第32話 屋上
屋上で俺と日奈子は弁当を食べ出した。
「……でも、良かったの?」
「何が?」
「付き合ってるのバラしちゃって」
「……日奈子に迷惑掛けているようだし、いいんだよ」
「でも、周りが騒がしくなるよ」
「仕方ないさ」
「……ごめん。私が我慢しきれず教室で話しかけちゃって」
「いいって。元はと言えば俺が悪かった話だし」
「うん。そうだね。だって、美子と仲良く話すからもう耐えられなくて」
「ごめん。でも、たいした話はしてないから」
「そうだとしても、もう無理だった」
「うん。これからはいつでも話せばいいさ」
「そうだね。堂々と話しに行くから」
「わかった」
そこに上水と森本が来た。
「もう、お二人さん。教室は阿鼻叫喚だよ」
上水が言う。
「ごめん、ごめん、大変だった?」
「大変なんてもんじゃ無いよ。質問攻めにあってもうすごかったんだから。井川とか呆然としたまま座り込んじゃって。今、保健室に居るよ」
「そっかあ、迷惑掛けたね」
「いいけどさあ、これからが大変だよ」
「私は大丈夫だけど、陽太がね」
日奈子が俺を見た。
「いいさ、俺も覚悟を決めた」
「ふーん、やっとか」
森本が言う。
「まあな。これからは堂々と日奈子の彼氏として行動するよ」
「うん、よく言った!」
上水が俺の背中を叩いた。
「いってえな、お前……」
「ごめん、ごめん」
「じゃ、私、保健室行ってくるから」
森本が言う。井川のそばに居てやるんだろう。
「そうだね、じゃあ私もお邪魔だろうし教室戻るわ。お二人さんでごゆっくり」
上水もそう言って去って行った。
「……さてと、昨日の約束果たしてもらうからね」
日奈子が言う。
「そうだな」
俺は立ち上がって日奈子とともに他の人からは見えない例の場所に行く。
「もう、待ちわびたわ」
日陰に入るとすぐに日奈子が俺に抱きついてきた。
「……全校公認のカップルだね」
「そうなるのかな」
「うん。でも、こういうことは隠れてしないとね」
日奈子が目をつぶり、俺を見上げる。俺は日奈子にキスをした。
◇◇◇
あれから、俺たちは教室で質問攻めに遭った。いつも誰とも話さない俺がクラスの女子や男子達に日奈子達のことを聞かれ、答えないわけにはいかなかった。すっかり、俺は疲れ果て、帰りの電車もほとんど寝ていた。
そして翌日の朝。俺が教室に居ると、日奈子が入ってきた。
「おはよう」
いつものようにクラスメイトと挨拶する日奈子。そして、俺のところに来た。
「おはよう、陽太」
「おはよう、日奈子」
「はぁ、ようやく挨拶できた」
「そうだな」
「こんなに嬉しいこと無いよ」
良く見ると日奈子は目に涙を浮かべていた。教室で俺と話すことがそんなに嬉しかったのか。
「うぅ…」
「日奈子、泣くなよ」
俺は日奈子の頭をなでてやる。
そこに上水と森本が入ってきた。
「おはよう! ってもうイチャイチャしてる!」
「なによ。いいでしょ」
日奈子が言い返す。その様子はもういつもの素の状態と言っていいだろう。
◇◇◇
昼休み、また俺たちは屋上で二人で居る。
「はぁ、教室で自然に出来るのもいいけど、やっぱり2人で居るのは別格よね」
そういって俺の肩に頭を預けてくる。
「でも、もう猫をかぶる必要は無くなったな」
「今度は逆に、陽太の前だけで猫かぶろうかな」
「なんでだよ」
「だって、好きだったでしょ……にゃあ」
日奈子が猫のポーズをしてみせる。俺は今度こそ照れずにそれを見る。
そして、そのまま顔を引き寄せてキスをした。
(完)
――――――――
たくさんの方に読んでいただき大変感謝しております。ありがとうございました。
なお、スピンオフとして竹田の恋人探し編も少し書いていますので、いつか公開するかもしれません。
また、新作を今週末には公開予定です。内容は本作と似たテイストですが少し長くなります(63話を予定)。
「声が大きい元気系美少女が陰キャの俺を好きらしい」はまだまだ続きますので、こちらもよろしくお願いいたします。
https://kakuyomu.jp/works/16818093076780722449
※7月3日追記
新作ラブコメ「夏休みに部活帰りのクラスメイトと毎日会ってます」の公開を開始しました。
はぐれ者の俺がクラスのアイドルと同じ電車に乗り合わせたら秘密の関係が始まった uruu @leapday
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