第23話とある視点:Part.3

「さァ!ショータイムの始まりだ!」


アイツが10層ボスである巨狼との戦闘が確定したと見た瞬間後ろから大声で叫んでやった。大抵探索者達は今にも始まろうとする場面で気を取られると気が完全に逸らされてミスを犯してしまうのだ。


と言う間にアイツも…ん?驚いてない?あの顔、まるで呆れた様な顔…気付かれていた?まさか…それこそまさかだ。


気付いたなら先回りを許さないはずだ。絶対に何かされるんだから先回りされたと分かれば引き返すか、原因を叩くかするに決まっている。


まさか訳がない。絶対あり得ない。

どんなに上級探索者出会っても不意打ちに強い奴はそうそういない。


だから気配で先回りを警戒するのは当たり前、だから絶対気付いていないはずなんだから!気付いていて無視するなんてあり得ない!


クソッ想定とは違うが、やってやる


「ハッハッハッァー!はじめましてェ!そして、さようならっだ!」


俺が懇意にしている何でも屋で作ってもらったモンスター用のバフもりもりの薬、かけるだけで効果のある優秀な薬だ。まァ本来の用途はテイムモンスター用だがなァ!


パリィン


巨狼の身体に液体がかかるとほんのりと色のついた煙が纏わりつく。


「残念だったなァ!ソイツはもうただの巨狼じゃなくなったぞ!そしてェ!ここからは俺も参戦だァ!巨狼じゃねぇぞォ?オマエとだァ!」


「ハァ〜ァ〜ず〜と後ろについてな〜んかしてるなぁって思ってたらそんなしょ〜も無い事だったか〜。もしかして〜と思った自分が恥ずかしいよ。」


「ハァ?何言ってんだオメェ?何故この状況でそんなヨユ〜でいられる?巨狼は雑魚でも俺がおまけでついてりゃテメェは終わりだろゥがよォ!」


「悲しきかな。無知と言うのは…さて、ここからは俺の出番じゃないな。お前の出番だ。」


「アァン?何言ってんだ?って何回言わせんだオメェよォ?この状況でトチ狂ったかァ?」


「いやいや、お前何故バフ盛った巨狼がずっと同じ位置にいると思う?状況が見えてないのはお前さんの方だよぉ?少しは生きてる内に頭使わないと勿体無いよ。」


「ハァ?……!」


いや、待て。確かにそうだ。何故動かん?いくら頭が良いとはいえここまで様子見するか?狼が?

何か……何かが可笑しい。


はっ!アイツはっ!

しまった!目を離した隙に消えt


バキィ!


「ガァッッッ!クソがァ!」


やられた!一瞬の隙を突いて後ろに回られた!クソッ!一瞬早く気付いて体制を変えたとはいえモロに蹴りを喰らってしまった。

低い体制にしようとしたおかげで少しはマシな所に当たったが、イテェ…


!?

後ろに回られたコイツに目を取られて忘れかけたが、ここには巨狼が居やがるんだ。呑気にコイツを警戒するべきじゃねェ。コイツ自身の戦闘能力はまだ完璧に知ったわけじゃないが、今警戒すべきは巨狼だ。


だが、何故コイツは後ろに回った?何がしたい?しかも蹴りをしただけでその場に立ち尽くして…何だ…何かが可笑しい…


ガァァァァッッッ!


「ッ!?クソがッ!?」


畜生!やっぱり居たかッ子分の狼!だが、俺は人の道を外れたとはいえ、長年探索者やってきてるんだ。こいつら程度朝飯前だ!


ギャン!


左右から飛び出して来た狼をしゃがんで前に出て首を切る。俺の短剣では首を完全に切る事は出来ないが致命傷を与える事は簡単だ。

巨狼程度俺にかかれば楽勝なんだよ!残念だったなァ!


って思ってた直後、奥の方からとんでもない魔力と殺気が飛んできた。


「ッ!?な、なんだ!?」


グルルルッ!


巨狼も後方を向いて威嚇しているが心無しか後退りしているようにも見える。

巨狼が後退り…?

このダンジョンは全階層30階はあるが10階層にダンジョンボスクラスが居るというビギナーダンジョンの最終関門であるいやらしいダンジョンなのだ。

だから本当のダンジョンボスと同格の巨狼がこのダンジョン内のモンスターに対して後退りする事はあり得ないのだ。


何だ……何なんだ?

そこに居るのは……何なんだ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る