第15話 視点:ギルマスofアキバダンジョン前編

第二試験場で追加試験を望む者が居るとわしの部下である城之内から聞いて見に来たが、確かにこやつの刀の才は相当なものだ。


恐らくになるがコヤツはこの三回の試験では一欠片も実力を見せて無いだろう。同じか少し工夫している技しか出してないのだろうて。

正直、見事であるとしか言えない。執拗に首を狙っているのは固執していると言うより確実で楽なのだろう。


通常首を切ると言うのはある程度の技量が離れていないと難しい事なのだ。魔物は人間の殺気をある程度察知して避ける事はする、下手な人間より殺気の察知は上だ。つまり初心者が魔物の首を切ろうとしても、どうしても魔物自身が横に移動した人間に目線を移動させて首が動いてしまう。


魔物は理性がなくても本能はある。そう易々と殺されてはくれない。最後の最後まで抗って来る。


だから全部首だけ刈って倒すと言うのは相当な実力の保持者なのだ。

これは、確かめて見るしかなかろうて。




こうやって立ち会うだけでわかる、わかってしまう。こやつはとてつもなく強い。実力は底知れないので判断つかぬが此奴の立ち方、所作で技量も兼ね備えておるだろう。これは試験とはいえ舐めてかかっては、つまらぬな。


絶対に逃してはならないワクワクしそうな戦いじゃな。


「やあやあ、すごい実力を持っておるのう。どうじゃ?わしと力試しをしないか?」


「おやおや、いきなりか。爺さんはいつから常識を忘れてきたんだい?家に置き忘れたのか、過去に置いてきたのか、どっちなのかな?」


誰がボケ老人じゃ!誰が!わしはまだまだ現役じゃい!


「ほっほっほっ、確かに失礼だったわい。まずは自己紹介からだったのう。わしの名は、北斎 一閃と言う。よろしくのう。」


この感じならある程度のことは流してくれそうじゃし早速言ってみるかの。どうせこの手合わせは第五試験になるんじゃからの。こういう強引なやり方は好かんが手合わせするにはこうするしかないしのう。


「それでのぅ。わしから提案があるのじゃが。聞いてくれるかの?」



こうして交渉の末、わしと手合わせしてもらえるようになったわい。

一見楽そうな交渉内容じゃが、色々厄介な事になりそうな案件じゃわい。わしがギルマスではなかったらかなわぬものであったな。


それにしても楽しみじゃわい!久方振りの強者との立会い!何年ぶり…いや、何十年振りかのう。これは楽しまなければそんじゃ!


おっと、カメラを止めるんじゃったな。ずっと見て、聞いていたわしの部下に軽く手で合図を出す。要請通りに行えと。


すると見えにくい位置に存在するカメラの電源マークが消える。

ふむ、これでお互い心置き無く戦えるというわけじゃなきゃ。


「さて、カメラも止めさせてもらった。そろそろ始めても宜しいかの?それとも何かしたいこと、欲しいものはあるかな?」


「いんや、大丈夫だ。始めてもオーケーだ。」


「宜しい、では、このコインが床に落ちたら開始じゃ。行くぞ!」


そして、右手に持っていたコインを空高く打ち上げる。


カァンと地面にコインが落ちた瞬間、時が止まった。

かのように、お互い即座に刀を抜いた二人がその場で動かなくなったのだ。


(こやつ、隙を己自身でわざと作って、あからさまに見せておる。下手に突っ込んでも確実に防がれるか、手痛い反撃が来る事だろう。やはりこやつと手合わせしてよかったわい。何年振りかのこの戦いの高揚感…本当に久しぶりじゃ…)


先に動いたのはこちらの方だった。


「(こんな楽しそうな事を前にじっとなどしておられるか!)こちらから行かせてもらうぞ!」


「来るか!」


思い切り踏み込み、地面を壊す勢いで蹴る。そして刀を上段に構え、真向斬りを仕掛ける体勢で飛び出したわしはそのまなんのフェイントも無く真向斬りを繰り出した。真向斬りは対応に遅れれば鍔迫り合いになり、上段から仕掛けたわしが有利になる様になっている。


力で負けていてもある程度離れていなければ相手の体力を削れると言うものだ。


「せいっ!」


!?よっ避けっっ!?


キィイイイイイン


なぬっ!?避けた上に刀の軌道をそらしおったじゃと!?避けるだけならまだしも、避けた上で振り下ろしている最中に刀の刃先をなぞる様に、そしてわしの動きと合わせて、こちらの力も利用してコヤツにとっては奥に、わしにとっては横に動かして行く。


こうなると左に軌道を変える事は出来ぬし、コヤツの次来る攻撃に対処が出来ぬ。そう考えたわしは刀の動きは流れに任せて、足に力をいれて後ろに飛ぶ。その判断は間違ってはいなかった。


わしの刀の動きを流したこやつの刀が、クルッと刃先がこちらを向いて斜め下から逆袈裟斬りが繰り出されそうになっていた。危ない、あのまま追撃に走っていたら手痛いダメージを食らっていただろうな。


「次は、こっちの番だな!」


「ぬっ!?」妙な魔力の流れ!?そして何か風切る音?こ、これは!魔力による斬撃か!?飛んで来てるのか!?


よ、避けるしかあるまいて!!



絶対に届かないと感じる場所まで飛んだように横に避ける。魔力による飛ぶ斬撃は流石に対処するには骨が折れる。魔力をある程度しっかり感知してわしがあやつより魔力が高く刀に纏わせれば、魔力斬撃を霧散できるが逆もまた然り、魔力が負ければ斬撃による大ダメージを受けただろう。


(魔力の斬撃、それも飛ぶ斬撃!これは…相当、想像以上の実力じゃ…剣鬼と呼ばれたわしが見えるこやつの実力なんて足元にも満たないんじゃないか?……いや、そこまで掛け離れている訳……兎に角、わしはこやつに勝てぬな。それでも、やれるとこまでやるまでじゃ!)

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