第十八話 帰還の裏で1

 翌朝、リンデン将軍とマクミラン達は、帰還へ向けて撤収作業を待っていた。


 またまた、アンジェは、モーラが久しぶりに、お付に来ていた。


 アンジェは、

「おはよう、モーラ。

 何か、久しぶりだわ。」

 モーラも、

「おはようございます。アンジェ様。」

「ねぇモーラ、マクミラン達は、どのくらいで、戻ってくるのかしら?」

(珍しく、心配なのか?

 そんな事は無いけど、マクミランが手合わせを言い出すのじゃないかと・・・

 ん、グッ・・・確かに、ゾッと来るものがあった様な?

 それに、そろそろ確認したいとか言いそうじゃないの。

 そうだなぁ、断る理由でも考えるか。)


 モーラが、

「アンジェ様、まだ行ったばかりですよ。

 伝令も来てませんし、先陣で戦っておられると思いますよ。」


 アンジェも、

「そうよね。じゃ、早速のごは~ん!

 それから、たまには、ゴロゴロして充電しなきゃ。モーラ、よろしくね。」

「アンジェ様、残念ですがアニーから朝の訓練をと申し付けております。」

(『クッ』アニーめ、何かと小姑みたいに手を回して〜。

 アニーは、有能だなぁ。アンジェがする事が分かってるじゃないか。)


 リンデン将軍が、

「マクミラン殿、カンタール男爵もエンタール男爵も、報告もあるので先に失礼する。」

 と言うと騎乗して行く。

 マクミランも、

「閣下方も、先に帰還されてください。

 自分も、本日中に出発しますので。」


 カンタール男爵もエンタール男爵も、

 カ「後片付けを押し付けてすまないな。」

 エ「今度、バルムに寄った時には酒でも酌み交わそうぜ。」

 マ「それでは、近い内にまたお会いしましょう。」


 マクミランは、挨拶を後に、隊の半分を帰還させ、片付けの後部隊に残り、国境を越えて偵察の報告まで指揮を取り続けた。


 その後、敵兵の確認無しと報告を受け、マクミランはゆっくりと隊を下げていった。

(まぁ、念の為だ。明日からは、早く戻るとしよう。)


 また、リンデン将軍は、3,000人程の捕虜を連れていたので先行の隊に入り急ぎ帰還の途中にあった。

 捕虜たちは、殆どが歩きなので仕方ない。

(ハイド様には、侯爵様から国王様へ、お願いし、早く捕虜を処理しないと食料だけでどうなることやら。)


 アンジェは、結局は何時もの稽古と少しの勉学に沢山のご飯を食べ、湯に浸かっていた。

(明日こそ、遊びに行けないかなぁ。兵の皆は大丈夫かしら?戦場って、どんな感じなのか見てみたいわ。

 アンジェ、好奇心のみで聞いたりするな。どんな戦場でも、怪我はするし死ぬ者も出る。送り出して、帰らなかった兵の家族は何を思う。

 そうね。ごめんなさい。

 知る事が悪いわけじゃないからな。勘違いするなよ。)


 翌日のお昼過ぎに、伝令が子爵邸に着いた。

「わかった。

 全て、対応は出来ている。ゆっくり、休むとよい。」

 エドワードは、労って兵士を退出させると、ハンスとワイズに

「アゼリア要塞のハイド伯爵へ、馬を出し補給の物資を届けると。

 今、編成している輜重隊は食料と医薬品だけで大丈夫だろうから、他の物資は戻しておけ。」


 ワイズ参謀は、

「畏まりました。

 閣下、隊の護衛と隊長はハンス副団長で、よろしいでしょうか?」

 エドワードも、

「うむ。それで構わない。」

 そこに、ハンスが

「閣下、マクミランが、まだ帰還していない時に、私がバルムを離れるのは、いかがかと!」

 しかし、

「いや、問題は無いだろう。」

 エドワードの一言で終わった。

 ワイズは、

「閣下、ハンスは凱旋してくるマクミラン達と酒が飲めなくなるのに、何とか他の物を護衛にしようと考えたのですよ。」

「クククッ アッハハハッ。

 すまないな、ハンスには貧乏くじだったか。まぁ、予備で後方に立つ予定だったのだ、戻ったら改めて酒宴でも開くとしよう。」


 エドワードは、ワイズとハンスが口ケンカをしている姿を笑いながら見て伝えた。


 ハンスも、

「仕方ないですね。

 閣下、畏まりました。直ぐ準備して、直ぐに戻ってまいります。

 ワイズ、ハイド伯爵への伝令は任せる。」

 と急いで、出ていった。

 エドワードは、直ぐに書にしたためると、ワイズに手渡した。

 アンジェが、さぼ・・・休憩をして、うたた寝をしているところへ、アニーが駆け寄って来る。

「アンジェ様〜。

 連絡が来ましたよ〜。『ハァハァ』

 団長が、既に帰還中とハンスさんが教えてくれましたわ。」

 内容に反応すると、

「アニー、ありがとう。

 終わったのね。

 マクミランは、いつ戻るのかしら?」

 アニーは、

「ハンスさんからは、後方の隊を率いてるらしいです?」

「分かったわ。

 で、よくここがわかったわね。

 バレ・・・少し休憩していたのだけど。」『ふぅ』!

