第16話 視点:ギルマスofアキバダンジョン後編
(相手に技を出させない為には手数で攻めるのが一番効率的かつ効果的だ。大技は当然としてある程度強力な技はどれだけ簡素に撃とうとも少しの溜めが必要だろうて。もし、すぐ出せるのはそれはこちらでも対処可能な技ということ。正直こやつにでかい攻撃を撃たせてはいけないと本能が警告しておる。)
一気に懐近くまで近付いた北斎は怒涛の連撃を仕掛け始めた。右や左に、相手に隙を与えない様に暇なく剣撃を与えていく。ただこの連撃は無視出来ないデメリットを抱えている。
「ほっ!」
右足を踏み込み連撃の中にも重い一撃を混ぜてみる。
「おっと、攻めるねぇ。お身体は大丈夫なのかい?おじいさん」
相手を驚かせる事は出来てもバランスをほんのちょっと崩す事も出来ない。相手も隙を見せてはくれない。
「ほっほっほっ、心配はご無用じゃよ。こう見えても定期的にダンジョンに潜っておるし、毎日鍛錬も欠かしたことはないのじゃよ。」
連撃はスタミナとの勝負でもある。スタミナが切れてこの連撃が止まったり、遅くなったりした途端わしは案山子に成り果てる。
「元気なようで何よりですね。おじいさんはいつまでも元気でいて欲しいものですね。」
「はん、よく言うわい。どうせ次世代になったら口止めができるかわからなくなるからじゃろがい。見え見えじゃな。」
「はっはっはぁー」
そう、この手数による連撃のデメリットは、『弱い』と言う事だ。一つ一つの威力は『弱い』、どれだけタイミングや攻撃の重さでフェイント掛けても『弱く』て相手は崩れない。
そして恐らく一番『弱い』と思える要素が、スタミナだ。どれだけ連撃を与えてもスタミナが切れて止まったり遅くなったりしたら隙だらけだ。
だが、それでも大技を撃たれなければ、相手の隙を誘発しやすくなると思い続けてゆく。
こうして話している間でも何度も刀を合わせている。キィンカァンと刀の鉄と鉄が合わさる綺麗な音が鳴り響いている。
(先程から刀を合わせているのに合わさった感触が薄い。これは最初の真向斬りを流した技だろう。不安要素じゃな。なにか…何か…このまま続けてはならんと感じてしまうのは何故じゃろうか。)
このままじゃいかんと、再度タイミングをずらす様に踏み込んで重い一撃を食らわせようと動いた手前……
カァァァァァン
重い一撃を与えようと体制を立て直しながら斬った一撃を狙われて弾かれたせいで体制が崩れ、気がそれてしまう。
うぬっ!またもや!出しぬk…!?
あやつが後ろに飛び退いた瞬間先程の魔力の飛ぶ斬撃が連続して襲い掛かってきた。ほぼ感に近い物だがわしは感を……間違えた事は…無い!
「なぬっ!?」
「今日は今まで言った事ない数、驚きの言葉を言ったんじゃないのか!?さっきから『ぬ』ばっかりしか言ってないぞ!」
「バカを言え!こんなの楽勝じゃわい!」
これは避けられぬと判断したわしは今までやった事が少ないが刀に魔力を通して、来たる飛ぶ斬撃を受け止めていく。
(一閃でも受け止めきれなければやられる!?)
先程よりも重く綺麗な金属を打つ音が部屋に響く。一撃一撃が重く速い。北斎はギリギリ、間一髪自身に届く斬撃を弾いていく。
だがすべて弾けているわけではなく、軽く薙ぐ程度の斬撃を無視している為服や皮膚が傷付いていってしまう。
(こ、このままでは…自分で行おうとした戦略をその上を行く技術によって上書きされているではないか!?いかん、これではいかん!だが、今は防ぐ事しか出来ぬ!)
