第12話親友

現実は……とてもまばゆい光を放ち、俺達を見つけるんだ。

どんな小さな罪もかくせないように。


whOlE*lOttA*lOvE

David Bowie - Let's Dance (Official Video)

https://www.youtube.com/watch?v=VbD_kBJc_gI



 アンと俺は支払いを済ませ、マスターに詫びて片づけを手伝った。マスターがJも辛いんだと言い、俺にこう言った。

「お前もね、たぶん、なんとなくでもわかってるならさ、教授と話してやれねーかな」

壁を伝う酒の雫を手で擦りながらマスターが言った。

「な、にを?」

俺は素直に訊いた。

「あーだからさ、奴の、カズキの気持ちとか。あんま人のことに口出ししたくねーが、はたからみても、お前って気ぃもたせてるように見えたし」

「!!」

マスターの言葉で、俺は眩暈がするみたいに体までもがグラグラした。


いったい、ナニが起きているんだ。


俺が、教授に気をもたせてる?

何を言っているの、この人は。

俺等はただ毎日会って、音楽のこと楽器のこと映画のこと、つまんないことを大事に話し合っていただけだ。楽しいというより、安心。そう安心感だよ、教授はあったかいんだ。

俺のことを赦してくれている、こんな俺のことを。俺は教授に赦されている、と感じることができるんだ、赦されるって認めて受け入れてくれるということだよな。

異端、異常、どんな悪意を込めた言葉も、生易しく正当だと思えるくらいに穢れているこんな俺のことを、真っ直ぐ見てくれるんだよ教授は。

父親に対する殺意も、母親への執着も、女に対する嫌悪や男をスキナコトも、全部、そう俺の全部を教授は赦してくれる存在なんだ。

独りで抱えていたオオツ先輩への俺の生身の気持ちも教授には話せた、黙って聞いてくれた。それにね、俺のことを『キレイ』だと言ってくれたんだ。誰にもそんなことを言われたことがないよ俺は。

だけど教授に対して、Jみたいな、強いなにか特別な想いなんて、俺は感じたことはないよ、友達だから。

ないはずだ。



だよな、そうだよな、そうだよ!

そうだよ、俺は教授のことが大事だ、だから会いたいって思えて何時間でもずっと一緒に居たいんだ。

友達だからだよ。


 今すぐ会いたくなった、そして確めたい。教授の気持ちも、俺の気持ちも同じはずなんだから。そうだよ、教授が厭な眼で俺のことを見たとなんかなかっただろ! そうだよ、もしそんななら俺にはわかる、これまであんな視線には気づいてきたんだから。

教授はいつも笑っていた、無邪気に楽しそうに優しく笑うんだ。少し瞳を伏せて笑う、そういう教授の癖も好きだ。考えごとをするときは上下のクチビルを噛む、真っ赤な舌がいつもイチゴを食ったみたいで恥ずかしいと、屈託なく笑っていた。

サラっと、どんなことでも言えてしまう教授。女が苦手で男が好き、そういうことを俺はそのまんまの真っ直ぐな気持ちで、教授といるとなにも気にせずに話せたんだ。教授は俺みたいになりたいって言ったけど、俺はあんなにキレイに笑う奴を見たことなくて……

大事なんだ

……俺、教授のこと、教授のことを大事だと感じている、友達として。そう、親友だから。


Jは勘違いしている、そうだよ、勘違いしているだけだ。教授のことが好きすぎて妬いているだけだよ。


それより、Jのせいで教授は……まだ泣いているかもしれないな。

会いたい、そうだ、会って話すんだ、全て聞いて全てはっきりさせりゃいい。そうして、みんな戻ればいいんだ。はっきりすれば、元に戻れるよ!



……俺はどうかしていた。

なんで、ひとりよがりに考えを走らせてしまったのだろう。このときの俺はほんとうに幼かった。純粋な気持ちが、誰かを傷つけてしまうことがあるなんて、知りもしなかったんだ。

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