(おいおいおい、何を乗り切った感を出してやがる。目の前を見てみろ!)


 袖で、額の汗を軽く拭くと、アニーの顔が、笑っているのに眉間にシワを寄せて筋が立ってる・・。

「ミリーが、モーラと探しておいででしたから、人気の無い場所で庭のここに来たのですがっ!」

「じゃ、ミリーとモーラは?」

「館と訓練場を回ってソロソロ、こちらへ来るかと思いますよ♪」

(ば、ば、晴れている・・・バレている。

 あぁ~、天気がいいなぁ。)

 アンジェは、

「どどど、どうてし・・・」

 そこに、

「アンジェ様〜!!

 アニー、ありがとう。」

 ミリーの声が聞こえる。

「アンジェ様、大人しくして下さい!皆も、心配していましたよ。」

 モーラの声も聞こえる。

 アンジェは、樹木の後ろへ張り付くと、3人の前に出るタイミングと理由を考える。

 アニーが、 

「何を、隠れていらっしゃるのですか!もう、バレていますので、お顔をお見せください、アンジェ様。」

 そ〜っと顔を出すと、アニーもついさっき迄と違い、困ったような顔をしている。

 ミリーもモーラも、怒ってなさそうだった。

『ホッ』と出ようとすると。

(アンジェ、罠だ。

 エッ?)

 俯きながら、『ヒョイッ』と飛びだしたアンジェに、3人は素早く前と左右を取り囲まれる。


 アンジェは、『ニコッ』と笑顔で顔を上げると、そこには掴みかかろうとする3人がいた!


『ヒラヒラ』と蝶がアンジェの顔の前を飛び去る。

『ヘックチュン!』

「ウフフ」「ククククク」「アハハハ」

 3人が同時に笑い出す。

 しかし、逃さないように、手は止まらない。

 素早くロープで両手を繋がれ、腰もアンジェとアニーを結ぶと確保された。

『ジュル』アンジェは、

「せめて、鼻を拭かせてよ。」

 モーラが、

「もう、仕方がないですね。」

 とハンカチでアンジェの鼻から口を拭き上げる。

「さぁ、戻りましょうね。」

 とミリーが言うとロープを引っ張りそのまま、歩き出す。

 アンジェが、

「あの~、ちっょと恥ずかしいので何とかならないかしら?」

 ミリーが、

「アンジェ様が、逃げ出さない様にする為に仕方がないのです。」

 と残念そうな顔をする。

「いやいや、私にも羞恥心はあるのよ!

 これじゃ、犯罪者みたいじゃない。」

 アニーが、

「自業自得です。

 モーラ、お願い出来るかしら。」

 すると、モーラは、申し訳無さそうに、さっきのハンカチを、アンジェの両手の上にかけた。

「えっ、余計に酷いから、目立つから〜。それに、ベチャついて気持ち悪いんですけど〜。」

「私達も、恥ずかしいのですよ。

 これくらいは、我慢してください。」

 モーラが言った事は、本当であったのか、皆が赤面しながらアンジェを連行していく。

(何やってるの?何の遊びなの?

 聞いてたでしょ!強制連行よ。

 久しぶりに、ちょっとサボっただけで、何でこんな事に・・・。屈辱だわ。)


 家に戻ると、案の定、皆に『クスクス』と笑われながら部屋へ戻った。


 アンジェから、

「それで、何か問題でも起きたのかしら?

 熱心に私を、探していたようですけど。」

 余りの、恥ずかしさから、少し怒った感じで尋ねてみた。

 ミリーが、

「アンジェ様が、いけないのです。急に休憩の後に、午後のレッスンにもいらっしゃらないのですから。」

 アニーも、

「マクミラン殿が帰還されたら、宴もあります。

 アンジェ様が、準備する事は色々とあるのですよ。」

「面倒ね。

 欠席で、いいかしら。」

 解かれていくロープが、急に締まる。

『ウヘッ!』

「アンジェ様、何を言ってるのかしら!!」

 後ろのアニーが、腰のロープを締め上げる。

 それから、部屋で少し食事を貰ったが、延々とお説教が続いた。

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