第十六話 帝国との小競り合い

「ん~~、朝だ。眠い、お休み・・・」


 アンジェは、カミラ政務官との話でクタクタに疲れていた

(今日から、5月というのに、ダラダラとこれが五月病か〜。

 貴方にかまうのも、めんどくさい。

 いや、ホントに五月病だぁ。)


 そこへ、ミリーが起こしに来た。

「アンジェ様、お食事ですよ。

 さあ、お支度を・・・」


 アンジェは、

「ミリー、朝の食事は入らないわ。それより、少し休みたいわ。

 お父様とお母様には、心配は要らないからと伝えておいてね。」


 ミリーは、

「どうしたのです!お食事だけが、生きがいの様でしたのに。

 『はっ』、失礼しました。

 アンジェ様は、お食事だけは、いつも大切になさっていたのに。」

「ミリー、言い直しても遅いですわ。

 何故か、最近は皆から辛口が多いと思うのは気のせいなのかしら?」

(アンジェが、最近は、誰とでも普通に喋るように言ってたのが広がったのでは?それに、ミリーはお姉さん役でも外に行ってるだろ。

 なるほどね。確かに、アニーもマクミランも兵士の一部からも同じ対応だわ。)


 ミリーが、

「そうですね、アンジェ様の影響を受けている者は、増えてきております。

 ですが、本当によろしいのですか?お食事の方は?」

「ミリー、ごめんなさいね。少し休んだら、昨日の状況と訓練場へ見学に行くわ。」


 お昼前に、アンジェはミリーを呼ぶと支度をした。

「ミリー、昨日の件はお父様へ伝わっているのかしら?」

「はい。昨日の夕食後から、協議がなされているようですわ。

 エド様も、興味を持たれたようで、詳細を詰められていると伺っています。」

(ああ、エドが倒れなければいいが。

 ただでさえ、お忙しいお父様に、負担を押し付けてしまったかしら?

 カミラもアベルもいるから、大丈夫だろうと思うが。)


 アンジェは、準備が済むと訓練場へ向かった。


 訓練場では、新兵の訓練と一般兵の訓練が行われていた。


「剣や斧に盾、弓が殆どだわ。

 ここは、やっぱり筋肉と物理攻撃が、主流なのかしら?」

 ミリーは、

「私は、兵士では無いので、詳しくは分かりません。ですが以前にお話があった、特別な能力持ちは、ここでは無くて、別に場所があるそうですよ。」

(アンジェ、まあこんな所で爆発する様な訓練は出来ないだろうから仕方ないな。団長にでも、聞いてみたら、見せてもらえるかもね。

 それですわ!自領の戦力把握はしておかないとね。)


 アンジェは、一通り見渡したが、マクミランは、ここには居ないようだ。


 代わりに、女性の兵士が数人だがいることに気付いた。

「ミリー、兵士の中に女性もいるみたいですが?

 どうして兵士をしているのかしら?」

 ミリーは、

「親を亡くしたり、孤児だったりとさまざまかと思われますが、基本的にハンター志望が多いと思います。」


 アンジェは、

「では、何故ハンターでは無く、兵士になったのかしら?」

 ミリーは、

「アンジェ様、新兵も試験がありまして、一定の力量が無いと入団が出来ません。

 騎士爵の家の者は、一代ですが直系の者が、功を立てればその限りではありません。もともと、成り上がった身ですから、ハンターよりも、兵士希望が多いのかもしれませんね。」

(ふぅ~ん。準男は、大店の商人からの税収を期待して、騎士は兵として囲っておきたいと!

 アンジェ〜、分かったか。

 貴方ね、マクミランやハンスにちゃんと聞いてからになさいよ。

 ミリーが、何でも知ってるわけないでしょ。

『グサッ』あれれ、俺がアンジェに諭されている?おかしい、ちびっ子に指摘されるなんて。アンジェが、まともな事を言っている!)


 そうだった!マクミランを探そうとしてたのを忘れてた。


 アンジェは、

「ミリー、色々と教えてくれて、ありがとう。

 さあ、行きましょう。」


 お父様なら、マクミランが何処にいるか知ってるはずよね?

 多分、倒れてなければ・・・

 アンジェは、

「お父様、少しよろしいでしょうか?」

 すると、カルビンが

「アンジェ様、如何なさいましたか?

 エド様は、少・し・立て込んでおりまして、代わりに私で宜しければお伺い致します。」

 と、お父様を見ると、その前にマクミランがいたぁ!

(アンジェ、何か、エドがやつれているのは、気のせいか?

