第30話 電車の竹田
そして、俺と竹田は電車に乗り込んだ。俺はいつもの一番後ろの席に座る。竹田は隣に座ってきた。かなり距離が近い。
「お前なあ……」
「いつも日奈子はこのぐらいに座ってるでしょ」
「そりゃ、付き合ってるからだろ」
「付き合ってないときもこのぐらいだったよ」
「そうだけど……俺の近くに座って嬉しいか?」
「嬉しいよ。あの日奈子が愛する人だもん」
そう言って竹田は上目遣いに俺を見た。
「どう? 私って」
「何が?」
「だから、かわいい?」
「お前、自分で何言ってるのか分かってるのか?」
「分かってるよ。私、自分が可愛いかよくわかんないから聞いてるの。ショートカットで眼鏡だしあんまり可愛くないって思ってたんだけど、実は最近立て続けにコクられて……」
「へぇー」
「たいして話したことも無い男子だったから断ったんだけどさ。もしかして、私イケてるのか?って勘違いしだしたんだよね」
「なるほどな、だから俺に可愛いか聞いてみたのか」
「うん、どう? 私」
「そうだなあ、普通よりは可愛いんじゃ無いか」
俺は正直に言った。
「え、やっぱりそうなんだ。お世辞とか言いそうにない笹垣君がそう言うなら自信持っていいよね」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、日奈子とどっちが可愛い?」
「そりゃ、決まってるだろ」
俺はどちらとは言わなかった。
「ま、そりゃそうか。クラスのアイドルにはかなわないよね。そこまでじゃないのはわかってるけど」
そう言いながらも竹田は少し拗ねた顔をした。
「そうじゃない。俺は日奈子の恋人だ。だから世界で一番日奈子が可愛いと思っている。だけど、お前の方が日奈子より可愛いと思うやつも居るんじゃないか?」
「そ、そうかなあ。そんなやつと早く私も出会いたい」
「お前に告白してきたやつはそう思っていてもおかしくないと思うぞ」
「え、そうなのかなあ。あっさり振っちゃったけど、もうちょっと大事にしたら良かったかも」
「お前から声かけてみたらどうだ。たぶん、死ぬほど喜ぶぞ」
「ふーん、そうなのかあ。それじゃ、誰にしようかなあ……」
竹田は選べる立場なんだよな。ぜいたくなことだ。
そういったときに電車が止まった。たくさん人が乗り込んでくる。と、そこに日奈子が居た。
「お、おい」
俺は慌てて竹田に言う。
「え? ああ」
慌てて竹田は立ち上がった。
「日奈子どうぞ」
「……」
日奈子は黙ったまま竹田が空けた席に座った。
「えっと……」
「美子、なんで陽太と一緒に居るのかしら?」
「たまたまだよ。ほんと」
「なんかくっついて座ってなかった? 私が来たら慌ててたし」
「そ、そうかな。アハハ」
「笑ってごまかすんだ」
「ご、ごめん……たまたま笹垣君と会ったんで……いつも日奈子が楽しそうにしてるから私もしてみようかなと」
「はあ?」
「ごめんなさい!」
竹田は頭を下げた。
「はぁ。もういいわ」
「ほんとにごめん!」
そう言って竹田は前の方に逃げていった。
「さてと……」
今度は日奈子は俺の方を見た。
「楽しそうにしてたね、陽太」
「そんなことはない」
「美子に迫られて嬉しかった?」
「迫られてないから。俺は日奈子だけだ。それはあいつにも言った」
「それを言う展開になったというのが迫られた証拠でしょ」
「うっ……そうかも」
「まったく。誤解されるようなことは謹んでよ」
「ごめん」
「罰として明日屋上ね。私が満足するまでしてもらうから」
「わ、わかった」
「はぁ。頭冷やそうと思ったのにヒートアップしちゃったよ」
そう言って日奈子が俺に近づいてくる。
「うーん、なんか違う女子のにおいがする」
「そうか? そこまで近づかれてないと思ったが」
「私のにおいで上書きしないと」
日奈子が頭を俺の腕にこすりつける。
「まるで猫のようだな」
「もうやってあげないからね」
「今日は俺が悪かった。はっきり拒絶すべきだった」
「そうよ、わかればいいけど……」
日奈子の頭を俺はなで続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます