第2話 べ、別にあたしは、地球なんかどうなったって構わないんだからねっ
家に帰ると、父母は既に篭絡されていた。
篭絡と言うのが正しい表現かどうかは判らない。僕の部屋を除き、家の中からは最低限の家具や生活用品以外が一切煙のごとく消え失せていて、ダイニングのテーブルの上に手紙が一枚。
【父さんと母さんは仕事の都合で引っ越します。妹と二人で暮らしなさい】
妹って。僕一人っ子だぞ。と、今朝までの家族構成を考える、これは現実逃避になるの?ほんとに義理の妹扱いなの?
呆然とする僕となんか浮かれているセフィア。怒涛の勢いで状況は進んでいくのであった。
「どうしよう、晩御飯の材料なんにもないよ」
冷蔵庫を開けて、中身を見たセフィアが言う。
「明日は学校の帰りにお買い物いかないとね、だから今日はピザでも取ろうか」
「好きにしてくれ」
力なく答える僕ににじり寄り、にやにやしながら人差し指でほっぺたをつつくセフィア。
「どったの?元気ないよ?」
「一日で色々ありすぎなんだよ」
がらんとしたダイニングとリビングを眺めて僕はため息をつく。
この異常なまでの手際の良さと、昼間見た宇宙戦争。これはもう本気の本気だ。
「……戸惑う気持ちも、判るよ」
そっとセフィアが僕の背中にくっついてきた。夕焼けに染まるリビング。
「こんな形の出会いじゃなかったら……あたしたち、もっと自然な恋人でいられたのかな」
「いやいや、宇宙人となんか出会わないだろ普通」
「なによう人がせっかくムード作ろうとしてんのに」
セフィアはスマホを取り出して電話をかける。
「あー、五丁目の長戸ですけど。ペパロニとマルガリータのハーフ&ハーフをMで一枚。あとコーラとポテトをふたつづつ」
なんか手馴れてる。
「地球人はネコって食べないよね?」
「どこのメルマック星人だ」
「ふふ、変わってないのねレイジ」
「えっ」
セフィアが遠い目をする。こうして見ると、確かに可愛いは可愛いんだよな。白い肌、整った顔立ち、さらさらと揺れる銀の髪。狐っぽい耳がなければただの美少女だ。
「忘れちゃった?初めて会ったあの日のこと」
「どこかで、会ってたっけ?」
物憂げな瞳についつられて僕はそう口にする。
「そう、あれは忘れもしない……高校の教室」
「今日かよ!」
あーもう。まあ勝手な記憶を捏造されるよりはマシか。いやどうなんだそれも。
「あっと、それから一つだけお願いがあるんだ」
「なんだよ、ピザの払いならしておくぞ」
「そうじゃないよ、もっと大事なこと」
「なに?」
「……婚約者なんだから、部屋は一緒がいいなっ☆」
「だーっ、んなこと認められるか!僕らはまだ未成年だぞ、駄目だろう!」
大げさに驚くセフィア。
「ええっ!?十七歳と言えば、モルフラン星人なら三回目の成人式を迎える歳よ!?」
「そんな星人知らん!」
「まぁあの星は公転周期が長くて、一年がよその三年なんだけど」
「前提条件くらい揃えろよ!」
「仕方ないわ、なら高校卒業まで部屋は別で我慢する」
「……あと一年以上居座る気か」
「なによ、この星の運命がかかってることくらい理解しなさい。べ、別にあたしは、地球なんかどうなったって構わないんだからねっ」
「なにその怖いツンデレ」
赤面しながら言うセリフかよ、頭が痛くなってくる。もうなんなんだ。額に手をやる僕を見て、セフィアはやれやれといったポーズを取る。
「これくらいのテンションで行かないと、ダメなんだよ」
「ダメって、何が?」
「何もかも」
シリアスな口調になるセフィアは心なしか顔まで大人びて見える。可憐から流麗に。
「人の心は、重責に対して簡単に壊れてしまう。耐えて耐えて耐え抜いて見せても、ふとしたはずみで崩れてしまう。星の運命を背負うっていうのはね、レイジが考えるほどに簡単じゃないんだよ」
そっ、と僕の顎に手を振れるセフィア。つつつ、と冷たい指が頬を伝う。
「それでもね」
真摯な瞳が僕の目を射抜く。身動きが取れない。なんだか胸がドキドキする。セフィアの唇が近づく。
「それでも、愛さえあれば……」
ぴんぽーん。
来客チャイム!僕の意識は一気に現実に引き戻され、慌ててスマホ片手に玄関へ。なんだったんだ今のは、なんかすごいムードに流されそうになったぞ。
「チッ」
なんか背後で舌打ちが聞こえる。やっぱり仕掛けられてた!?
