第13話 会議は続くアンジェは遊ぶ

 日が明けて〜、ミリーがおいでになっていた〜。


「アンジェ様、お早く準備を。」と寝巻きを脱がされ、着替えて食堂へ行くと、食事の準備が出来ていた。


「ミリー、何故こんなに早く急がせるの?」

 ミリーは、『はぁ』と溜め息を付くと、

「昨日の案件が残ってるのですよ。

 エド様方は、これから直ぐに会議になられますのでお時間が無いのですよ。」


「えっ!もしかして、私もなの?」


 しかし、ミリーは

「いえ、本日はアンジェ様は、特にお呼びだては致しません。との事でした。」


「やった~、自由を手に入れたわ!」

(いやいやいや、何時も自由にしてただろう?

 いいえ、貴方と一緒になってから、手に負えないことばかりだったわ!

 何を〜、全てアンジェの尻拭いじゃないか。

 やり過ぎたのは誰。私かしら?

 かしらは、いらないだろ!)


「お父様、お母様おはようございます。昨日は、ありがとうございましたわ。」

 お父様から、

「アンジェ、今日は昨夜の続きで、会議があるので1人になるが、大丈夫か?」

「はい。お父様、何も問題ありませんわ。街へ行きたいのですが、護衛だけ付けていただければ問題ありません。」

(またまた、無理言ってる自覚を持ちなさい!)

「ん〜、ハンスを付き添わせよう。」

「ハンス副団長が、直々にですか?」

 とアンジェが聞くと、

「まぁ、今日は仕方なかろう。護衛の3人と合わせて問題なかろう。」

 お父様は、渋々納得したようだ。

 余り、余計な時間を取られたく無いのだろう。


 アンジェは、さっさと朝食を取ると部屋に戻り、街行きの服に着替え様と侍女のモーラが手伝ってくれた。


 念の為に、両足の太ももにアンジェ用の短剣も仕込む。

「ありがとう、モーラ。」

「ありがとうございます、お嬢様。いってらっしゃいませ。」


 アンジェは、一階に降りると、

「それでは、行ってまいりますね。」

 と勢いよく扉を開けると、『ガシッ!』首の後ろ襟を掴まれ

「待て待て待て!」

 と確保された。


 ハンスは、アンジェを下ろすと、

「お嬢様、本日のお目付役のハンスと申します。」

 あ~、そうだった。

「ハンス、忘れていたわけじゃないのよ。そのつまみ方は、酷くないかしら?」

「お嬢様、申し訳ありません。

 ですが、急に出ていこうとなされたので咄嗟とっさに止めさせて頂きました。」


 ハンスは団長と違って長身細身で、左の頬に傷がある。

「格好は、領民とあまり変わらないから、大丈夫ね。」

「承知しております。

 くれぐれも、目を離さぬように、いい使っております。」

 アンジェは、仕方ないと思い「それでは、出発致しましょう。」


 勿論、歩きであるが、『タッタッタッ』と橋まで渡ると、そのまま中央広場まで歩いていく。


 街の人達の目線が、こっちを見ている。

 いつもの場所には、セト達がいた。

 アンジェは、手を振りながら

「セト〜、エル〜来たよ〜。」

 と近づくと、皆の反応が、何時もと違った。

「リヒタル子爵令嬢アンジェリカ様、これまでのご無礼をお許しください。」


 皆が一斉に頭を下げる。

(どこで覚えたのか、正式な場では家名爵位に女なので令嬢に名前出で呼ぶ仕来りだ。

 アンジェより、しっかりしてるな。

 私わたくしだって、これくらい出来てよ。

 それより、アンジェはこのままじゃ嫌だろう。

 そうね。)


「セト、エルに皆も、頭を上げてちょうだい。

 私の身分を黙っていてごめんなさい。」


『ブルブル』と更に硬くなるセト達に、

「ここにいるのは誰かしら?」

「それは、リヒタル子爵・・」

 セトの言葉を遮り

「私はアンジェ。

 爵位を持っているのは、お父様だし、成人もまだ成っていない私は、ただのアンジェよ。

 また、皆と遊びに来たのだけどお邪魔かしら?」


 皆は顔を会わせて、悩んでいる様子だったが、

「それなら、アンジェって呼んで良いの?

 今までと変わらないで、お友達で良いの?」

 エルは、勇気を出して聞いてきた。

 アンジェは、

「もちろんよ。変わってしまわれては、私が困るわ。」

 と笑顔で答えると、皆も分かってもらえたようだ。


 セトとエルが、

「正直、言葉遣いも良く分からないから、どうしようって話してたの。」

「そんなの、気にしない気にしない。

 さぁ、時間が、勿体ないわ。」

「アンジェ、そのアニーお姉さんは?

 それに後ろの人は誰なの。」

 エルの言葉に、

「ごめんなさい。忘れてたわ。

 アニーお姉さんは、お仕事で来れないの、代わりにハンスがお目付け役で来てるの。」


 急にセトが興奮しだす、

「ハンスって、副団長のハンス様ですか?」

 およ、ハンスは有名人なのかしら?


 アンジェは、ハンスを見ると口パクで

『挨拶くらいしてよ。』と伝えた。

「アンジェ様の、付き添いで来たハンスだ。

 お嬢様のことをよろしく頼む。」

(硬いなハンスは、何か台無しである。

 そうね、もっと砕けた感じがいいわね。私のように、領民に溶け込めるように訓練しなくちゃ!

 何故にそうなる。アンジェ色に染まったハンスなんて見たくもないわ!)


 セトやカール、シン、ジルはハンスを捕まえて話に夢中だ。


 そして、アンジェは、

「じゃじゃ~ん。太めの糸を輪っかに結んだ物を取り出すと、綾取りって遊びをしましょう。」

「エルに、サラ、リーズは、知ってるかしら?」

 皆は首を横に振り知らないよと、教えてくれたので、

「じゃ、やりながら教えるわね。

 エルの両手を広げて前に出して、この輪っかをエルの手首に2重巻きに引っ掛けて、それぞれの中指の先の方に紐を掛けてピント引っ掛けると、そうそう形が出来たわね。

 つりばしって言うのよ。

 エル、少し緩めて、サラは、今度はエルの紐の重なっている所を摘んで、外側からエルのこの糸を通して糸が平行になる様にしたら、田んぼの出来上がりね。」


 この後は、リーズに取り方を教えながら、4人で順番にしていく。失敗したら、そこから、また始めていく。


 その頃、子爵邸では、エドを始め皆が悩んでいた。

「農作物にこんなやり方があったとはな」

 エドの言葉に考える。

「取り敢えず、子爵領の農地の1部分を、試して見よう。

 家畜からの肥料に合わせて、腐葉土も混ぜて収穫量や育ち方に変化があるのか見てみたい。」

 ステフがら

「エド、腐葉土は、一年を掛けて作るのだから、まだ先になるわ。」

 そこに、カミラから、

「アンジェお嬢様からも、今の肥料に混ぜることで、土の状態が良くなると仰られていたではないですか?

 腐葉土は、作るとしても、棚上げして、畑のローテーションを試していきましょう。」

「もし、これが失敗したら農家へはどうするのだ!」

 マクミランが、少々怒っている。確かに、成功するとは限らない。

 カルビンは、

「新事業の一環として、4年間は旦那様が全てを買い取り、例年よりも不足分があれば金銭的に補填する。というのは如何かでしょうか?」

 ロッテもアニーもミリーも、

「それならば、出来の良い物が優先的に入手出来、万が一にも金銭的に補填するのなら農家の利益は守られますわ。

「そうね。」

「良い案ですわ。」

 と賛同する。

 エドは、

「うむ。試してみるか!

 マクミラン、腐葉土への巡回を追加せよ。

 カルビンとカミラは、候補となる農家と調整をし腐葉土の作り方を指導担当を付けよ。

 また、街道からは少し離して、他へ情報が漏れぬように細心の注意を払え。」

 マクミランとカルビン、カミラは、

「ハッ、畏まりました。お任せください、必ずやご期待に応える結果を出してみせます。

 ステフから、

「良いですか?これは、リヒタル子爵閣下の名の下に始める事業ですよ。

 アンジェの事は、表に出さないように十分に気を付けてくださいませ。」

「そうであるな。また、不明な点があれば直接アンジェに聞くのではなく、この場にアンジェを呼び話を聞くこととする。」・・・


 またその頃、、アンジェは、『ゾクッ』と背筋に悪寒を感じた。

(何か、嫌な予感か?

 いえ、遊びすぎて風邪でも引いたのかしらね。

 いやいやいや、またかよ~。直感的な感じは良いけど、受け取り方がおかしくない!

 そうかしら。そろそろ時間かなぁ。)


 ハンスに目をやると、『パンパン』と手を叩き、

「そろそろ、帰る時間のようだ。」

「もう、時間かぁ。」

「アンジェちゃん、新しい遊び方を教えてくれてありがとう。」

 ニャッとアンジェが、

「サラ、リーズにもこれを、渡しておくわ。」

 綾取りの糸である。

「エルには、今日の使った糸をそのまま持っていてね。

 家に帰っても遊べるでしょ。」

「ありがとうアンジェ。」

 モテモテである。

(後10年したら、迎えに行くよ〜。

 ちょっと、キモいんですけど!

『ウルウルウル』、アンジェごときに、キモいなんて。もっと、まともな事を覚えんか〜い!

 貴方こそ何よ、小さい子供に向かって!

 心の中ならセーフだろ。

 いや、アウトよ!)


「ハンス、お待たせしたかしら。さぁ、帰りましょう。」

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