第十五話 専用武器と領都改革

 私は、食事が終わって、モーラと部屋へ戻った。


 アニーを待つ間にモーラに準備を手伝ってもらう。稽古着に着替えると、アニーが戻って来た。


「アンジェ様、失礼致します。マクミラン団長も、間もなく稽古場へ来られるそうです。」


「アニー、ありがとう。私の準備も終わったので、これから行きましょう。」


 訓練場には、マクミラン団長が既に来ていた。アンジェは、

「マクミラン団長、急にお呼びだてして申し訳ありません。」


「アンジェ様、アニー殿からわたくしめに、ご相談があると伺いましたので、お気になされませぬよう。

 して、どの様な相談でしょうか?」


 アンジェは、

「はじめにこの事は、内緒ですよ。

 マクミラン、将来について私は兵士としては、戦えるとお思いかしら?」


「アンジェ様は、戦場に立つとお考えですか?

 正直に、分かりかねますな。

 まだ、幼いので判断材料が足りませぬ。」


「先日、立ち合いをしたではないですか?」


「確かに、目も直感もアンジェ様の年齢を考えれば大したものです。が、お話した通り、力や持久力が無くては難しいでしょう。」


「そうね。まだ、体が出来上がってないでしょう。

 それに、鍛え過ぎるのも、剣ダコの手も真っ平御免です。」


 流石にマクミランも困った顔をする。

「戦う者として、アンジェ様のご要望は難しいですな。」


 アンジェは、分かっていた。

「私は、貴族令嬢としての立場もあります。

 そこで、服の下に着る鎖帷子と軽量した防具と切れる剣が欲しいのです。」

 と笑顔で伝える。


 マクミランは、

「しかし、それでは突きや矢は防げませんぞ。」


「重たい物を装備しても動けないなら的でしかありませんし、振り回す力が足りないのであれば、切れ味の良い剣の方が役に立ちますから。」


 大きくなるに連れて、作り直していけば大丈夫だよね。


 マクミランも、

「そうですな。

 陣頭に立たねば、それで最低限の安全は確保出来るって事でしょう。」と頷く。

(アンジェ、やったなぁ〜。詳しく、要望を話そう♪狩りにも行けそうだなぁ。

 貴方達は何をはしゃいでいるのかしら?次期領主候補の準備だけよ。突かれてしまったら貴方達と同じじゃないの!

『ぐふっ』

 いつの時代も、人は闘ってばかりなのね。

『がはぁっ』)


 アンジェは、希望する武具の詳細をマクミランに説明した。取り敢えず、最低でも鉄より鋼だ。

(アンジェ、玉鋼は無理だぞ。たたら製鉄なんて、考えるなよ。異世界なんだから、何かあるだろ。ミスラルとかさぁ。)


 アンジェが、

「マークをつけたいのだけど」

 と地面に絵を書きながら、最後に追加していった。


 マクミランは、余り分かっていなそうだったが、

「アンジェ様の、ご要望にそえる物をご用意いたしましょう。」

 と話が終わると、直ぐに行ってしまった。


 アンジェは、

「アニー、戻りましょう。

 ミリーから、時間を聞いて少し休憩が出来るかしら?」


 アニーは、

「では、お茶を飲む時間くらいは休憩しましょう。

 ミリーと話して、調整しますね。」


 部屋に戻ると、アニーはミリーの元へ、代わりにモーラがお茶を運んできた。


「ありがとう、モーラ。

 話し過ぎて、喉が渇いていたの。」


 モーラは、

「アンジェ様、これを飲んで一息ついてください。」

 アンジェが、カップに手を伸ばすと、アニーが戻ってきた。


「アンジェ様、カミラさんから人選ができたので、書室でお待ちになると言付かって参りました。」


「アニー、お疲れさま。分かったわ。」

 とお茶を飲みほすと、背伸びをして、部屋を後にした。


 アンジェは、書室に入ると

「カミラ、お待たせしたわ。

 モーラは、カルビンの所でいつも通りにお願いするわね。」


 部屋には、4人残り陰謀の時間だぁ。

 カミラから、

「アンジェ様、お待ちしておりました。

 それで、本日の御用とは、如何なさいましたか?」


 アンジェは、

「この領都バルムには、水道が、一部流れているけど、殆どは井戸から水を汲んでいるわ。

 間違ってないかしら?」


 カミラは、

「仰る通りです。何か、問題でも・・・」

「おおありですわ!

