第二十七話 伯爵と子爵と居残りアンジェ

 イリスは、本隊と別れてようやく家に着いた時には、日が暮れようとしていた。

 飛ばす事、2日半と馬の休息以外は駆けてきたのに、

「イステリスお嬢様、戻られてきたのですか?

 ご連絡もありませんでしたが、何事かございましたのでしょうか?」

 家の者たちもビックリしている。

「旦那様と、奥様でしたら、まだ部屋でお話をされている所です。」

「分かったは、ありがとう。馬をお願いするわ。」


「お父様、お母様、 只今戻りました。」

「イステリスなのか。どうして此処に戻ってきたのだ。

 リヒタル子爵で何かあったのか?」

 お父様(カルメン男爵)は、知らせもなく帰ってきた娘に次々と言葉をかける。

「お父様、私はアゼリアへ向かう途中でして、リヒタル閣下のお計らいで里帰りをしてくるようにと。」ということにした。

「まあ、久しぶりですね。

 子爵様へは、改めてお礼を申し上げましょう。」

「で、何用でアゼリアへ。」

「お父様にも、ご連絡が来ているのではないでしょうか?

 詳しくは、知らされていませんので分かりかねますが。

 それと、お兄様はどちらへおられるのですか?」

「そうか、私も明日にここを発つところでな。

 ヴァーゼルに、留守を任せるから準備に追われているだろう。」

「では、私もご一緒して明日は向かいたいと思います。」

「もう、私を無視して話をして、バルム領都や向こうでの事を色々と聞かせてほしいわ。」

「全く、大事な話をしているのに、仕方ないな。

 イステリスよ、今宵は母の相手をしてやるがよい。

 また、暫くは顔を見ることが叶わないであろう。」

 お父様は、支度の為か先に部屋を出ていった。


 翌朝は、中々に話をし過ぎたのか少し眠気を我慢しながら、馬車に乗り込むと

「お母様、お兄様、お元気で。」

「気を付けて行くのですよ。」

「あぁ、任せておけ、お前も気を付けてな。

 ついでに、父様も頼む。」

 出発した馬車の中で、

「ついでとは、全く。最近はどうも・・・」

 とお兄様の余計な一言でぞんざいな扱いをされブツブツと文句を言っている。


 ※ ※ ※ ※

 エドワード一行は、アゼリア要塞へ到着しハイド伯へ面会の通していた。

「マクミラン、此処では何も起こらないと思うが、列席する者たちの注意は怠らぬように。」

「エドワード閣下、お任せを、と言っても殆どが身内なのですからそこまで、用心する事も無いでしょう。」

「その、意外にもしかしたらがいないかと言っている。」

「マクミラン、閣下の仰る通りですよ。

 伯や将軍達以外の者たちには、注意をしておく必要がる。」

 カミラが言葉を挟むと

『コンコン』

「ハイド伯爵様が、お会いするとお呼びになっております。

 リヒタル子爵様、ご案内いたします。」

「マクミラン、カミラは今のうちに、ゆっくりしておけ。

 すぐに、戻る。」

 エドワードが、部屋を後にすると、

「俺たちだけ、ゆっくりする訳にもいくまい、護衛の者にも一息つくように言ってくる。

 エリスは、こっちに呼んでくる。」

「ああ、任せるよ。私は、今回の件について、少し考えているよ。」


「ハイド閣下、参上いたしました。」

「久しいな。しかし、ここに他の者はいないのだ。

 セルシとは呼んでくれ。自領ではフランクにしているのに、外面はいかがなものかな。」

「参ったな、セシルよ。

 しかし、今回は急な呼び出しとわ。お前のところだけじゃ難しい案件か?」

「モルドレッド爺さん(ウィルビス候)が、王命をこちらに回してきてな。

 そこで、皆で相談と行こうではないかと・・・。」

「そうか、そうか、敵兵を丸投げしてきたか。

 全く、昔からそうだった。まあ、爺様のおかげで、直接ここには来ないが、結果が同じなんだよな。」

「全くだ。叔父でなければ、お断りしたい。知恵のついた筋肉には、手が付けられない。」

「くくく、あ~はっはっはっ。」

「エド?急に、どうした。」

「いやいや、家のアンジェもな、マクミランに筋肉と言って扱かれてな。

 最近の流行りなのか?」

「アンジェか、大きくなったのであろうなあ。

 早く、後継ぎを作らないか。モルドレッド爺さんも俺の方でも、迎え入れるぞ。

 アンジェのあの髪に瞳は、何物にも変えられないしな。」

「いや、家の跡継ぎは、アンジェにしようと言ってある。

 授かれば、それに越したことは、無いがな。

 アンジェは候や伯の奥方にはおさまらない・かもしれない。」

「なんだそれは。其のうちに、分かるだろうさ。

 さて、従兄の顔も拝んだことだし、戻るとしようかね。」

「おいおい、拝むなよ。

 まだ生きてるんだがね。それに、アンジェにって、外に出せない程、残念なのか?

