第26話 報告

 俺と日奈子は教室に戻った。そこには、森本と上水と委員長の竹田が居た。森本が俺たちを見て言う。


「日奈子! どうだったの? って一緒に来たって事は……」


「うん。大成功!」


「やったね、日奈子!」

「おめでとう!」

「ようやくだね、お二人さんおめでとう」


 3人は俺たちを祝福してくれた。


「ありがとう。ちょっと焦ったけどほんとよかった。みんなのおかげ」


「いやーよかったよかった」


「でも、遅すぎるぐらいだよ」


 竹田が言う。


「そうかな?」


「うん。だって、電車であれだけイチャイチャしてて付き合ってないとか犯罪だから」


「そんなにひどいの?」


 上水が言う。


「ひどいひどい。独り身には目の毒だから」


「ち、違うから。イチャイチャとかしてないし」


 日奈子が言い返す。


「無自覚だから恐ろしいのよ。すごく距離近いしスキンシップがね……」


「あー、私が見たときも腕組んでたし」


 森本が言う。


「私が見たときは頭なでてたからね」


 上水が言う。


「え、そうなの?」


 竹田は聞いていなかったらしく驚いている。


「あんまり言わないでくれるかな、恥ずかしいし」


 日奈子が3人に言った。


「あーでも、これってすごくいいことだよね。日奈子的にも由美的にも」


「そうなの?」


 上水の言葉に竹田が聞き返す。


「うん。だって、ちゃんと彼氏が居るってなったら井川もさすがに声かけないでしょ」


「そうだよね」


「明日、日奈子に彼氏ができたってことだけは発表させてもらうからね」


 森本が俺に言う。


「俺ってことは言うなよ」


「分かってるって。そこは隠して言うから」


「そうなればもうああいうことは起きないね」


 竹田が安心したように言った。


「うん。クラスの平和は保たれる。笹垣君ありがとう」


 俺がクラスの平和をね。不思議なもんだ。


「よし、帰ろう! あ、日奈子と笹垣君はもう少し後からね。私たち3人はお先に!」


 そう上水が言って、森本と竹田とともに出て行った。

 教室には俺と日奈子だけが残された。


「はあ。私たちはもう少しここに居てから帰ろうか」


「そうだな」


「それにしても私に彼氏か」


「なんだよ、俺じゃ不服か」


「そんなわけないでしょ。嬉しいんだよ」


 そう言って俺の腕をつかんだ。


「お前、教室ではやめておけよ」


「何よ。誰も居ないんだからいいでしょ」


 日奈子はさらに腕を抱きしめてくる。俺に柔らかいものが当たった。


「お前……当たってるぞ」


「いいのよ、彼女なんだから。彼女にサービスは?」


「は?」


「サービスしてよ」


 頭をなでろって事か。俺は日奈子の頭をなでだした。


「うん。これこれ。はあ。幸せ」


 日奈子が幸せならいいか。俺たちはしばらくそうしていた。


「はぁ。やっぱり彼氏はいいわね。安心する」


「そうか?」


「うん。私を思ってくれる人が居るって保証だもん。彼氏になってくれてありがと」


「そんなの俺のセリフだろ。クラスのアイドルが――」


「もうクラスのアイドルはいいよ。彼氏が出来たらアイドル卒業でしょ」


「そうかもしれないな」


「うん。もう私に入らない肩書きだよ。よし、帰るか。イチャイチャしながら」


「お前、イチャイチャじゃなかったんじゃないのかよ」


「今まではそうだけど、これからはするから」


「あんまり激しいのはやめておけよ」


「わかってるわよ」


 俺たちは電車に乗って帰った。電車の中では日奈子はずっと俺の腕に抱きついていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る