第2話 情報収集と残念アンジェ

翌朝から、アンジェは本に嚙じり付くように眺めた?


俺は、頭を抱え込みそうだった、こっちの言葉はアンジェ頼みで、そのアンジェが読み書きが不完全なのである。(・・・こんなん読めるかーい。ハァハァハァ。ダメである、アンジェは、残念な子だった。)


仕方ない、お父様に誰か専属教師を付けて貰える様にお願いしてみよう。貴族令嬢なのだから、そのくらいの我儘は良いだろう。


俺は、書室を出て部屋へ戻ると、アニーがやって来た。(あ~、駄目だ。わたくし・わたくし・わたくし、女の子として言葉も直していかないと、怪しまれるわ。)


「お嬢様、本日は如何されますか?」と聞いてきた。アンジェは、「何か、字や計算の勉強をしたいのだけれど、本はないかしら。」すると、アニーは「どうなされたのです。あれだけ嫌がっていたのに・・・。」嬉しいのか、驚いているのか、アニーは涙ぐみながら笑うと、小走りに部屋を出ていった。


結果、今までのアンジェは勉強の時間を遊び、甘やかされ、カマッテちゃんの残念令嬢だったと推察する。

再び、アニーがやって来た。

「お嬢様、旦那様がお呼びです。」ドアの横へ一歩下がり頭を下げるアニーを見て、「どうしたのかしら?急な用事でも出来たのかしら。」と呟きながら、執務室へアニーと向かう。


アニーが、扉の前でノックをすると中から「入れ。」とお父様の声が聞こえた。


アニーが扉を開けて、私を先に通すと後に続いて中に入る。


お父様は「して、詳しく説明してくれ。」アニーは、私との先ほどの部屋でのやり取りを説明する。


そんなに大事な事なのか?と思いながら熱心に説明するアニーを待つ、待つ、松?


「真か!」お父様の一声でビクッと背筋が伸びる。おめでたいと喜ぶ姿に、アンジェは自分の推察は間違っていなかったと思った。


「それで、何時から始めようか?」お父様の言葉に、「出来るだけ早く始めたいですわ。文字、計算、国や領地の事、たくさん教えて頂きたいのです。」と答えると、「しかし、何故急に心変わりをしたんだい。」


背筋にヒヤリと汗が流れる。「昨日のお父様のお仕事の話を聞いて、私も淑女の嗜みとして出来る事をしないといけないと、そう思ったのです。」私の言葉に、お父様は笑顔になる。「そうであったか、アニーとミリーはアンジェの教師にと留め置いていたのだよ。2人からしっかりと学ぶと良い。」アニーも笑顔になり、「一年間、お待ちしたかいがありました。」(おおう。本人を目の前に、ポンコツ宣言されたよ。本気か本気なのか?)本気ですよね〜。


アニーは、泣いてらっしゃるよ。お父様も目尻抑えている。今日は赤飯かと、残念アンジェに期待が増していく。(そこまで、喜ばれると後には引けない!背水の陣で追い込まれている様な気がする。)ヒュ〜ッ、崖っぷちである。


「お父様、お仕事のお邪魔をして申し訳ありませんでした。部屋に戻り、アニーとミリーと一緒にこれからの事を話してくるわ。」語尾に(わ)を付ければそれらしく聞こえるのかしら?と思いながら執務室を出た。


「アニー、ミリーは何をしているのかしら?」と聞くと「奥様へ付いていらっしゃるのではないかと。」私は「なら、今から呼びに行きましょう。早く始めないと、日が暮れてしまうわ。」と言うと、お母様の私室へ向った。


今度は、私がドアをノックした。「どうぞ、お入りになって。」とお母様の声がした。


私は、アニーと共に入るとお父様とのやり取りを説明した。


お母様も笑顔になると「ミリー、良かったわね。」と侍女の手を握りしめて涙する。(どんだけ、期待を裏切ってたんだよ!と心で叫ぶ。

そして、このポンコツアンジェめ。と罵った。)「お母様には、ご迷惑をおかけします。アニーとミリーを先生として私の下へお貸し下さい。」私の言葉に、「そんな事、気にしなくていいのよ。しっかり学ぶのですよ。」とお母様から励ましの言葉を貰った。

