第7話内緒

現実は……とてもまばゆい光を放ち、俺達を見つけるんだ。

どんな小さな罪もかくせないように。



 夏、チケットをさばいたにもかかわらず、主催者がライブを中止した。しかも、お金は持ち逃げされた。俺達高校生には、他のバンドの大人達が少しだけお金を返してくれた。

一気にテンションが下がった。

俺にはココしかなかったからね。んで、皆でそのお金を合わせてスタジオを借りまくることにした。

教授と、別のV系の奴等と数人で3日間ドヤドヤとやりまくった。知っている曲知らない曲、それぞれが好き勝手に選曲して無茶苦茶になってもやめないという謎ルール、最高に楽しかった。いつもなら、自分のバンドで歌うときは緊張していたからね。だって、ドラムが明らかに俺のことを馬鹿にしていたし、相当嫌われているみたいだったから。だけどここではふざけて歌って、思いっきり楽しんだ。

帰りはお決まりだ。

知り合いの喫茶店へ行き持込で呑む。好きなアーティストを自慢したり、どっかのバンドマンネタで盛り上がるんだ。

 3日目の最後の日。

いつも一緒の教授が先に帰った。俺には何も告げず。このことがなんかひっかかった。だから、俺は教授とつきあいが長いらしいJに訊いてみた。

Jは少し驚いて、俺が知らないことに驚いて、

「女だよ〜ん」

とふざけながら答えた。

「!!」

驚いた。

教授は、『女は嫌い』だと言っていたから。

俺はそういうことをサラっと言い放った教授だったから、一気に距離を縮めることができて親友になったんだ、と思っていたんだ。

安心感、というのかな。そう、俺は教授にだけは全てを打ち明けていたんだ。

女って、いつの間に?

どうしても信じられなくて、俺に一言もないというのもなんだかおかしいと思ったりして、もやもやとした。

だけど、それからも気になってはいたが、俺からは直接訊きづらくて、あらためて尋ねたりはしなかった。

『言わないのにはきっとワケがあるんだ』

話せるようになるまでなるべく自然に、俺はわざとその日の話題を避けていた。だけど、それが余計に妙な緊張感をもち会話に少しのぎこちなさがあった。はっきりと感じ取るのは難しいはずのぎこちなさ、俺達の間に見えないカーテンが存在する、そんな状態のまま幾日か過ぎた。

 ある日、偶然同じスタジオで同じ時間にあがってガヤガヤと盛り上がり、また皆で呑みに行くことになった。楽しそうな教授のことを見て俺は、もうあの日の話題なんてどうでもいいと思うようになった。

なのに、Jが余計なことをくちばしった。

「で、どーよ教授ぅ、女よかったのぉ? デキルよーになったんだぁ」

明らかに厭な言い方だった。

「――ダマレよ」

俺は思わず俯く教授に気づいて咄嗟にJへ言った。

「へ? なにやきもち?! あ、そーか。やっぱなっ」

Jはやめなかった、それどころか更に声をあげ俺のことを笑い飛ばした。

「やきもちってなんだよっ」

俺はムカついて言い返した。

「とぼけんなぁ〜オメェー。な、教授ぅ、こいつオマエのことマジらしーぞぉ〜どーすんだ~」

Jは教授の肩をグラグラと揺らして、でかい声を張り上げ、ふざけて歌うときのような口調で言う。教授が体ごと少しひいて、俺のことを見た。大きく見開いた眼が、驚くというよりも、なぜか哀しそうに見える。

「やきもち」とか「マジ」だとかそんなのありえないんだ、ときっぱりと否定したいのに俺は、そんなことを言われたことが恥ずかしすぎて、酷く動揺してしまっていた。馬鹿でかい声で笑うJの横で教授は、俺から視線を斜め下に外した。

「ち、ちがうって」

頼りない俺の声は、Jのけたたましい声に消されてしまう。

「教授、来て!」

俺は、教授を外へ連れ出した。

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