ドアを開けると配達の兄さんが笑顔で立っていた。ああ、なんか久しぶりにまともな人間に会った気がする。ピザとコーラ缶ふたつにポテトの大袋を受け取り、電子マネーで支払いをする。なんかチャージ金額がものすごい増えてるけどなんだこれ!?
「ああそれ政府からの補助」
後ろから覗き込んだセフィアがぼそっと言う。
「毎度どうもでしたー」
兄さんはにこやかに去っていく。なんかこう、世界から切り離されたような気分。
「さあ食べようよ、新居での記念すべき一夜だよ」
「僕ずっと住んでたし」
ダイニングのテーブルでピザの箱を開け、ポテトも袋を開いて並べる。
「ああいい匂い。いっただっきまーす」
満面の笑顔でピザをパクつくセフィア。見てるだけなら可愛いんだよな。伸びるチーズに苦戦しているのを見ていると、あの戦艦ブリッジでの指揮がウソみたいに思える。
「とにかく、こうして僕と超絶美少女とのドタバタラブコメディが始まったのだった」
「勝手なナレーション入れるな」
まったくもう、本当にどうなってしまうんだろう。
「うーす」
教室に入り、誰にともなくてきとうな挨拶をする。女子はほぼ無視、男子は気が向いたやつだけ同じような気の抜けた挨拶を返す。
「ちーす」
「はよーっす」
朝起きたらセフィアはなんだか自室でドタバタしていた。中に入るのも嫌だったので、パンだけ焼いてやって遅刻しないように食べて来いよと言って先に出て来たのだ。一人は実にいい。
「ういっす」
いつもつるんでいる吉村がやってきた。第二科学部とかいう良く判らない部の代表をしているというけれど、活動内容その他一切が謎に包まれている。というかたぶん自称でそんな部はないと思う。
「どうよ転校生」
「知らん」
「知らんって、一緒に暮らし始めたんじゃないのか?」
「部屋の中で朝からバタバタしてたよ」
「ふーん、でもカワイイじゃん、顔も声も」
「あれ艦隊を指揮してる時とかキャラ百八十度変わるんだぞ」
「へー、ギャップ萌え?」
「いやちと違うし、萌えてないな僕」
ああ吉村よ。こういう無駄話で時間が潰れるっていうのは、実に平和でいいなあ。
平凡な幸せを噛み締めていると、教室にセフィアが入って来た。銀髪に狐耳が学校指定のセーラー服に合わさると、コスプレ感がものすごい。
「おはようー!」
元気に挨拶して僕の隣の席に座る。すると物見高いクラスの女子たちがさささっと寄ってきてセフィアを囲んだ。
「おはようセフィアさん」
「おはよう、えーと」
「私は高山瑠奈。ルナって呼んで」
こいつはクラスの中心的美少女で、男子の中にもファンは多い。学業も運動も全てを高いレベルでこなす完璧超人で、合唱部の副部長という話だ。
「よろしくねルナ。あたしも呼び捨てでいいよ」
「よろしく、セフィア」
朝からテンション高いなこいつら、と僕は思う。隣の席の周囲に女子が集まりすぎて、僕の席がぐいぐい窓側に押されズレていく。
そんな感じで一日が始まり、女子軍団がとにかくセフィアを構うので僕は実に平穏な時間を過ごす。授業もなんとか平穏無事にやり過ごして、昼の時間がやって来た。
「なあおい」
僕が声をかけると、セフィアはきょとんとする。
「なあに?」
「昼飯、どうするか決めてる?」
「うん、お弁当作ってきたよ。レイジの分も」
言いつつセフィアは自分のカバンの中から三段の重箱を……ちょっとまった、どうやって入れたしどう出て来た!?