 今の水道を上水道として、新たに下水道を作りましょう。

 それを、バルムに多く行き渡らせるのよ。」


「アンジェ様、大規模な水道は王都と城郭都市くらいですよ。」


 アニーとミリーは、

「アンジェ様、水道がそんなに問題なのですか?」


 アンジェは、

「アニーとミリーに聞くは、トイレの下に水が自然と流れてお掃除が楽になったり、匂いがしなくなったら、どうかしら?」


 2人は、顔を見合わせると、

「アンジェ様、そのような事ができますの?」


 カミラは、

「アンジェ様、王都などとお話しましたが、共用のトイレくらいですよ。子爵邸にも、水道を流すとお考えですか?」


「勿論よ。

 それに、バルムの街にも大きく拡大させるわよ。

 食事やお風呂用の上水道にトイレ用の下水道を、出来るだけ早く作るわよ。」


「それは、無理が過ぎます。」


 アンジェは、

「何処に、無理があるのかしら?」

 と聞くと

「今でも、一部は水道を流しております。

 それに、足りない分などは、井戸水を利用できておりますから十分な環境じゃ無いでしょうか?

 それに、人夫や予算はどうするのですか?」

 とカミラに返された。


 アニーもミリーも、難しい顔になる。

「それでしたら、人夫については、領兵と貧民街と孤児院の方達にお願いしようと思うの。

 予算は、領都の公共事業として、再配分とバルム領債ってのを発行して1年で5%を利益として貸主へ還元するとしたら?

 貴族や富裕層が、金100枚が1年で105枚になると聞いたらどうするかしら?」

 アンジェの言葉に、3人とも、まだ、追いついてこない。

(アンジェさぁ、ここには、銀行も株式に投資も無いだろうから、本当に人夫が集まるのかとか、領主がお金を、借りるって思っているんじゃね?

 なるほどね、名誉に傷がつくとか思っているのね!)


 すると、カミラから、

「アンジェ様、そのバルム領債はお願いではなく、公共事業に預けたらと言うことでしょうか?

 また、兵と同じで労働に対して対価を払う事で貧民街や孤児院の民にも仕事を与えると言うことですか?」

(おお、まさしくそれだよカミラ君!

 アンジェ、説明しなくても理解の早いのがいたよ。

 良かったな。

 流石、政務官だわ。楽ができそうだわ〜。ん、もしかして、銀行みたいなのがあるのかしら?)


 アンジェは、カミラに

「その通りよ。お父様の名に傷が付くこともない。

 貧しい人への仕事と対価としての給金が渡り、街が、綺麗になる。

 誰も損をしないし、不衛生から病気を予防することも出来る。

 どうかな〜、一考の余地はあると思うけど。」


 アニーとミリーも、理解したのか

「アンジェ様、いつの間にこんな事を考えていらっしゃったのですか?」

 と驚きを隠さない。

(うんうん。俺も驚いてるよ。

 お黙りなさい!貴方のいた世界で、衛生が病気の予防になるって知ったわ。一番は、発展して人が増えて街が、汚くなって糞尿の後始末が出来なくなって病気が流行ったことよ!

 アンジェ!嘘をつけ。個人的な欲望が大きいだろ。

 ふふ、ばれたか!いいじゃないの、皆の為にも成るならチョットぐらいわ。)


 それから、給排水についての説明と最終的な排水場の説明をした。

(今なら、やっぱりレンガでしょ!排水の浄化も2段にしたし垂れ流すと他の村や行商人達にも悪いからね。

 アンジェ、そのくらいで止めておいたら。

 どうしたのよ、貴方らしく無いじゃないのよ。

 幾ら何でも、子供の考える提案を超えているよ。人もお金も掛かるのに・・・。

 以外と臆病なのね。近代製の物や技術が無いのだから、一番長く歴史で使われていた物からチョイスするのは当たり前じゃない。)


 カミラは、

「アンジェ様、本日の件はエド様と協議してご報告させて頂きます。

 それにしても、有意義なお話が出来ました事、嬉しく思います。」


「カミラ、お任せしましすね。

 後、人選が出来たと伺ったのですが?」


「そちらについては、許可が下りましたら、事務官のアベルに任せようと思います。アンジェ様の名前は表に出せない事になっていますのでご容赦ください。」


 今日は、もう疲れたわ。

 アンジェは、

「アニー、ミリー、これくらいで、お仕事は終わりにしましょう。」


「そうでございますね。

 アンジェ様は、お部屋でお休み下さい。お食事が、出来ましたらお呼びに参ります。」


 アンジェ達は、書室を後にした。

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