第二十二話 巻き込むアンジェに巻き込まれる

 気がつけば、6月になっている。

(なったばかりだよ!片付けや午前の会議をして、急いで書類を揃えて6月からって、聞いていたよね。

 そうだっけかな?)

 更に、待ちに待った、エリアとイリスが仲間入りだ。


 アニーから、着替えを手伝ってもらい、先ずはごは~ん。

 アンスの料理は、美味しくて沢山お腹に入っていくのだが、最近はお米が恋しく思う。

「ほどほどに、なさいませ。」

 アニーのストップが入り、仕方なく訓練場へ移動する。


 アンジェは、

「皆さん、おはようございます。

 今日から、よろしくお願いしますわ。」

 エリアとイリスが振り向き、

「アンジェお嬢様、おはようございます。

 護衛の件は、お話は聞いております。それで、訓練のお相手もとの事でしたが、本当にされるのですか?」

「軍団をの任務は優先、それ以外は、私の護衛騎士なのでしょう。

 1日中を訓練する事は、まず無いけれど、朝の日課は一緒にしてもいいでしょ。」

 イリスは、

「私は、エリシュリアさんとご一緒できて、嬉しいですわ。」

 アンジェが、

「硬いわね。

 愛称で良いわよね。エリアにイリスも、長いと舌を噛んでしまうわ。」

 エリアも、

「アンジェお嬢様、畏まりました。

 では、早速始めましょう。」

「あ~、お嬢様も無しでね。

 貴女も、お嬢様でしょ。王侯貴族でも無い、下級貴族なのだから仲良く行きましょう。」

 エリアもイリスも、

「ですが、お立場を軽んじる事は非礼でございますし、侮辱となります。」

 アニー達も、昔はこんな感じだったと思いながら、

「いいかしら、ここは公的な場所でも無いの、私の個人的な時間で場所なの。

 堅苦しいのは、嫌なのよ。街でも、私はね、ただのアンジェでいたいのよ。

 だから、普段はアンジェか付けても様までにして欲しいのよ。ねっアニー姉さん。」

「『ハァ』アンジェ様、ここは街ではありませんよ。

 ここの領主一族のお方々は、貴族の慣習に当てはまらないので、近しい者たちは、様で呼ぶ事を当たり前のようにしております。

 また、アンジェ様は、街でのご友人にはアンジェと呼ばれています。

 早く慣れた方が、いいですよ。」

(フォローはあった様な、でも褒められてはないよね。)

「はぁ、承知いたしました。」

 少し?ちょっと意外と呆れた様子で返事をされた。


「話は纏まった様ね。

(いや、纏まってはいないぞ。)

 エリアは、筋肉に勝つ為にも強くならないと何でしょ。

 イリスも、細マッチョくらいは勝ってみたいでしょ。」

 調子に乗るアンジェは、団長と副団長をあだ名で語る。

(いかん、アンジェやめろ!)


 両腕を腰に当て、ふんぞり返った時、二人の男が逆さまになってこっちに歩いてくる。

 直ぐに、エリアとイリスへ視線を戻すと、血の気が引いた顔をしていた。

(まずいですわ!ノブ、何とか乗り切れるかしら?

 また、調子に乗るから問題が起きる。

 準備運動なんて、どうかしら!

 この状況で、その発想は無かったよ。)

 この一大事に、アニーは涼し気に笑っている。

(うゎあ、アニーは知っていたのよ。

 もう、あたふたしても手遅れだな。日課の走りをしたら、少し猶予が貰える。しかし、その分の罰は重くなる。どっち、ねぇ、どっち?

 ノブのくせに!)


「アンジェ様ぁ、何か筋肉やら細マッチョ?マッチョの意味がよく分かりませんが!

 楽しそうな、お話が聞こえて来ましたなぁ。

 我々も、1つ混ぜて貰いましょうか。」

 アンジェは、咄嗟にエリアとイリスの手を引っ張り、

「日課は、先ず走るのよ!

 外に行くわよ。」


「エッ」


 華麗に2人を巻き込んで、走り出すアンジェに、

「ほう、日課ですか。ハンス、俺たちも日頃の成果を確認するとしようかね。」

「あぁ、3人まとめて、面倒見ましょうか!」

 アニーは、笑顔でお見送り状態で手を振っている。


「な、何故、私たちまで。」

 強引に、巻き込まれてマクミランとハンスに追われるエリアとイリスは涙を流しながら走る。


 やがて2時間の時、アンジェはコケた。

 体力の限界もあり、見事にコケて

「私の屍を越えてゆけ〜。」

(屍はまずいだろ。言ってみたい言葉ランキングみたいな?越えてゆけは、あるあるだな。もう、言い返す力も無いようだ。)