アンジェは、「ですが、お母様のお付きの侍女はどう致しましょう。」「そんな事は気にしないで、ロッテがいるわ。ずっと傍にいたのはロッテなのよ。アンジェが逃げ回ってお勉強をしない物だからアニーとミリーも私達のお手伝いをして貰っていたのよ。」と微笑むお母様。(親バカである。ここに来るまで、何本の矢が胸に突き刺さったか。)「お母様、有り難うございます。(グズっ、嬉しくて涙が止まらない。)」


私達は、お母様の私室を後にしてアンジェの部屋へ移動した。


私は「アニーとミリーは一年も待っていてくれたのよね。特別なの?どうしてなの?」と聞くと、二人の自己紹介から始まった。


アニーは、長い青髪を1つに結んだ美人さんだ。リヒタル子爵領に二つ有る男爵家の一つカスタール男爵の次女アニール15歳だった。


ミリーは、緑の髪を2つに分けて結んだ美人さんだ。そして、もう一つのエンドール男爵の三女ミリーネ15歳であった。


元々、アンジェの教師にとお父様が頼んでいた。(ん〜、アンジェの記憶から何も思い出せない?こいつ、初めから逃げやがったな!あ~あ~、いかんいかん、集中しなくては。)えっ、家は子爵なの?知らんかった〜。今さら聞けないし助かったよ。


それから、字や計算は、二人とも出来るので交代で問題ない。


国の事はアニーが詳しいそうだ。


ダンスに刺繍はミリーが得意だそうですって。ちょっと顔に出たのかミリーから「ダンスや刺繍は淑女の嗜みたしなみ意中の男性と、もしお相手が出来ないとなれば社交界に出ることも、お慕いしている方へお渡しする物も無いではありませんか!」ガ~ンガ~ンガ~ン叱られた。思考復帰します(んっ?意中?男性?いやいや無い無い無い。)あれっ、アンジェリカは女の子、相手は男、現実を突きつけられてウプッ、ロレロレロレと脳内でちびアンジェがもどしている。


隣で、アニーも「うんうん」と相づちを打つ。


3人で話した結果、朝からは文字の読み書き、午後から日替わりで計算、ダンス、刺繍をすることが決まった。


文字の読み書きが出来るようになれば、国や子爵領の事を追加していくそうだ。私は聞く担当で殆ど二人が決めていった。(お〜、目が燃えている。)いつもと違う二人を見ながら、日が暮れていった。


夕食の時間になり、アニーとミリーを連れて食堂へ向った。(残念、赤飯はなかったよ。)

だが、用意された料理は、昨夜と比べても豪華であった。

何のお祝いやらと、心の中で笑うしかない。

しかし、食べ切れるのだろうか?赤いスープ(血ではない、ミネストローネっポイ。)焼き魚にお肉(何の肉かはわからないけれど。)サラダにパンが添えてあった。


貴族バンザイだ。どれも美味しいとガツガツ食べていると、お父様とお母様が残念な一言を「やる気になったことは、素晴らしいことだが、先ずはテーブルマナーを早く覚えなさい。」と続けて言われたものの、二人とも笑顔だったので頑張って食べたのだった。


食事を済ませて、部屋に戻るとお腹を擦りながら「食べ過ぎた〜ケプッ」とベッドへ転がり込んだ。


程なくして、アニーがお風呂の案内にやって来た。


おや、毎日お風呂?下水もないのに、上水があるはずがない?


そんなに裕福なのか、と思いながらアニーの後をトテトテトテとついて行く。


服を奪われ脱がされていく、何事も慣れである。そこに言葉の矢が飛んできた!

「アンジェ様、食べ過ぎです。」と言いながら、ポッコリ出たお腹をツンツンされる。

「お父様とお母様たちが、持て成してくれたのだから、勿体ないじゃない。」と反論すると、アニーも「それは、大切な事ですが程々に嗜むことが最も大切なことです!」と怒られた。


「アンジェ様は、寄親である、侯爵家に嫁がれるかも知れませんから、小さく痩せてなくては行けませんよ。」


「はっ?何言ってるの?寄親〜侯爵〜。」お湯に浸かりながら、温まる体に顔もホヤ〜と崩れる。

アニーは、右手を頬にあて困った様に見ている。

そう、アンジェは、まだまだ残念な女の子なのであった。

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