第31話 教室の日奈子

 翌日の朝。日奈子が教室に入ってくる。俺とは目を合わせない。それはいつものことだ。俺たちの関係は秘密なのだから。


 そこに竹田が登校してきた。しばらくすると竹田は俺のところに来た。


「あの後、大丈夫だった?」


「大丈夫なわけないだろ」


「それもそっか。昨日はごめんね」


「もうああいうことはやめろよ」


「うーん、どうしようかな。なんてね」


「お前なあ」


「じゃあね」


 竹田が自分の席に戻っていった。俺は日奈子が気になってふと見てしまう。すると、すごい目つきでにらんでいた。俺は慌ててメッセージを送る。


陽太『バレるぞ』


日奈子『なんで美子が話しかけて良くて私は話しかけられないのよ』


陽太『お前が困るからだろ』


日奈子『はあ? 頭にきた』


 そのメッセージを見て俺は慌てて日奈子の方を見る。すると、日奈子が俺の席の方に向かってきていた。それを見て上水と森本が慌てている。


「日奈子!」


 森本が言うが日奈子は立ち止まらなかった。そして、俺の席の前まで来た。


「陽太、おはよう」


 日奈子がにっこりと笑って俺に言う。その光景に何が起きたのかと教室中が注目しだした。


「お、おはよう」


 俺は何とか返事を返す。


「今日、お昼一緒に食べようか」


「え?」


「いつものように屋上で待っててね」


 日奈子は笑顔のままだ。そして、自分の席に戻っていった。教室中があぜんとした感じになっている。


「ちょっと日奈子、なにやってるのよ」


 森本が日奈子に言う。


 さらに他の女子も日奈子のところに来た。


「石川さん、笹垣君と仲良かったの?」


「あー、うん。ちょっとね」


「陽太って呼んでたよね」


「うん、そうだよ」


「お昼一緒に食べるの?」


「うん、今日はそういう気分だし」


 他の女子達は何が起こったのかよく分からないという感じだ。


 そして、井川が俺のことを苦虫をかみつぶした顔で見ていた。まずいな。


◇◇◇


 昼休みになった。日奈子と一緒に屋上で食べるのか。

 俺は立ち上がった。と、そこに井川が来た。


「おい、笹垣。調子に乗るなよ」


「は? 何がだ」


「石川がお前に話しかけたからって」


「それがどうした」


「だからってお前にチャンスはねえんだよ」


「はあ?」


「お前、石川と付き合えるとか思ってるんじゃないのか? バカだなあ。石川には彼氏が居るんだからな。知ってるか?」


「ああ、知ってる」


 よく知ってるぞ。


「ほう、教室の事情に疎いお前でも知ってるのか。じゃあ分かるだろ。石川がお前に話しかけたのはただの温情だ。調子に乗るなよ」


 井川がいつものように俺の胸ぐらをつかんできた。

 俺はそれを振り払い、日奈子に言う。


「じゃあ、日奈子行くか」


「はぁ!?」


 井川がまた俺の胸ぐらをつかんできた。


「調子に乗るなっつってんだろ。石川には彼氏が居るんだからな」


「……お前、彼氏が誰だか知ってるのか?」


「知らねえよ。誰だよ」


「俺だよ」


「は?」


 井川が呆然とした。その隙に俺は井川の手を払う。

 そして、近づいてきていた日奈子の手を取った。


「行くか」


「うん!」


 俺たち2人は教室を出た。その後、教室からすごいざわめきが起こっていた。



――――

※次回で最終話になります

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る