第十九話 帰還の裏で2
翌朝、アニーがアンジェを起こしにきた。
「朝ですよ。
さぁ、アンジェ様、起きてください。」
『フワァ〜』
アンジェは、疲れたように目をこすりながら目を覚ます。
寝不足である。理由は簡単で、遅くまで怒られていたのだ。
(許すまじ、アニー。
そんなに、怒るなよ。お前が悪い!
ちょっと、長い休憩をしただけじゃない。
そこじゃ、無いだろ。欠席するなんて言うから、こじれたんじゃないか。くれぐれも、態度に出すなよ。)
「おはよう、アニー。
今日は、訓練の後でワイズに聞きたいことがあるのだけど?
時間は取れるかしら?」
先手必勝である。
アンジェは、心の中で「勝った」と呟いた。
『はぁ』
アニーは、
「ワイズ殿は、確かに一段落したと思いますが、今回の戦の報告書を纏めているかと思いますので、確認しておきます。
それと、何と戦ったのか分かりかねますが、『勝った』と心の声が漏れていますよ。」
アンジェは、ダラダラと汗をかきながら
「な、な、な、な・何のことかしら?気の所為でわなくて?
昨夜の事で、まだ疲れているのでしょう。ゆっくりした方が良いわね。」
(火に油を注ぐって、知ってるか?
前にも言われたような?って失礼な!私は、この場を上手く纏めようとしたのにっ。
纏まってない件についてだが、健闘を祈る。と敬礼をしてみせた。)
アニーから冷たい風が流れてくる。
「アンジェ様、まだ昨夜の続きが足りないようですね〜。
ええ、足りないですね。机にしがみつく程、お勉強がしたいと。マクミラン殿と、稽古が早くしたいと思われているのですね。」
「いやいやいや、そこまで、言ってない。」
アンジェの、声は届かない。
(アニーは、状態異常だな。アンジェの声が聞こえてないようだ。)
「ど、ど、ど・どうしたら。
アニー、落ち着いて。ね、私が悪かったわ。
昔の優しかったアニーに戻って、ね。」
(お前、わざとだろ。)
「む、か、し、そうですか!
今は、優しく無いと思われているのですね。」
アニーは、目に涙を溜めて袖で押さえる。
俺は見た!アニーが、『ニッ』と唇を動いたことを。
アンジェは、混乱している。
「アニー、今もずっと優しいお姉さんよ。
ねっねっ、そうだ、またエル達の所へ遊びに行きましょう。
ミリーも連れて、またお風呂に入りましょ!」
とベッドに立つと、アニーの肩を抱き寄せ、『元にもどれ〜』と心の中で叫んだ。
「アンジェ様、わかりましたわ。
私も、言い過ぎました。
ワイズ殿の事は、後ほどにして日課の方は、2倍でお願いしますね。
代わりに街の件も、調整しておきましょう。」
アニーの言葉に、
「ありがとう、ね?
何か、サラリと罰を受けたような?
でも、街にも行けると・・・?」
(上手く纏まったな。
ねぇ、ちょっとおかしくない?
おかしくないは、無い!アニーがこれで許すと言っただろうに。
でも、倍って酷いわ。
アンジェが酷い事を言ったからだ。
でも、街にも行けるんだろ。それで、水に流すって事だからな。
むむむ、仕方ないわね。)
結局、アニーの怒りに触れたアンジェが、ワイズに会ったのは午後の少し長い休憩の後だった。
「遅れてごめんなさい。
今から、大丈夫かしら?」
ワイズは、扉の方を見るとアンジェが入ってきた。
「アンジェ様、どうぞこちらへ。
それで、本日はどうなされましたか?
「今回の戦場での事を、教えてもらえないかしら?
