてクチビルに移し、今度は指先でクチビルを弾きだした。さっきと同じ、すねを抱え込んでいるときと同じように、ただただ忙しなく、何度も何度もクチビルを弾くんだ。
「男同士でもSEXするんだって。俺のことがスキだからシたいって、Jが言ったんだ。で、その頃は俺もJのことがス……キだったし」
ハナっから信じちゃいない童話を仕方なく聞くだけの時間、さっぱり教授の顔が見れない、俺は膝に手を置いたまま、教授の声だけを聞いている。
「ヤったんだよ」
自分の膝の上の手の甲の傷を眺めていた俺にもわかった、教授が、クチビルを弾くのをやめたことに。
ヤった……って
教授の話していることが俺には理解できない、複雑だ。
そして、嫌悪感、のようなものと、男同士のSEXへの……妖しい感情を見つける。一瞬のうちに先輩の顔が浮かんだ、でも、カラダノカンケイなんか想像がつかない。
頭の中で厭な音がする、耳なりみたいなモスキート音みたいな、いやもっともっともっと不快で正確で全てを明るみに晒すような威圧感に充ちた音が。
そしてふと浮かべてしまう、Jと教授が抱きあう姿を。そして思わず眼を閉じてしまう、瞼の裏の2人の姿が、俺のカラダを震わせるから。
ねぇ?
喚きちらしたJの姿、俺を赦すように笑う教授。
ねぇ? あんな俺への笑顔がどんな風にJを誘ったの?
俺とよく似ている同じ肉厚のクチビル、よくふざけあって触りあった、そのクチビルが、あのJの口を塞いだの?
妖しい感情が徐々に貌を造影していく。
「ハル、わかる?」
俺はゆっくりと顔をあげて教授のことを見た。
右に傾けた首がきつい、教授の切れ長の眼がキラキラとキレイだ。
泣きそうなの?
教授の視線が俺のクチビルから瞳へと流れる。
その視線にくぎづけの俺は、それを追って、そして、教授と瞳があった。
見たこともないような大人の顔で、俺の知らない教授の顔をして俺のことを見る教授。
『ヤメロよそんな顔』
なぜか俺は怖れるみたいに後ずさりしたくなった。
教授は、またゆっくりと視線を俺のクチビルへ戻し、こう言う。
「ハル、俺はJとSEXした」
と。
その濡れた瞳と言葉に、憑りつかれてしまいそうだ。
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