「ああ、これカバンの中が超空間になっててね。なんでも入るよ」
「何その四次元ポケット」
驚く僕を尻目に重箱を並べるセフィア。中身を見て僕は絶句した。
一のお重はカロリーメイトの箱がぎっしり。二のお重にはインゼリーがみっしり。三のお重には、缶のエナジードリンクがぴっちり。
「どう?色々調べて、効率よく栄養を吸収できるものを選んだんだ!」
なんとなく判って来たことがある。こいつは基本的に悪意がないんだ。悪意はないけど常識もない。いやそれはたぶん地球人としての常識だから、仕方がないのかも知れないが。
「えっお弁当?見せて見せて?うわー……」
きゃっきゃ言いながら好奇心丸出しで寄って来た女子軍団が、重箱の中身を見てドン引きしてる。
あっ、あれっ?と周囲の反応に戸惑うセフィア。何か違ったかな、何か間違ったかな、という不安と恐怖がその笑顔の下に渦巻き始めたのが手に取るように判る。昨日のピザはうまくできたのにダメだったのかな、という混乱まで理解できた。
もういいや、これ以上は。僕はセフィアの手を取って、教室を出る。
「おいで」
「あっ、お弁当」
「後でいいから、学食に行こう」
離れにある学食は、購買のパンと人気を分けている施設だ。昼休み突入と同時に長蛇の列が出来、人気メニューは十分もしないうちに売り切れる。しかし量産型とも言うべきか、比較的大量の用意が可能であるカレーやらうどん等は遅く行っても普通に並ばず食えるのだ。
「あの、なにか変だったかな?」
「あれはみんな携帯食っていうか、時間の限られてる時に食べる代用食みたいなものなんだ」
「そ、そうだったんだ。あたし知らなくて」
「別に腐るものじゃないから、何もない時にでも食べればいいよ」
生徒連中もセフィアについて何かの周知を受けているらしく、ちらちらと視線は送るものの好奇心丸出しといったものはほぼなかった。
僕は券売機で食券を二枚買うとプラのトレイを持ち、同じようにセフィアにも持たせて販売カウンターへの列に並ぶ。にこにこしながらも頭上に?マークを出しているようなセフィア。
「おばちゃん、カレーライスふたつ。僕とこの子」
銀色のカウンターに、すっと食券を滑らせる。カレーライス三百円。これがカツカレーになると五百円になるのだが、そこにはある罠が潜んでいるので知恵あるものはノーマルを選択する。
「あいよー」
愛層のいいおばちゃんたちも、特にセフィアに対して奇異の目を向けることはしない。ただ単にそういう子だと思ってるだけなのかも知れないが。
「はいカレー」
おばちゃんが僕のトレイにカレーライスの皿を乗せる。それを見ていたセフィアも同じように自分のトレイを差し出す。
「はいよカレーライス」
セフィアのトレイにもカレーライスが乗ったので、僕たちは座席スペースの手前にある小物コーナーへと向かった。自動給水機、漬物類、箸やスプーン、紙ナプキン等が備蓄してある中継基地で、ここで必要な物資をトレイに搭載していくのだ。
まず僕は紙ナプキンを一枚トレイに置き、その上に銀色のスプーンを乗せる。赤い福神漬をちょいとつまんでカレーの皿の端にトッピングをする。そして自動給水機に透明プラのコップを設置してボタンを押し、飲料水を確保する。
「判った?」
こくこくと頷いてセフィアは僕のやった通りにする。あっしまった、こいつカレーで大丈夫かな?まあ学食のカレーなんて辛くなくむしろ甘いくらいだから平気か。
些事も済んだようなので座席スペースへ向かう。チャイムと同時にダッシュしてきたような連中はぞろぞろと席を立っているので、空席を見つけることは難しくなかった。
「じゃあここで食べよう」
「はい」
なんか返事がしおらしい。
「どしたの?」
「いえその、レイジの優しさで胸がキュンって」
YMOかよ古いな……でもそんなことしたかね僕?