 明らかに、困っている様だわ?

 お父様に、何て事を!誰がそんなご無理を?許される事では無いわね!

 いやいや、お前だろ?何を、誰かに擦り付けようとしてるんだよ!

 いやいや、私じゃ無いわよ。

 いやいやいや、アンジェだろ!)


 アンジェは、

「カルビン、私はマクミランを探していたのよ。

 ここで合うことが出来たので、もう大丈夫ですわ。」

 そこに、エドから、

「アンジェか、今は時間が無いので話なら、戻ってからにしてくれ。」

「アンジェ様、急ぎ出るのでご容赦を。」

 マクミランが頭を下げた。


 アンジェは、

「何があったのか、お聞きしても?」


 お父様から、

「何時もの事だが、帝国が我が領に軍を進めている様だ。

 マクミランには、軍を率いてもらう。ハイド伯爵からも援軍が来るから心配はないよ。」

「アンジェ様、直ぐに蹴散らして帰還しますので、閣下とバルムをお願いします。」

 マクミランは、そう言うとお父様に、

「閣下へ勝利を!」と敬礼して行く。

(エドが、出ないなら何時もとは、小競り合いかなぁ。アンジェの記憶には何も無いからなぁ!

 知るわけないでしょ!未成人の子供に、教えて何になるのよ。

 まぁ、そりゃそうだ。)


「お父様、それでは私も失礼致しますわ。」

 アンジェは、カルビンにも軽く会釈をすると部屋へ戻ることにした。

「旦那様、お嬢様は、変わられましたな。皆に隔たり無く接して、家臣、使用人へ頭を下げて感謝をして頂ける。」

「そうだな。それが、当たり前のように身についているが、問題も多いな。」

 エドとカルビンは笑いながら話す。


 会議室では、ハンスとワイズが明日の出陣後の準備の進めていた。


 ハイド伯爵やバルム後方のカスタール男爵とエンドール男爵も国境へ集結する為、兵站計画と輜重隊の補充の為だ。


「ワイズ、どうだ?」


「5日後には、用意出来るだろう。ハンスの方も準備をしておけよ。」


「流石は、参謀殿いつもながら、お見事・・・」

「ハンス、茶化すならもう行け。それに、何時もの事だ。」


 部屋へ戻ったアンジェは、ミリーに

「ねぇ、ミリーは何時もの事って分かるの?」

「アンジェ様、少しでしたら聞いております。

 帝国は、春から秋にかけて、数回国境を越えて領土の拡大を試みているそうです。」


 ミリーの答えに、

「国境の辺りの村や畑は、大丈夫なのかしら?」

「ウィルビス侯爵様の指示で、帝国との国境付近には村も畑もありませんよ。

 毎年、小競り合いがあるせいで、距離を取っているそうです。」


 アンジェは、

「ミリー、凄いわね。

 こんなに、詳しく知っているのね。」

(まぁ、いつもいつも、畑をあらされては、たまらないだろう。

 そうね、でも戦場ならば全員が生きて帰ることは無いのでしょう。

 戦争だからな。仕方ないじゃないか。

 私は、それがわかっていても、納得出来ませんわ。)


 ミリーは、

「お嬢様、アニーのカスタール男爵も私のエンドール男爵も、何時もこの戦いに出ております。

 私の知っている事は、お父様や家の者からの知らせで聞いたことだけです。」

(そうだったのね。早く終わると良いわね。

 アンジェ、少しは二人の心配をしないのか?

 何故なの、何時も事でしょ。

 さっき、言ってただろ、全員が生きて帰ることは無いと。

 男爵たちも、同じだ!戦争に、絶対は無い。分かったら、ミリーにかけてやる言葉があるだろ。

 そうね。)


 アンジェは、

「ミリー、心配はいらないわ!

 いざとなったら、私も出るから任せて!」

(イヤイヤ、そうじゃ無いだろっ!お前が出て何になる。余計に、心配になるだろうが。

 そぉなの?勇気づけ様としたのにっ。『プンプンッ』

 素が出ると、残念でならん。『はぁ』)


 ミリーは、

「お嬢様のお心遣い、ありがとうございます。」

「ミリー、明日はアニーと皆で見送ってから、教会にお祈りでも行きましょう。


 夜、それぞれの準備は整った。

 アンジェも俺達も、始まる戦いに眠れない時間が流れていった。


(暖かくなると、元気になるのね?帝国には、寒がりが多いのかしら?

『プチッ』黙らっしゃい。)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る