北斎は必死になって刀を振るう。刀の振るう向き、振るう力、通した魔力の強さ、スタミナ、どれが欠けてもこの飛ぶ斬撃を捌けない。
この攻撃は刃を潰した刀であっても魔力を通した刀から離れた『斬撃』なのだ。
刀の刃の有無など関係無い。全ての斬撃には殺傷力がある。
(魔力を通して撃つ飛ぶ斬撃…一度撃つだけならわしでもかろうじて出来るかもしれぬが、付け焼き刃、見ただけでやった物がこの攻撃を上回る事などあり得ぬだろう。攻撃に転ずる事は出来ぬ…か。ならば限界まで防いでみようではないか!)
「!?」
フェイント!?殆ど同時に撃たれた2つの斬撃をギリギリで弾いたが、片方は存在しない物だった。
こ、これも上回る技術で上書きするのか!?当て付けなのか!?
こやつにわしは勝てぬ、そう確信したがここまで離れてると思っていなかったが
、時間が経つにつれ、あやつと戦っているとわかってくる。どんどんと離れてゆくあやつが…
(いくらなんでも!いくらなんでも!離れ過ぎだろう!ここまでだとは思ってなかった。だからこやつはあの取引を望んだのか…分かる、今なら分かる。あの取引をした理由が…あの実力を上の者が知ったら、こやつの実力を、実力だけを利用するとな。)
「さあ!受けてみろ!爺さん!」
あやつが刀を構え直す。上段へと、何か大技を繰り出そうと、刀を構え直した。と思った瞬間、
「なんじゃと!?」
今まで見えていなかった斬撃とは比にならない位の魔力が刀に乗り、刀を振るった途端刀が銀色に輝いた。そして白銀の大きな斬撃が繰り出された。
(これは!受けたらまずい!避けねば!)
と左へ飛ぼうとした途端殺気を感じ飛びのけなかった。
(逃さぬつもりか!確かに逃げられぬ。避けた瞬間確実に今までに比にならない量の斬撃に晒されることになる。魔力の動きが尋常では無い。あれでも手加減していたと言うのか!?とんでもないな!?)
(それなら受けてやろう!やってやろうではないか!)
わしに出来る限界の魔力を刀に流し、正面に構える。薄く青白い光が刀に宿る。これを受け止めきれなかったら命は無いだろう。
「はぁぁぁあああああ!」
気合を入れて上段から刀を振り下ろす!
(だが、これをずっと受け止めていたら刀の方が保たぬ!どうする!受け止めた以上ここから動けぬし、これも弾けぬ。いや、弾くしかあるまい、弾かなければ死あるのみ。わしなら、わしなら出来る!そう思わなければいけない気がしてならぬ。)
「ぬっ、ぬぬぬっ!」
徐々に徐々に後ろに足が滑っていく、床に足の跡が付いていく。
出すつもりは無くても口から声が漏れてしまう。
目の前にあるから分かる、この斬撃からとてつもなく大きい魔力を感じる。わしには到底追いつけないレベルの魔力を感じてしまう。
消す事は出来ないと確信出来たせいで、弾く事も出来ないのではないかと思ってしまう。
刀から火花が飛んでいく、刀は刃を潰してあっても鉄は鉄だ。一点をずっと酷使し続けたら刀が折れる可能性も出てくる。
早い所決着を付けなきゃ武器の耐久が無くなってしまう。弾いたら終わりだ。わしの負けを認めようではないか。それにしても強い…重い…
「ぐっぬっぬぬ」
どうにか、どうにかせんと、いや、待て、ちょっと刀の位置をずらしてこの斬撃の流れる力を逸らしてやれば弾けるのではないか?
やってみるしかあるまいて
「ぬぅぅう!」
体を少し落として刀の向きを縦から斜めに動かす。そして少しだけ流す様に自身の力の方向を変える。真正面からでなくちょっとだけ身体をずらして対応する。
びくともしなかった斬撃が少しずつではあるが右にずれていく、もう少し、もう少しとずらしていく。
「ぬおおっ!」
ズカァァアアン!
と背後でなる音を気にしている暇もなく身体が疲弊した北斎は息も絶え絶えに地面に座り込んだ。
そして目の前まで歩いてきた相手に向かってこう言った。
「ハァハァ…お主の勝ちじゃ。良い試合であった。」
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