第6話 生意気な二条?

 突然けたたましい声が部屋中に響き渡る。

「なになに!?暴動!?」

 覚め切ってないアタシの脳みそは視界をぐわんぐわんさせる。

 霞んだ目で部屋の周辺を見渡すも誰もいない。

 気付くとその声の正体はアタシのすぐ隣だった。

 早見さんから聞こえる洋楽の歌声は、どうやらアラームだったみたい。

「早見さんスマホ鳴ってますよ」

 ゆさゆさと体を揺らすと眉間にシワを寄せ、目がほんの少し開いた。

「んんー?」

「この歌を止めてくださいー」

 早くこの暴動を押さえてほしい。それが出来るのは早見さんだけなのだから。

 ロック?メタル?そんな激しい歌声は、朝からキツイものがある。

「やっ!まだママと寝るの~……」

 寝ぼけているのかアタシの腰に抱き着いては、甘えた声で我儘を言ってくる。

 しょ、しょうがないなぁ~?じゃあ後5分だけだよ?

 アタシは早見さんと向かい合わせになるように再び布団に寝転んだ。

 その柔らかい寝顔がどうしようもなく可愛くて、つい観察を始めてしまう。

 ◎!△$♪?!~!?

 綺麗な肌に、長いまつ毛。

 ♪?!~※□◇!!!!

 小さな鼻に、潤んだ唇。

 △※◇◎!$□♪?!!

 ……いや、うるせぇな外人!

 アタシは手探りで早見さんでは押さえられなかった外人の暴動を止めようとした。

 これがスカジャンのポケットでしょぉ?ないなぁ、ズボンかな?

 手の感覚だけでスマホを探す。もぞもぞ、べたべたと早見さんの服に手を入れては引っ込めてを繰り返す。

 ようやく手に固い感触を感じる。触った感じスマホに間違いなかった。

 お尻のポケットに入れてたかぁ、ちょっと失礼しますよっと。

 アタシは更に早見さんに密着してお尻のポケットに手を突っ込んだ。


「……」

「……」


 目が合う。

 誰となんか言わなくても、ここにいるのはアタシと早見さんだけ。


「おい変態、2秒やるから納得出来る言い訳を言ってみろ」

「雷花ちゃんがまだママと寝たい!って駄々こねるから!」

「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ!んな事言ってねぇよ!!」

 言ったよ!!すっごい甘えた声で「ママと離れたくない!ママと寝る!」って言ったじゃん!!

 !※♪WAKE?□◇U~P!!

 あ、今のは聞き取れたかも。

「ほら!外人も起きてって言ってるよ!雷花ちゃんもおっきしなきゃダメでしょ!」

 勢いでなんとかならないでしょうか?

「お前がまず、オレのケツから手をどかせ!!」

 早見さんの頭突きが容赦なくアタシのおでこにヒットする。





「早見さぁん、たんこぶなってませんかぁ?」

 アタシは熱くなったおでこを擦っていると、早見さんはビニール袋にゴミを雑に突っ込みながら「知らねぇよ!」と怒りの感情を背中の虎が代弁する。

「別に片付けは後でアタシがしますよ?」

「いいって。多分オレが汚したんだろ?ならオレがやるよ」

 律儀だなぁ、とアタシは少し驚いた。

 見た目だけならアタシは、悪い方へ考えてしまっていたのに、たった1日でほとんどの事が覆されていった。

 これが人は見た目にあらずって事か。


「じゃあ……世話、かけたな」

「いえ全然大丈夫ですよ」

 早見さんは照れくさそうにしてドアを開ける。朝日が差し込み、アタシは目を細める。

「……おはようございます」

「……」

「おぉっ碧は学校か!」

 ドアを開けると隣から碧ちゃんがタイミングよく出て来た。

 早見さんは全然普通なのは分かるけれど、こちらは少し気まずく感じてしまう。

 昨夜碧ちゃんが最後に向けたあの眼つき。アタシはそれを思い出しては、体が固まり挨拶出来ずにいた。

「つかさ?」

「どしたぁ?」

「あっううん!おはよっ碧ちゃん!」

「おはようございます……お二人は本当に仲良しですね。もうお泊りをしてしまうなんて」


 碧ちゃんの視線はアタシから早見さん、またアタシへと視線が戻る。

 いつもの冷たい目に見られると、アタシは目を逸らしてしまう。

「えぇと早見さんが酔って寝ちゃって、仕方なく?」

「そうですか。ですがもう少し静かにしてもらえると助かります。朝からも随分にぎやかでしたね。外人さんも呼んでました?」

 いやそれは早見さんのアラームです。


「碧ちゃん、あの、昨日は酷い事言って、ごめん」

 アタシは何度この子に頭を下げただろう?自分では結構頑固な一面があると思っているのだが、何故か碧ちゃんには素直に謝まる事が出来てしまう。

 会った時から格付けが完了されていて、アタシはそれを無意識に受け入れてしまったのかもしれない。


「いえ、昨日は私も少し、大人げなかったです。すみません」

 は?今、大人げなかったって言った?年下の碧ちゃんが言うセリフじゃあ、ないでしょ?

 物申したいアタシに気付いた碧ちゃんは人を煽るような目で笑った。

「サメのパンツを穿く19歳は、まだまだ大人とは思えないですから」


 んぐぅっ!確かにそうかもしれないけど!そうだけども……まっいっか。

 機嫌を直してくれただけでアタシは一安心だ。

 これが大人の余裕という奴だよ?


「では私は学校へ行きますので、ここで失礼します」

「うん、気を付けてね」

 アタシは手を振り、碧ちゃんの背中を見送った。


「おい」

「はい?」

 そうだ、早見さんが居たんだった。静かすぎて存在を忘れていた。

「お前ほんとに何したんだ?」

 今までで一番真面目な顔で、どこか怒っている様にも見えた。

「別に特別何かをしたとは思ってないですけど」

「じゃあなんで碧はあんなに喋って、あんな顔をするんだ?」

 早見さんはアタシの胸倉を掴んで、ぷるぷると体を震わせながら必死に背伸びする。

 大体何故そんな事で早見さんはこれほど慌てているのか、碧ちゃんにおかしな点はなかったはずだ。


「アタシから見たらいつも通りでしたよ?」

「いつも通り?あんなに長く喋って、あんな顔をするのを何度も見てるって事かよ?」

「はい……」

 胸倉を掴んだその手はだらんと落ちた。

 この世界に絶望したって表情から、一気に有名なお寺になどにある銅像の様な顔に変わった。

「信じられるか!ふざけんなっ!!」

 早見さんは罵声を上げ、どこかに走ってしまった。



「……もしかして、東京って変な人多い?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る