「まあいいから食べなさいよ。辛くないから」
「はい、いただきます」
普通に頷きながらカレーを食べるセフィアを見て、僕はちょっと安心する。まずいとか辛いとか甘いとか言われなくて良かった。好みが判らないとちょっと大変だなこれ。
と、そこに突然現れた影。
「ふはははは、貧しいお食事ですわねセフィアリシス・メルテリアラウス・コムスククレス・マハリマ!!」
ばばーん、という効果音がつきそうな仁王立ち・人差し指突き付けポーズで立っていたのは、なんかトゲトゲのついた露出度の高いレザー風のコスチュームに身を包んだ、ちびっこだった。
誰だこれ。
周囲のざわめきが止まった。視線がちびっこに集中しているだろうことが判る。
「あら、貧乏宇宙海賊のスランじゃないの」
「貧乏じゃない!ボロは着てても心は錦!」
「それに今のあたしはセフィアリシス・メルテリアラウス・コムスククレス・マハリマ・デ・長戸よ。もう籍も入れたんだから」
何かサラっと変な事言った。
「なっ、なんですってぇ!?……フン、それで勝ったつもりかしら?見るがいいわ……このアタイのカツカレーを!」
ちびっこが自慢げに差し出したトレーにはなんと、代金五百円のカツカレーが鎮座していたのだ!ばばーん!
周囲の人間の視線がちびっこからカツカレーに移る。ああ、哀れな。悲劇だ。可哀想に。しかしちびっこは周囲のそんな視線に気づかずに勝ち誇る。
「はっはっは、そやつの財力などたかが知れたもの!相応しい財力とはこのことよ!」
「あー、あのね」
ちょっと見ていられなくなったので、僕は説明する。
「そのカツ、持ち上げてみて」
「え?」
ちびっこがスプーンをカツと白飯の間に差し込み、持ち上げる。すると……
「こっ、これは!?」
そう、その肉にはおよそ厚みと呼べるものが存在しなかった。ハムカツ並みのぺらぺらな、ほぼ衣しかない物体が厳然と鎮座していたのだ。
「そうだ。この学食のカツカレー、そのトンカツで使われている肉は……ロースしょうが焼き用の厚さ一ミリ肉なんだよ!」
初見は大体騙されるんだ。見た目は立派だし、普通のカレーにあと二百円も出すんだからさぞいい肉なんだろうと。ちなみに僕も入学当初に騙された。
「そんな、そんなトラップがあったなんて」
「財産なんて使いよう。彼を選んだあたしの目を疑うなんてね」
勝ち誇りつつカレーを口に運ぶセフィア。いやそもそもこの二人の関係って何なの?
あ、ちなみに学食の名誉のために言っておくと、とんかつ定食の肉はごく一般的なロースとんかつ用のお肉です。カツカレーのだけなぜか薄いんです。
「まあいいから君も食べなよ」
僕もカレーを食べながら言う。ちびっこも不承不承といった感じで席に着き、カレーを一口食べた。
「かっ、辛い!」
再び周囲のざわめきが止まった。えっ?子供向けの、カレーのお殿様とかああいうのに近いのに?
「くうう、周到なトラップを!」
スプーンの進まないちびっこを尻目に、僕とセフィアは食事を終える。
「じゃあスラン、豪華なランチをごゆっくり」
人もまばらになった食堂からこうして僕たちは立ち去った。
午後の授業が始まって少し。
ピピピピッ、と電子アラーム音が響く。これは昨日のと同じ?教室中の視線がセフィアに注がれた。
「状況を」
ドスの利いた声にどよめきが漏れる。
「衛星軌道上に宇宙海賊艦が出現、司令とコールを求めています」
「チッ、あいつか」
舌打ちの後、セフィアはすっと手を挙げる。
「先生、ちょっと戦闘してきていいですか?」
うわ、保健室行って来ていいですかくらいのノリで言ったぞ。
「あ?ああ、早く行ってきなさい」
その数学教師の返答を聞いたセフィアはにっこり笑って僕の手を取り、次の瞬間二人は例の戦艦ブリッジに飛んでいた。
「通信は」
「まだ続いています」
「メインスクリーンに出せ」
「ラジャ、メインスクリーンに投影します」
むわん、と音がして正面の窓の上側に四角いホログラフの枠が浮き出る。あーよくあるよねこういうの。でもメインなのに普段隠れてるのはなぜだ。
びゃーびゃーびゃー、とパイプオルガンによるBGMが流れる。えーっなんか知ってる気がするぞこれ。
「ふっふっふっ、久しぶりだね長戸の諸君」
スクリーンに映るのは……さっきのちびっこじゃないか!久しぶりでもないし判りにくいだろこれ。
「よくもさっきは卑怯な作戦で苦しめてくれたな……」
ちびっこは涙目で、まだ半分以上も残っているカツカレーの皿を前面に押し出してくる。
「全部食べないと駄目って怒られた!」
「知らんがな!」
思わず僕は突っ込む。
「まあいい、これは副長にでも食べさせれば良いことだ。奴は辛党だからな」
辛党って酒飲みのことじゃないのか?
