第二十五話 視察と招集と

「『コンッコンッ』エド様、ハイド伯爵から使いが来ております。」


 カルビンからの連絡に、

「直ぐに、行く。」

 エドにも、思う所があると感じていた。


 カルビンに案内された使いは、

「閣下、ハイド伯爵の使いで参りました。

 先ずは、こちらをお受け取り下さい。」

 エドは、手紙を預かると確認する。


『リヒタル子爵


 至急ではあるが、アゼリア要塞へ召集を命じる。


 また、参謀の同席を許す。


 ついては、到着日を使いの者に渡して置くよう。


 追伸


 詳しくは、会議の場で伝えるが、状況は芳しくない。


 守備を怠るなよ。


 ハイド泊セルシオ』


 エドは、

「アゼリアへ召集の命、承った。

 直ぐ、返事をしたためるので、少し待ってもらう。

 カルビン、案内を頼む。次いでに、ワイズをここへ。」


「旦那様、畏まりました。」

 エドは、直ぐに返事をしたためるとカルビンから使者へ渡した。


 ワイズが、カルビンと共に来た。

「エド様、何か御用でしょうか?」

「うむ。急ではあるが、ハイド伯爵からアゼリアへの召集が来た。

 使者には、11日と明日から5日の行程で返事をしている。

 そこで、伯爵からの指示でお前にも同行してもらう。」

「エド様、明日とはいささか早いのではないでしょうか?

 護衛やバルムの方は誰に、お任せになるのでしょうか?」


「至急との事でな。

 人選は消去法にするしか無いが、こちらは、私も馬で出る。

 マクミランと配下の兵を10名に私とワイズとする。

 バルムは、ハンスと残りの者で守りを頼むとしよう。」


「承知いたしました。

 では、直ぐに準備に取り掛かります。」


 その時アンジェは、エリアとイリスと休憩をしていた。

「2人は、この後予定はあるのかしら?」

「いえ、そのまま護衛につかせていただきます。」

 アンジェは、『よしっ』と外に行くわよ。

(方角は、北へ。

 なあアンジェ、そこに行くの?大丈夫なの?

 川の進捗を確認して、街の地下水路も見られたらいいのよ。)


「では、行きましょうか。」

 エリアは、

「アンジェ様、どちらに向かわれるのでしょうか?」

「ああ、外よ。

 後、服装は帯剣できるように軍服でいいわよ。」


 イリスも、

「アンジェ様、外とは?

 帯剣とは、危険な場所なのでしょうか?」

「2人共、そんなに身構えないで大丈夫ですから。

 北の川を見に行くだけですからね。」


 ミリーが、

「アンジェ様、また思い付きで出かけられるのですか?

 午後からの講義が遅れていますのに。」

「もう、アンジェアンジェってうるさいわね。

 もう決めたの、行くのよ。決定事項なのよ。

 その為の、護衛でしょ!」


 北の川には東西の門から出ないといけない、何故なら南門がないのだ。

 結局、ミリーもついてきた。

 馬車組にアンジェとミリーにエリアとイリスは、乗馬組で出かける。

「アンジェ様が、視察に赴いて大丈夫でしょうか?」

「いいのよ、興味本位とか遊びに来た程度に思われれば、好都合だわ。」


 アンジェ達は、門へ着くと警備の兵士に挨拶をして北へ向かう。

 ほどなくして、川から領都へ流れ込む川が少し遠くに見えてくる。

「そろそろ、歩きましょうか。」


 ミリーから、

「アンジェ様、まだ歩くには遠いのでは無いでしょうか?」

「あまり目立ちたくないから、これくらいでいいわ。

 それに、お仕事をしている方々のも見えてくるでしょう。」

(アンジェ君、女性が4人というだけで十分に目立つと思うのだが?

 それでは仕方ありませんわ。もう少し近づきましょう。)


 新たに開通させる水路の工事をしているのが見えてきた。


「ご苦労様ですわ。」


「んっ、誰?」


 仕事中の人たちの言葉をスルーしながら、アンジェを先頭に挨拶をしながら先に進む。


(アンジェ、何か気づかない?

 ん~、このまま山の湧き水まで伸ばすのでしょう。

 水門を作る貯水池と水門が遠い。領都の入口とは別に洪水にも対応するように中間に水門作って水量を管理しないと受け止められないだろ。

 あ~、そうだったわね。)


「アベルは、奥の方にいるのかしら。」

(支持は、カミラに伝えるんだぞ。

 わ、分かっているわよ。)


 エリアとイリスは、

「ここは、何を作っているのでしょうか?

 アンジェ様は、何かご存じなのですか?」

「見に来たのは、初めてね。

 ここは、新たな水路を建設中なのよ。一日も早く完成させたいから様子を見に来たの・。」

「アンジェさま~、見学して今後に活かされたいのですね。」

 咄嗟とっさに、アンジェの口を塞ぐミリーだが、大分遅れ気味だった。

「でっ、何の為に建設中なのですか!