 そうなのか。

 噂は、本当だったのかぁ。残念だ。気を、落とすなよ。」

「家の子に、残念って酷くない。まあ、ホント近いうちに分かるさ。」

「分かったよ。

 明日くらいには、揃うだろう。明後日には、始めようと思う。」

「了解した。

 ではな、終わったら一杯どうだ。」

「ああ、勿論だ。」


 ※ ※ ※ ※

 その数日前の頃、アンジェは

「ほらほら、サッサと行くわよ。」

「アンジェ様、押さないで~。

 まだ、ロッテがそこに・・・」

『バタン』

「あらあら、元気な事で、アニーとミリーを連れてどちらへ?」

「もう、ばれたら仕方がないわ。

 ロッテ様、見逃してください!少し、街へ行って、少し用事を済ませたら、大急ぎで戻ってくるから。」

 両膝をつき、手を合わせて懇願する。

「アンジェ様、それはいけませんわ。

 アニー、ミリーも止めなさい。

 全く、何をされているのです。幾ら、ダメと言われるかとその様な態度はいけません。

 モーラもいるのでしょう。お説教です!」

 ロッテが凄い顔で、怒っている。

 その日、部屋から出る事も無くロッテ直々の説教を受け、アニー達は、倍の仕事を指示されていた。


 翌日、アニー達を連れてロッテが、街へ出かけて行った。

「それでは、行ってきますね。」

「分かったわ。ロッテ。お願いね。」

「お任せくださいませ。」

 アンジェは、4人を見送ると、

「今日は、私の邪魔をする者は誰もいないのね。じ ゆ う だぁ~。」

 心から喜びの表現をするアンジェに、背後から

「さあ、アンジェ。

 私とお話をいたしましょう。」

 あれれ、お母様がいるわ。

「昨日の事、報告は受けているわ。

 十分に時間はあるのよね。しっかりと、お話を致しましょうね。」

 おろろ、お母様の顔も凄く怒っている。

「違うのよ。お母様、落ち着いてください。

 ロッテも、すこーし、大げさに言ったみたいな?」

(なぜ、ここで疑問形なんだ。

 回避方法はないの。)

「そうね、少し過少報告をしたようね。

 こちらへ、いらっしゃい。 早く!」

「ひっ。」

(しっかり、絞られて来い。

 ノブの裏切者、誰のせいよ。何でわたくしが。

 またかよ、アンジェがやったことだろ。有罪だ。)

 ロッテが、夕方前に戻ってくるまで、温厚なステフはアンジェを教育という監獄につなぎ延々とお叱りを受けた。


 解放されて、食後にロッテ達から

「アンジェ様、本日は充実した時間をお過ごしできましたでしょうか?」

「ええ、そりゃもう大変で、有用な時間でしたわよ。」

 ニコニコするロッテ達に

「それで、どうでしたの。」

「もちろん、首尾は上々でしたわ。

 皆さま、喜んで参加して頂きますとご両親の方々も言っておられました。」

「ホントに、ホント。」

「嘘を付いて何になるのですか。お任せくださいとお伝えしたでしょう。」

 ロッテからの返事に、疲れ果てた体に力が戻ってくる感じがした。

「アンジェ様、こちらはお返事のお手紙とお土産ですよ。」

 アニーから、手紙を受け取ると友達の名前が入った便箋に短い言葉で、

〈ご招待 謹んでお受けいたします。〉

「ありがとう。ロッテ。ありがとう。アニー。

 でも、あの子たちって、字は書けなかったと思うのだけど。」

「私たちで、名前と簡単な返事の書き方を教えて来ました。

 アンジェ様より、優秀かもしれませんね。」

 ミリーもモーラも満足そうに話してくれた。

「それと、こちらは市場で買ってきた果物と焼き菓子になります。

 ゆっくりと、食べてくださいね。」

 ぽたっ ぽたっ と、

 アンジェの頬を涙がこぼれる。

 アンジェは、笑顔がくしゃくしゃになりながら、

「ありがとう。凄く楽しみだわ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る