第十七話 進軍と国境激突

 アンジェは、朝早くに目を覚ますと、窓からの日光に照らされる街を眺める。


 多くの兵士達が、集まっている。


 アニーが、支度に来ると

「アンジェ様、おはようございます。

 最近は、朝もお早くなられて、私も助かりま・・・

 みんな感謝していますわ。『ハ、ハハ?』」

 アンジェは、

「『プクー!』またなの、もう治らないのかしら?

 そこまで、駄々っ子じゃなかったと思うのだけれど。ねぇ、アニー。」

(そうかぁ、俺の中のアンジェは、寝坊助に、勉強嫌い、ご飯とおやつは何人前って記憶しかない。

 昔話しかしら?

 まだ、1ヶ月前だよ!

 くっ、そんな黒歴史があったなんて!不覚だわ。 

 やれやれ。)

 アニーは、

「失礼します。直ぐに、支度を。

 兵達に、エド様からのお言葉があります。」

 アンジェも、

「分かったわ。急ぎましょう。」


 お父様が、兵士達の前に立つとマクミラン団長と兵士達は右手を挙げ、敬礼をする。


「これより、国境へ進軍して来る、帝国兵を殲滅させる為に、我らも、進軍を開始する!」

 兵達の士気も高い。

「おぉ~!」

「なに、この数年に渡りいつもの事である。

 みなと共にハイド伯爵の軍も出る、一歩たりとも領土を失う訳にはいかない。手にするのは、勝利のみっ!」

「おぉ~!」

 マクミラン団長が、

「リヒタル閣下に勝利を、1等戦功は我らが掴み取るぞぉ~!」

「おぉ~!」

「進発開始っ!」

 とマクミラン団長の大声で、動き出す。

 騎兵に、以前見た女の兵士さんがいた。続く歩兵の中にも女性兵士さんがいた。

 ローブの格好をした人達がいる?

 その後に、神官みたいな人達も?

 私はアニーに、

「あの、ローブの人達とその後ろの人達は?」

 アニーは、

「アンジェ様、以前のお話した、魔法士や刻印魔法士があの方達です。

 その後ろは、治癒士になります。」

 アンジェは、

「凄いね、カッコいいね。」

(使える様に、なれるかなぁ?

 ならねぇよ!

 なっ、即答なんて酷いわ!

 前にも言ったが、期待なんかするだけ無駄だ。

 私は諦めない!)


 ミリーが、

「アンジェ様にも、きっと出来るようになりますよ。

 そろそろ、教会へ行きましょう。中央道は、暫くは領民たちの声援で多いでしょうし、建物の中の方が、人も少ないでしょう。」

「分かったわ。

 それでは、アニー姉さん、ミリー姉さん、行きましょう。」

 アンジェは、街へ行く時の様に、2人を呼ぶと着替えに戻るのだった。


 街は、まだ多くの見送る人で道はごった返しだったが、ミリーが言った通り、教会の中はまばらだった、並んでいると、直ぐに前列まで着く。


 1人の老神官が近づいてくる。


 アニーとミリーが、

「ご機嫌よう。ラーズ司祭様」

「これは、アニー嬢にミリー嬢ではないですか。」

(ラーズ司祭?知らないわ。

 アンジェは、教会に来た事はあるの?

 ある分け無いじゃない。

 ですよね~。)


 ラーズ司祭から、

「アンジェお嬢様、お初にお目にかかります。」

 アンジェも、

「司祭様、はじめまして。

 よく、私の名前をご存知ですの?」

『クククッ、アハハハッ』

「ハァ〜、アンジェお嬢様、大変失礼しました。

 この街で、アニー嬢やミリー嬢を連れて回れるのは、エドワード様やステフ様以外に、お嬢様以外に考えられません。」


 アンジェは、

『エッ?そうなの?』

「お嬢様は、貴族の価値を理解されてないようです。

 しかし、男爵家のお嬢様方を、姉さんとはおかしな物ですね。」

 ラーズ司祭からの言葉に、アニーとミリーが

「み、見てたのですか?」

「ええ、アニー姉さんとミリー姉さん。

 ですから、こちらへお会いしに来ました。」

 ラーズは、満面の笑みで笑う。

(ただのジジイじゃないな!

 出来るわね!)


 アニーもミリーも、

「ラーズ司祭様、もう、お止めください。

 もう、子供ではないのですから〜。」


 その頃、マクミラン達は、国境へ向けて進軍速度を上げていた。


 伝令兵から、

「帝国からは、オイコン要塞から、ヴァルテン伯爵が2万5千の兵を率いて進軍しています。到着は、3日後とほぼ同じかと思われます。」

「分かった。変わりの者と交代し、こちらと同行するように。」

「ハッ」


 マクミランは、考えるが、この数年に渡る侵攻の意図が理解できない。


 帝国兵力が、少ないため、負けることも無く追い返している。

「何が狙いなのか?