 と残る2人へ檄を飛ばす。

 まだまだ、余裕のマクミランが、

「随分と粘りましたな。」

 とアンジェを担ぐと走り出す。

 もう、涙と鼻水と汗が混じって滴る物をマクミランで、拭き拭きする。

「うわっ、アンジェ様それは無いわ〜。」

(俺も、無いわ〜。)


 その間に、ハンスが先行して2人を追いかける。


 更に1時間ほどで、

 エリアもイリスも、倒れ込むと目を回している。

『ズサーッ』と砂を巻き上げ

「おや、もうお疲れで?」

 とハンスが見下ろすと

「ゲホッゲホッ」

 咳き込みなから、首を立てに振る。

「他の者達の目もありますから、続きはこちらで。」

 マクミランが、アンジェを担いだまま、ハンスが、2人を肩に担いで戻って行く。

「ま、待って下さい。

 副団長、この格好は、耐えられません。」

「まぁ、可愛い部下たちの教育の一環だ、遠慮しなくていい。」


 アンジェが、

「エリア、イリス、良くやったわ。

 私は、座学で一緒にいられないけど、貴女たちならきっとやり遂げることが出来るわ。」


 アニーのいる建屋に戻ると、

「皆様、お帰りなさいませ。

 さぁ、少し休憩に致しましょう。」

 と果実水に軽食まで準備してある。 

(アンジェ、これはまた逃げられないやつだ。

 アニーとマクミランは、通じているわ。日課もそうだった!せっかくの砦が此処では、役に立たないじゃない。

 気づくのおせぇよ!)


 休憩の中で、

「して、筋肉とは何方が誰に向けた言葉ですかな。」

 マクミランの言葉に、2つの新砦の目線が、アンジェに向けられた。

「ほほう。素直で、結構。」

 また、ハンスが

「細マッチョ?とは同じく何方が誰に向けた言葉ですかな。」

 再びアンジェに向けられた視線に、

「エリア、イリス〜、アニーっ。

 助け・・・。」


 目線を逸らされた。

(アンジェ、目がグルグルしている場合じゃ無いぞ。

 あわわわ。

 素直に、ごめんなさいをしておけ。)

 アニーへ

「さぁ、行きましょうか。」

(まだ、足掻くのか!)

 しかし、

「何方へ、行かれるのですか?

 本日は顔合わせと、日課の合同を兼ねて1日こちらですよ。」

「聞いてないわ。

 アニー、最近は厳しいのでわ?」

(アンジェ、往生際が悪い。

 ノブ、貴方は私なのよ。助け様と思はないの?

 口は災の元ってな、少し猶予があったろ。十分に庇ったさ。)


 涼し気に笑うアニー。

「ところで、細マッチョってなんだ?」 

「細い筋肉・かなぁ?」

 マクミランも、

「筋肉って、まぁ使いようでは、褒め言葉でも、呼び名はいかんですな。」

 とエリアに笑いかける。

(アカンよ、ワイズに紹介して貰った時の情報もバレとる。

 ワイズも、グルだったのね。

 酒の肴にでも、なったかなぁ。)


 もう、エリアの目が死んどる。

「皆、知っていたのでしょ。

 話を合わせて、今日はもてあそぶのね!」

 ハンスが

「イヤイヤ、言い方ぁ。

 何て言葉を、使ってやがる!」

 流石に、アニーにエリアもイリスも冷たい目で私を見る。

(おかしいわ。いつの間にか、味方がいないわ!

 何も、おかしく無い。

 もういい、少し変わろうか。)

「『スゥ~、ハァ』ごめんなさい。

 不躾な呼び名をしたのは、私です。エリアも、紹介の時に煽って言わせたのは私です。

 日課の訓練に、2人も仲間が出来て嬉しかったの。

 その、調子に乗り過ぎました。」

 アニーは、

「アンジェ様、もう分かりましたから、もう良いのですよ。」

 うっかりやのアンジェが表に出る、

「ありがとう〜。アニー!

 エリアとイリスを楯に、逃げ切ろうとして。・・・あれっ。」

(何故なんだ。思った事や独り言が口から出るし、やってられるかぁ。)


 アニーが、

「さぁ、マクミラン殿もハンス殿も、アンジェ様も十分に休憩が出来たようですわ。」

「そ、そのようですな。」

 ちっょと可哀想に私を見つめるマクミランと


 今回、出番がなかったハンスは

「何故、私達まで。」

 エリアとイリスも巻き込み、日課の訓練に手合わせもする羽目に。

 それから筋肉が、震える程にしごかれた3人は、明日を休息日にして1日を終えた。


 これが後の騎士団の、アンジェと団長と副団長との初訓練であった。

 あっちゃったのである。

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