第28話 はじめて

 昼休み。俺は屋上で日奈子を待った。しばらくすると、日奈子がやってくる。


「ここでは目立つし、裏行こう」


 日奈子が言う。裏手に回ると誰も居なかった。見られる心配は無さそうだ。


「うん、大丈夫」


「いろいろ聞かれて大変そうだったな」


「うん、だからご褒美ちょうだい」


「わかった」


 俺は日奈子の頭をなでる。すると、日奈子は俺に抱きついてきた。


「お、おい……」


「いいでしょ、彼女だし」


「いいけど、見られたら言い訳できないぞ」


「気を付けるから」


 そう言って俺を壁に押し当てる。


「はぁ。癒やされる」


 日奈子はしばらくそうしていた。俺は頭をなで続けていた。


 俺は、誰かに見られやしないかと周囲を見渡した。すると、壁の向こうから誰かが見ている。


「お、おい……」


 俺は日奈子を体から離した。


「え、何?」


 日奈子が驚いて俺を見る。


「ごめーん、日奈子。お邪魔しちゃって」


 そこに上水と森本が出てきた。


「一華! 由美! どうして……」


「だって、2人で消えるから、ここかなあって」


 そうだった、上水にはここで見つけられたのだった。


「日奈子、気持ちよさそうだったねえ」


「ちょ、ちょっと、やめてよ……」


「いいじゃん、愛する人に抱きついて……うらやましいなあ」


「もう、一華。怒るよ!」


「ごめん、ごめん。もう言わないから。でも、注意しないと見つかるよ」


「そ、そうだな」


 俺は言った。


「学校では自重した方がいいと思うよ」


 森本が言う。


「いろいろやりたい時期だとは思うけど」


「い、いろいろって……もう、由美……」


「え、もしかして、もういろいろしちゃった?」


「してるわけないでしょ! 昨日付き合いだしたんだから」


「そっか、まだなんだ」


「うん、今だって初めて……その……抱きついたし」


「え、そうなの?」


「う、うん……」


 日奈子の顔が赤くなっていた。


「日奈子から抱きついたの?」


「そ、そうだけど……」


「ふーん、笹垣君、頭なでてただけで抱き返してなかったよね」


「そ、そうか?」


「うん、そういうときは左手をこう、腰に持って行かないと」


 森本が実演して見せている。


「そ、そうか」


「ちょっと、由美! 余計なこと言わなくていいから」


「あー、ごめん、ごめん。ちょっと気になっちゃって。でも、ほんと、日奈子がべた惚れだよねえ」


「あ、私も思った。意外……」


「い、いいでしょ、もう」


 日奈子の顔はさらに真っ赤だ。


「じゃ、私たちは退散するから後は二人で楽しんでね」


 上水と森本は去って行った。


「はぁ、ごめん」


 日奈子がため息をついた。


「まあ、あの二人に見られるのはいいだろ」


「良くない。二人の時間邪魔されたくないし」


「そ、そうか」


「続きするから」


 そう言ってまた抱きついてきた。俺は日奈子の頭をなでる。そして、左手を腰に回した。


 すると日奈子が俺を上目遣いで見上げる。そして目を閉じてきた。これは……でも、こんなところでいいのだろうか。俺は辺りを見回す。誰も居ないようだ。俺は頭を下げ、唇を一瞬だけ重ねた。すると、日奈子が目を開ける。


「キス……しちゃったね」


「そ、そうだな……」


「ありがと。元気出た」


「そ、そうか」


「うん。すっごく元気でた。じゃ、先帰ってるから!」


 そう言って日奈子は教室に帰っていった。


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