第4話 お父様とアンジェの闘い

 朝からの訓練場、たまに見るお父様の剣は、一閃で相手を吹き飛ばしてしまう豪剣だ。今の私は、小さいから受ける力はない。かわそうとしても速さでも適わない。(俺は、チャンスは、小さい小さい体と一瞬の隙があれば)と思ったら、小さい言うなぁ。成長期、まだ成長期なのよ。


 アンジェは、無い頭脳をフル回転して一か八かの方法を何とか組んでみた。(面白いこと考えてるな。それが出来れば、及第点は貰えるだろうさ。)また、無いとか無礼だわ。見てなさいよ。


 アニーとミリーが、準備を手伝ってくれる。今日は、パンツスタイルだ。余り切ることが無かったのに、しっくりと来る感じだ。


「よし、行こう。」アンジェの声に不安そうな2人は、心配そうに後に続く。


 訓練場には、お母様とロッテが入っ直ぐに待っていた。「アンジェ、本当に大丈夫なの?」私は「大丈夫よ、見ててねっ。」と笑いながら手を振り中央で待つお父様の所へ行った。(やるしか無いなら、やって見せるまでよ。)


「お父様、お待たせ致しましたわ。今日は宜しくお願い致します。」と挨拶をする。


「カルビン、1試合だ立会人を努めよ。」傍にいたカルビンはお父様と私の間に立つと「只今より、旦那様とお嬢様の木剣による模擬試合を行います。剣と打撃以外の使用は反則として負けとします。・・・それでは、はじめっ!」と合図の声が響くと、エドは素早く突進してくる。「でやぁ!」と横一閃でアンジェの剣を吹き飛ばそうとする。アンジェは、後方へ飛びかわすと、逆反動でエドに向かって勢いよく低く低く飛び出す。


 エドは、剣を振り上げアンジェに振り下ろす。(読み通りだっ。)アンジェは、剣の中心で打ち返す様に振り上げ体重を乗せて打ち込む。「これが力の差だ。」勝ちを確信したエドは剣を叩き落とそうする。お互いの体の間も、あと一歩で無くなるほど近づく、アンジェは更に踏み込み、エドの剣を、そのまま柄へと受け流していく。(剣の角度を確認し、力を受け流す事も難しい。もっともっと、奥へ!)『ガッラララ』と滑る剣がやっと抜けると、アンジェは、またも素早く振り返りエドの左肩を狙い突きに転じる。受け流されたエドは、まだ間に合うと、左の足を前に出し、右手の剣を時計回りに振り返す。アンジェの剣がエドの肩からずれ、弾き飛ばされた。再度、勝ちを確信したようだ。しかし、アンジェは弾かれた瞬間に剣を手放した。大振りで背中側から、アンジェの剣を打ち弾いたので、エドの重心は後方へ傾き、腕も伸びている。そのままエドの右手首を両手で掴むとエドを後方へ飛び足を勢いよく振り上げた。エドの体制が更に勢いよく後ろへ倒されていく。アンジェは、振り上げた足を鎌のように狩るよう、エドの首と左腕の下に蹴りを入れて固めに入る。

「うぉ〜!」と声を上げるエドは、力任せに重心を戻し、腕を横に保つ。

 エドは倒れなかった。軽すぎて、アンジェでは決めることが出来なかった。(エドは、ヒヤリとした。剣を持った事も無い者が、受け流す技など使えるはずもない。しかも、力で押し切ろうとした私の力を受け流すなど、何処にそんな力が)・・・アンジェが「お父様、私の勝ちね!」と言うと腰から、左手で小さい木剣を取るとエドの首に当てニッコリと笑顔を向ける。


 エドはアンジェを下ろすと、困った様な顔をし、頭を撫でてくる。カルビンは「そこまで!この試合、お嬢様の勝ち。」と驚いた顔をしながら宣言する。


 お母様もロッテ、アニー、ミリーも『えっ』て顔をしながら、こちらを見ていた。


 アンジェは、(まさか、ここまで予測通りに作戦がハマるとは思わなかった。凄いんじゃね!と自画自賛の真っ最中だ。)だか、急に体の力も抜けて座り込むと立ち上がる力も残っていなかった。『コテンッ』横に倒れると眠りについた。


「エドッ、アンジェは」とステフが駆け寄って来る。ロッテとアニー、ミリーも後に続いて、アンジェを抱きかかえる。「怪我もない。今は、力を使い果たしたのだろう。高度な剣技に、見た事のない技で腕を取られるとは。加減をしたとしても、負かされるとは思いもしなかった。」


 エドは少し考え、「皆に伝える、本日のこの一件は誰にも話すことを禁ずる。良いな。また、アンジェの事については、後程としアンジェが目を覚ましたなら連れてくるように。」と周りを見渡す。全員の同意が得られた所で、解散する。


 アンジェは、グッスリと寝ている。傍にアニーとミリーが付き添っていた。「アンジェ様が、まさかエド様に勝ってしまわれるなんて。」「ミリー、まだ黙ってないと、誰が聞いているか分からないわ。」と言うと『ハッ』としたように、黙り込みアンジェを見つめる。(俺は、二人の会話から、やり過ぎだぁ。またかよ。またなのか。頭を抱えるが、過ぎたことだ、アンジェの夢の事がどうあれ、本物だと知られた事が悪くならないなら良いがと思うほかなかった。)


 まだ、4月なのに日暮れが近いのか空が赤く染まって来た頃、アンジェは目を覚ました。


「おはよう。」アンジェの声に、「もう、夕暮れですよ!」と二人の声が揃う。

 アニーから、「旦那様がお待ちになっています。」とミリーが起こそうと、アンジェの肩に手を掛けると「イタタタッ」筋肉痛である。アンジェは「起きようにも、体が手も足も痛くて起きれないわ。」気付いたせいか、痛みで涙もポロポロと流れると頬を膨らませて抵抗する。

「無理よ。あぁ、もう起きる事も出来ないのね。オョョ」と抵抗を続ける。アニーが、「ハイハイ、痛いの痛いの飛んていけ〜。」と起こそうすると「イタタタッ!」アンジェの顔が、苦痛で歪む。

「あらあら、オョョ何て言うから、演技かと思ってしまったじゃないですか。」とアニーのツッコミに「私が嘘を付くとでも、言いたいのかしら?」アンジェの言葉は半分届いたようだ。「勿論です。この1年は、仮病にかくれんぼで何度、手を焼いたことですか。でも、今はそうでは無いと分かりましたので、エド様とステフ様へ伝えてまいります。」


 エドは、執務が終わると、ステフとテラスでアンジェについて話をしていた。

「ステフ、今日のアンジェの事だが、夢と言っていた言葉は真実なのであろうと思っている。」ステフも「エド、貴方がそうお思いなら、間違いでは無いでしょう。ここ数日でも、何時もと変わらない様子でした。5歳になったばかりで、あの子に何が起こったかも分からないなんて。」思い詰めたようにエドを肯定する。

「成人まで3年もある。アンジェの身が危険とならぬ様に、それに分からない事も多いゆえ、他領や公爵派には、隠し通さねばならぬ。しかし、勿体ない、あの子が男であったならと思わずにはいられんよ。」

 エドは、つい言葉にしてしまったが、最後を聞き逃していなかったステフは、「何ですって、男ならとは、アンジェはあんなに可愛らしいのに、私をも侮辱なされるおつもりですか?」エドは素直に、「申し訳なかった。今日のアンジェを見てついそう思ってしまっただけで、本心ではない。」

 そこへ、アニーがやって来た。

「エド様、ステフ様、アンジェ様がお目覚めになられました。しかし、体中が痛いと起き上がれる様子ではありません。」「では、こちらから様子を見に行くとするか。」エドの言葉に、ステフも頷くとアンジェの部屋へ向かう。


 その頃、アンジェは、ミリーに我儘を言いたい放題をしていた。

「ミリー、喉が渇いたわ。少しお腹が空いたわ。甘い物が食べたいわ。あ~ん。」と大きく口を開けおねだりをする。


 そこに、エド登場である。

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