駄目かしら、それなら仕方ないのですけど。」
ワイズは、
「特に、大きなことも無いので、確認している範囲で、お話しましょう。」
と、大まかな流れとリンデン将軍とカスタール男爵、エンドール男爵に持っていかれてマクミラン隊長の出番がなかった事でイライラしている事まで、教えてもらった。
アンジェは、
「それで、捕虜はどうなるの?」
「それが、実は交換できてないのです。
3年ほど前から、2、3万の兵で攻めてきては、数日で退却していくのだ。だから、今も国王と侯爵様の領地で仕官ごとに牢に入れているが、今回でも増えたが、難しい交渉じゃないはずなのに!」
ワイズは、少し怒ったように感情を表すと、
「アンジェ様、失礼しました。
何分、約1万人の捕虜が溢れている状態でつい。」
「かまいませんわ。
要塞攻略は、不可能な兵数で攻めてきて、毎年捕虜が増えさらに、捕虜交渉が、できていない、ですか。
ん〜?おかしいですねよね?何か、引っかかる感じがします。
あっ、マクミランは、いつ戻るのかしら?」
再びワイズは、
「最後尾ですから、4、5日ほどかと思います。
行きと違い急ぐことも無いので、ついてまに、ハンスの方が、更に10日ほどかと思います。」
アンジェは、
「ありがとうございます。
捕虜の件は、またお聞かせください。
では、失礼致しますわ。」
(何か引っかかるのよ?
何かは、あるだろうけど情報が少ない。
喉から出そうで出ない感じだわ。
食い過ぎたのか?
ちっがうわよ!全く、これだからあなた達は。察しなさい!
そうそれだ。
えっ、何か分かったの。
ああ、いつもアンジェが、貴方とか達とか言うが、メインで話すのは信弘で、たまにヨーゼフくらいだ。面倒で違和感しかない!これからは、ノブでいいよ。
誰よそれ?それに、ヨーゼフって?
俺だよ!ヨーゼフ君は、2番目の俺だな。
分かったわって!そこじゃないでしょ!
イヤイヤ、捕虜の件は、無理でしょ。今は、様子見で行くよ。)
プクーッと膨れながらも、アンジェも言葉を飲み込む。
その頃、ハンスは北のアゼリア要塞へ向かっていた。
「帰りは空荷だが、行きは急いでも5日はかかりやがる。
あ〜、早く帰りたいねぇ。」
出番無しで、物資運びに回されて、少々ストレスが溜まっているようだ。
「マクミランとお嬢も混ぜて、一勝負でも、ん〜、訓練でもしようかな。」
隊の兵士達は、八つ当たりが自分達に飛んで来ないことに安堵した。
※ ※ ※ ※
この日の夜、バズール公爵のイソトマ城郭都市に数人の黒装束が来ていた。
待ち合わせの場所は都市の外へ抜け道として作られた林の中の小屋で、バーモン子爵へ手紙を渡していた。
「今回も、予定通りだ。
あと2回もすれば準備も終わるだろう。」
バーモンも、
「承知した。
公爵様へ、お伝えする。くれぐれも、見つかるなよ。」
「子爵風情が、誰に指図するのか?
相手を見て話せ!」
バーモンは、狼狽えながらも、
「我は公爵様の使いぞ。
誰に臆するものか!」
バーモンと護衛の兵士に、緊張が走るが、。
『バキッ』とバーモンの体が横に飛ばされ床に倒れ込むと、左腕がダラリと折れ曲がっていた。
「う、うぅ~。い、いだ、いだい。」
「次は、首を落とす。
それから、公爵領を落とす。」
と言い残して、去って行く。
バーモンは、護衛に叱責し抱えられながら、城へ戻っていく。
※ ※ ※ ※
ハイド伯爵は、情報を得た事をウィルビス侯爵へ使いを出していた。
「しかし、また困ったものだな。
王と侯爵に分散しているとはいえ、数が多すぎる。
王国は、捕虜の人権を保護しているからのう。処分する事もできぬし、人族は奴隷からも対象から外されている。
帝国は、他種族国家なのに、何故にこの戦争で人族しかいないのだ。」
ファナル将軍は、
「閣下、王国の経済の悪化と民集からの反発による暴動を起こさせる戦略ではないでしょうか?」
ハイド伯爵も、
「うむ。それは、あり得るかも知れぬが、全体としての長期戦略的には愚策でしかない。
何か、狙いが他にあるのだろう。」
この件で、呼ばれる事もあるだろう。
リンデン達が戻ったら、少しは労うとするか。
アンジェは、疲れたのか早々に爆睡していた。
『ミリ〜、モーラ ァ〜、アニーを止めてぇ・・・』
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