「だがそんなことよりも……いい加減、色好い返事を聞かせてもらいたい!」
「断ったはずだ」
冷ややかにセフィアは答える。
「なぜだ、なぜそこまでしてアタイの申し入れを拒む!?」
「あのー、何を申し入れてるんですかあの子」
手近なブリッジクルーに僕は尋ねた。
「ああ、あの人ずっと司令官にプロポーズしてるんです」
あれ?
「でもあの子女の子にしか見えないけど?」
「あの人の星系では同性婚もアリアリなんですよ。遺伝子操作で子供も作れますし」
「はー」
「うちの星系は保守的ですからね、同性婚も遺伝子操作も認めてないんです」
なるほど。
「アタイはお姉様のためならと!艦隊引き連れていつも手助けしてるのに!」
「それが迷惑なんだってーの!」
うわっセフィアが怒った。空気がびりびりする。
「こっちは軍隊で、組織で動いてるの!あんたみたいなのが興味半分でうろつくから、作戦は失敗しそうになるし上官からは怒られるし!」
「だってだって、お姉様が構ってくれないから!」
それを聞いたセフィアは。冷徹に指示を出す。
「……第三魚雷管にブラックホール魚雷を近接信管で装弾。目標は前方の海賊艦、準備出来次第発射せよ」
「ラジャ、第三魚雷管にブラックホール魚雷、近接信管にて装弾。目標は前方海賊艦、距離二百」
「ち、ちょっとお姉様」
モニターの向こうで慌てるちびっこ。
「ちょっと遠くに行っててね。しばらく戻って来なくていいわよ」
「こちら魚雷管制、ブラックホール弾頭装弾完了。目標誤差修正完了、転移先座標の指示求む」
「転移先はランダム座標にて発射」
「ラジャ、座標はランダムにて設定。発射します」
しゅぱっ、と前方から光が尾を引いて海賊艦に向かう。そして爆発。
「絶対戻ってくるからー!!」
叫び声を残して、海賊艦とスクリーンの通信は消えた。おーい、頑張って皿は返せよー。
「はーまいった」
偉い人シートから降りて来たセフィアはいつもの声色に戻っている。
「なんていうか……好かれてんのな」
「違う違う、あの種族は自分より強いと認めた相手を自分の勢力に取り込むことが習性なの」
やれやれといった風に右手で顔を扇ぐセフィア。
「だから、どこかで他の人にこてんぱんにやられてくれたら楽なんだけど」
「そんなもんかね。でもあんなちびっこが宇宙海賊の頭目なんてしてるの?宇宙ってすごいね」
はあ?とセフィアは怪訝な顔をした。
「あの人確か四十過ぎてたわよ」
えっ。
その時僕は、学食から戻ってすぐの会話を思い出していた。
「なーなー長戸、お前が学食で絡まれてたあのロリっ子、超可愛かったなー」
でれっとしていた吉村に、真実を告げるべきか否か。
宇宙、それは無限に広がるフロンティア。
「ちなみにね」
おおっと。終わったと思って油断してた。
「魚雷には当たった衝撃を検知して爆発する接触信管と、目標物と一定の距離になったら爆発する近接信管があってね。ブラックホール魚雷を接触信管で撃つのは、相手を爆発で生じるマイクロブラックホールの超重力で破壊するためなの」
「おっかないね」
「今回近接信管で撃ったけど、近くでマイクロブラックホールを発生させた時に、そのひずみで生じるワームホールを使って、敵を強制的に遠くへワープさせるのが目的なのよ」
「……転移座標ランダムって言ってなかった?」
「だって鬱陶しいんだもん」
……おっかないね。
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