第二十六話 悩むアンジェは、何をする

 翌朝、ステフとアンジェ達は、エドの見送りに出ていた。

「エド、気を付けて。」

「ステフ、道中は大丈夫だよ。気がかりなのは、アンジェだ。

 妙に、大人しく引き下がったからな。」

 マクミランやエリアとイリスに、挨拶をしているアンジェを眺めるエド。

 それから、

「アンジェ、私には何もないのか?

 暫く、会えないというのに。団長たちには話していたのに。」

 何やら、面倒くさい父になっている。

「お父様、行ってらっしゃいませ。

 お母様と無事なお帰りを、お待ちしています。」

「それだけなのか?」

(なんじゃこれは。異常にかまってちゃん、に逆行してないか?

 お父様は、寂しいのよ。

 いやいや、これでも当主だろ。)


 お父様の、出発を見届けるとアンジェは

「お母様、久しぶりにお茶でもご一緒に、いかがかしら。」

 笑いかけるアンジェにお母様も頷くと、

「そうね。最近は騒がしかったから、ゆっくりお話しをする事も無かったわね。

 ロッテ、準備をお願いしていいかしら。」

「ステフ様、畏まりました。」

 と揃って、家に戻る。


 エド達は、出発後は途中の村で休息と補給をしながらアゼリアへと向かう。

 イリスは、途中で実家へ行くことになっているので、一時離れることになった。

 アンジェから、帰ったら1通は読むようにと、手紙は2通あり番号が書いてあったが、

『アンジェ様は、何をお考えなのだろう。』と久しぶりに家に帰れるせいか緩む顔を引き締めようと必死だった。


(なあ、アンジェ~、もう程々にしてのんびりやろうよ。

 ノブはいいわね。いつも、呑気にしていて。

 あの手紙もやり過ぎなんだよ。急に変わりすぎ出し、読みも分からなくもないが、それは大人の仕事だろ。あれも、これも口出して不自然でしょうがないよ。

 ノブ達の記憶は、私には知らない事ばかりで、ショックだったわ。でも、初めは、何かの役に立てればくらいに思っていの。だけどね、『もし』って考えたら、まだお父様たちが気づいていなかったら、早く対応した方が良いとも思って・・・

 アンジェが悩んだのもそのせいなんだな。これは、どうにもならないけど、前に言っていたね、『後悔は、したくない。』って。僕には、記憶があっても戦いはなかったから、『もし』が理解はできるけど、分かったとは言い切れないよ。でも、エドとステフの子供でこれからも、それは変わらない。今は、子供なんだ、それで十分じゃないか。

 ノブ、ヨーゼフもこれを最後にして、暫くは自分の事をやろうかしら。そうね、ゆっくり大人になるのも悪くないかも。時間は、まだあるしゆっくり考えてみようかしら。それに、お父様の居ない、今ならやりたいことができるわ。)


「アンジェ、アンジェ。アンジェ・・・」

 お母様の声も届かない程、妄想の中にいるアンジェは、ようやく現実世界へ帰還した。

「あら、お母様?どうなさったのです。」

 ロッテが、

「アンジェ様、心ここにあらずと言いますが、何をお思いになられていたのですか。」

「私、そんなに考え込んでいたかしら?

 お父様たちの事や街の皆の事を考えていたわ。こんな、日がずっと続いたらいいのに。」

 二階のバルコニーから、街へ空へと眺めながらお母様とロッテを見る。

「アンジェ、今度はどうしたの?そんなに私たちを、見つめて。」

「本当に、可笑しなアンジェ様ですね。」

 2人が話している、笑っている姿を見て、

「お母様、ロッテもありがとう。」

「アンジェ、急にどうしたの?何所か具合でも悪いのかしら?」

「アンジェ様、今日はお加減が優れないのでしょうか?」

「いいえ、いつも感謝しておりますわ。私のやることを見守っていてくれて、帰る場所があるって素敵な事ね。」

(アンジェ、ありがとう。我らが、最後に伝えたかった言葉を叶えてくれて。

 ヨーゼフ、私の心からの想いでもあるのよ。貴方たち、3番レノム 4番ザム 5番シュトルツ 6番セルゲイ 7番トゥグルデル 8番凪  9番仙次郎かぁ。この不幸公者どもよ、心から感謝するがよい。

 また、調子に乗りやがったな。)


「アンジェ、また黙ってしまって。」

「今からアンジェに戻りますわ。」

「また、変なことを言って、皆を困らせてはなりませんわよ。」

 お母様とロッテの視線が痛い。

「まあ、いいでしょ。まだ3年は遊んでいたいわ。

 それじゃ、やりたいことがあるの?