 ミリー嬢も、ご存じなのでしょう。私わたくしたちは、もう誤魔化されませんわ。」

『ふがふがふが』、がぶっとアンジェはミリーの手を軽くがぶると、

「もう、ミリーは心配性なのね。」

「ですが、この件は・・・。」

 黙り込むミリーに、

「大丈夫よ。心配しないで、エリアとイリスは大丈夫よ。」

 何のこと?と目を合わせる2人に、

「2人共、ここでの水路建設はアベル事務官がカミラ政務官の指示で建設をしているのですが、発案者は私なのよ。

 この水路ができれば、生活用水もトイレの排水も楽になるわ。多くの家で水を汲くみに行かなくても困らないし、トイレの後の汲取くみとりも無くして、流せるようになるのよ。」

(ベラベラといいのか、まっ確かに匂は嫌だよね~。

 もっと、急がせて今年中に何とかならないかしら?

 人が足りんよ。それに冬が来ると効率は下がるよ。)


 エリアとイリスは、

「えっ、いやいや、アンジェ様もご冗談を仰って・・・?」

「そうですわ。

 まだ、5歳で・・・?」

 エリアとイリスは、目を合わせて、

「ホントに、5歳ですの・ですか?

 剣技と体術もそうですが、いえ何故でしょうか、信じられませんわ。」

(まあ失敬な、でも久しぶりに見た反応だわ。

 説明は、今はするなよ。)


「まあ、詳しいことは、また今度ね。

 帰ってカミラと話しましょう。」


 帰り道~、


「ご苦労様ですわ。」


 と挨拶をしながら立ち去る4人に、後ろから~


「お待ちください。

 何故、お嬢様方が此方こちらへいらっしゃるのですか?」


「アベルね。ご機嫌よう。

 今日は、初の護衛を連れて外に来たのです。

 カミラから聞いて、此処ここに多くの方々が働いていると見学に寄っただけですわ。」

「そうでしたか。仰っていただければご案内をさせて頂きましたのに。」

「ありがとう。次の機会にでも、お願い致しますわ。」


 アンジェは、振り返ると急いで帰る。

(足りないのは、人ね!

 またかよ~。暴走するなよ。大体、湧いて出てくものじゃないかな。後の事まで考えて増やさないと工事が終わったらってなるよ。

 ノブ、人なのよ!私に心当たりがあるわ。

 分かる、分かるよ。でも、それは問題があるよ。)


 帰り着くと、お父様がマクミランと打ち合わせをしていると聞き、アニー達侍女3人衆を、お仕事に戻すとバタバタと執務室へ向かう。


 アンジェは、ノックもせずに入り

「お父様、只今戻りましたわ。

 マクミランとお打ち合わせですか?」

 と知らない振りで押しかける。


 お父様は、

「アンジェか、ん~。

 丁度いい、エリアとイリスも入りなさい。」

 お父様が、

「明日、アゼリアへ立つことになった。

 暫く、留守にするがステフ達と領都のことを頼むぞ。」

「エリアは、護衛で一緒に来てもらうぞ。

 急いで立つのもあるが、全員騎乗で向かうから、荷物は最小限でいいぞ。」


 マクミランの言葉に、アンジェは『キラッ』と目を光らせると、

「同行します。」

「はぁ?お前は、何を言って・・・。」

「ですから、同行します。決定事項です。」


 お父様は、

「馬鹿なことを、何を言っているのだ。

 呼ばれもせぬ、其方を連れていくことはできぬし、大事な事なのだ。

 今回は、大人しく待っていてくれ。」

「お父様、今回の件ですが、私に考えがありますの。

 おそらく、このままでは解決策も出てこないでしょう。

 困ったら、使いを寄こしてくださいな。」

「どういうことだ。アンジェ!

 何を言っている。何を知っているのだ。」

 アンジェは、エドの言葉をスルーすると

「それと、イリスも連れて行ってくださいませ。

 たまには、里帰りも孝行になりすわ。」


 マクミランとエリスは、ポカンとしている。


 そこに、イリスは

「アンジェ様、ありがとうございます。

 ですが、そのお心遣いで十分です。エリスが不在の時ですので、護衛として傍で仕えたいと思います。」

「イリス、これは私からの命です。

 後で渡しておきたいものもあります。後ほど、部屋へ来てください。

 まあ、仕方ありませんわ。暫くは、のんびりとお母様と過ごしていますわ。」

(またかよ、アンジェもおそらくの範囲で話さないと面倒だよね。

 説明不足だったかしら?

 行くとか解決しないだの言いたい放題で、怪し過ぎる。俺は、のんびりしたいのであって、厄介ごとはお腹一杯だよ。)


 お父様は、引き下がった娘に安堵し、またステフの言葉を思い出していた。

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