 全く分からん!」

 つい、大声で叫ぶマクミランであった。


 その頃、アンジェは、アニーとミリーとお祈りをし、ラーズ司祭とお茶をとっていた。


「まぁ、そんな事が。」

 アニーとミリーに視線を向けると、

「それは、アンジェ様がいけないのです。」

 と反抗する2人に、ラーズ司祭は、

「それくらいに、しておきましょう。

 今は、アンジェ様も勉学も励んでいらっしゃるのでしょうから。」

 とちょっと仲裁するが

「よく来られていた、お二人が余り来られないので何があったのかと、案じていましたが、お元気そうで何よりです。」

 あまり、フォローになってないと感じるのは気の所為なぁ?


 ※ ※ ※ ※


 マクミラン達が、到着した頃には、守備兵が陣の設営を着々と進めていた。


「交代で休憩を取り、設営を急ぎ完了させよ!」

 と指示を出すと、本陣の陣幕へ入る。


 暫くすると、カスタール男爵とエンタール男爵が到着した。

「お久しぶりですな、マクミラン殿。」

「これは、閣下もご壮健で何よりです。

 今回も、お力添え子爵閣下に変わり、厚くお礼申し上げる。」

 カスタール男爵は、

「そう、硬いことは無しでいきましょう」


 エンタール男爵も、

「そうですぞ、エドワード様を初め、侯爵領を守るのは我らが義務ぞ。」


 そろそろ、日が落ちて来る頃、ハイド伯爵からリンデン将軍が到着する。


「お三方には、遅れて申し訳ない。」

 マクミランは、

「私共も、本日着いたばかりですから、それより、明日からの作戦会議を行いたいのですが?」

「了解した。」


 陣幕に、4人が揃うと

 リンデン将軍から、

「帝国も今日中には、準備が出来るだろう。」


 マクミランが、

「しかし、ヴァルテン伯爵とは、聞いたことがないな。」


 エンタール男爵は、

「新兵の実戦経験でもつけに来たのか、愚かな物だ。」


 カスタール男爵も、

「兵の練度なら、こちらも負けわしない。

 弓兵と魔法士で、先頭を叩き、抜けてきた兵を槍兵で削る。何時もの作戦を元にして、新たな戦法でもあれば、臨機応変に行きましょう。」


 リンデン将軍から、

「相手は2万5千、こちらは、わしの1万とマクミラン方の1万の合わせて2万。

 軍を1万ずつ分けて、2部隊にし、初動は合わせる。

 しかし、この程度の兵力で何を、落とそうとしているのか?」


 その後、再開の挨拶と話のあと夜明けまでの時間を、待つのであった。


 日が昇る頃、両陣営から、煙が立つ。


 朝食を取り終えると、兵達は、陣を組み始める。


 両軍対峙すると、ドラの音で

 帝国兵が攻めてきた。


 ヴァルテン将軍は、

「兵士達よ、今こそ日頃の訓練の見せ所である。一人でも多くの敵兵を屠ってくるのだ!」


 リンデン将軍とマクミラン達は、動き出した、帝国兵を見下ろし、


「ではな、概ね作戦通りに暴れるとしよう。」

 と持場へ戻る。


 前衛から、矢の雨と魔法士が、氷の矢、炎の矢、更に敵中央の空に水球を落とし、泥濘み

 が出来た所に、雷が落ちる。


 マクミランは、

「話にならん!

 カンタール閣下とエンタール閣下へ、合図を送れ!」

 合図を見た2人は、

 カ「もう、出番か?」

 エ「不甲斐ないのう!」

 カ・エ「我らの出番ぞ!

 一気に蹴散らしてくれる!

 全軍、我に続けぇ!」

「おぉ~っ!」

 マクミランは、接近戦に切り替えの指示を出し、帝国の様子を見るが突撃以外に何も無い。

「はぁ、またなのか・・・大剣を地面に刺すとグリップを握りしめ、ハンスでウサを晴らすか?! たまには、アンジェ様と手合わせするのも良いかもしれんなっ!」

(『クシュン?』誰か噂でもしてるのかしら?

 何か、『ゾッ』としたな!)

 と手応えのない相手に辟易していた。


 リンデン将軍も、隊の半分を移動させていた。


 カンタール男爵とエンタール男爵は、後方の敵中に突撃していた。

 リンデン将軍も反対側から挟撃する。


 ヴァルテン将軍は、後方の中央を厚く固めたが、士気が下がった状態では壁にもならない。


 日が昇った、お昼には帝国は退却を始めていた。


 リンデン将軍とマクミランは、

 リ「もう終わりのようですな。」

 マ「良いことではありますが、敵に、名の在る将も無く。

 これでは、凱旋と言っても褒美を受け取るのも、憚られる。」


 追撃戦に移っていた、別働隊も日が落ちる前には、帰還した。


 陣幕に集まった4人は、

 リ「皆さんには、手応えがありませんでしたかな?」

 マ「その通りですぞ。」

 カ「戦法も、例年と同じでしたが?何を、目的にしているのか見当もつかない。」

 エ「兵を、無駄死にさせて、捕虜が多すぎますな。」

 リ「取り敢えずは、明日は陣を引き払って帰還しましょう。

 捕虜は、何時もながら、伯爵様から侯爵様へお願いしましょう。」

 リ「それでは、無礼講と行きますか!」


 兵士達と共に、夜は更けていく。

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