 街に行けないから、友達を招待していいかしら。」

「友達って、街の子でしょう。アンジェが良くても、その子たちが困るでしょう。」

「ん~、招待してみてから、考えるわ。友達は、良くてもそのご両親がなにを思うかは、何んとなく想像がつくわ。」

 ロッテが、

「まあ、アンジェ様が、他人のお気持ちがわかるなんて。夢でも見ているようですわ。」

「まぁ、ロッテたら失礼ね。立派な淑女に向かって何を仰っているのかしら?」

 アンジェは、わざとらしく手を頬にあてると、首をかしげながらロッテを見る。

「あらあら、アンジェの仕草がわざと・・・幼く見えて、まだまだ子供のままだわ~。」

「んん、お母様まで、今なんと・・・。」

(おかしい、リヒタル家にはアンジェがいっぱいいるな。ここまで、感染力の高い菌だったのか。

 何かあっても、イリスへ渡した手紙までにして、暫くはアニー達とゆっくりとするわ。時間は、有限なのだし今は今しかできない事で楽しく過ごしたいわ。)


 ※ ※ ※ ※

 イリスは

「団長!そろそろ、領に入りますので、私は両親に挨拶をして、また合流いたします。」

「急な、里帰りですまないな。少しは、ゆっくりしてくるといい。

 こちらは、このままアゼリアへ行く。気をつけてな。」

「はっ。」

 イリスは、進路を更に北西へ向けて離れていく。



「陛下、ウィルビス侯へ任せてもよいのでしょうか。」

「プランタか。

 バズールが何を企んでいるか分からないが、帝国との仲介を申し出てできたことが、気になる。

 それに、これ以上の収容は王都にデメリットしかない。」

「士官以上は、こちらで手を打つとして、その他を、どうしたものか。

 それで、公は出来るだけ纏まって引き渡したいから分散しないようにと?」

「まあ、ウィルビス候なら一族の結束も堅く、妙案でも出て来るかもしれぬ。」

「女神ホーラの祝福を。」

 プランタが祈りをささげると、

「王太子ともあろう者が、まったくここは、神殿でも教会でもないぞ。」


 ※ ※ ※ ※

「セルゲイ伯、首尾は整ったか?」

 バズール公からの言葉に

「閣下、王都からの連絡では、ウィルビス候へ動きがあると。

 まだ、詳細は不明ですが、こちらも準備を急がねば。」

「やはり、ウィルビスか。目障りな存在は早く摘むに越したことはない。」

「それには、交渉を急ぎませんと。」

「分かっておるわ。国王にも一時的にでも時間の猶予を遣わせている。」


 ※ ※ ※ ※

 またまた、わたくしアンジェは、

「アニー、招待状だけどこれでいいかしら?」

「まあ、いいのではないですか。」

「どうしたの?そんなに、適当な返事して?アニーも、反対なの。」

「いえ。失礼しました。

 反対してはおりませんが、大丈夫でしょうか?」

「アニーまで、心配性ね。私に、任せておいて。

 アニーとミリーに付いて行って、おいちゃんとおばちゃんを説得しよう作戦!である。」

(そのまんまじゃねえか。それより、いいのかイリスは。

 困るほどの事でもないと思うのだけど。それでも、長引くようなら手紙の通りになればいいなぁ。

 欲望に忠実な、アンジェらしい答えをありがとう。まあ、傍観側に回るならいいさ。

 そこまで、大人しくする様にウザ・・・仰るなんて  ァ、アハ。

 ハァ、慣れてきた。セトやエル達と一緒にいられる時間を大事にするんだぞ。

 そんな大げさに、私はどこにも行かないわよ。何処にいても、皆と一緒でいられる様にしたいわ。)


 遊びに気を取られ、アニーもミリーも少し前までの事を懐かしみながら、アンジェの事を見守っていた。


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