第19話 フードコート

 結局、俺たちはいつもの百貨店地下のフードコートに来ていた。

 蜂楽饅頭の白あんと黒あんを日奈子がおごってくれた。自分は白あん1個のようだ。


「ごめんね」


「だからいいって」


「由美には絶対言わないように言っておくから」


「うん……まあ大丈夫だろ。俺たちを応援しているみたいだしな」


「そうね」


 俺は推測を確認してみることにした。


「森本さんが好きな人って、井川なのか?」


「……やっぱり、わかっちゃった?」


「まあな。会話を聞いていたら」


「うん。井川が私をいつも誘うでしょ。だから、好きなんじゃないかって由美が気にしてて」


「そうか」


「私は好きじゃないって言ったんだけど。でも、土曜に見られて由美安心したみたい」


「安心ね……」


 俺たちはそういう関係じゃないんだけどな。


「安心してテンション上がっちゃったみたいで、今日いろいろね」


「確かに、何かハイテンションだったな」


 それで名前は出さずともいろいろ暴露してしまっていた。


「その……大変じゃ無かったか?」


「何が?」


「だから、彼氏みたいな人がお前に居るってなったんだろ。いろいろ言われなかったか?」


「言われたわよ。どういう人だ? とか、この学校の生徒か? とか。何も言ってないから安心して」


「いや、俺のことはひとまずいいとして、お前に悪影響があったら嫌だなって」


「え? 何が?」


「だからそういう人が居るってなったら、人気落ちるだろ」


「は? あはは、そういうこと」


「なんだよ」


 日奈子は自分がクラスのアイドルと言うことに誇りを持っていると俺は思っていた。だから、自分の人気が落ちるのはやっぱり嫌なんじゃないだろうか。


「別にいいよ。人気落ちたって。確かにクラスのアイドルだけどさ。そんなに人気あっても迷惑なだけだから」


「そうなのか?」


「そうよ。知らないやつに告白されたり大変なんだから」


「告白、されてるのか?」


「うん。だから放課後遅いときもあったでしょ。あ、全部断ってるから安心して」


「なんで俺が安心するんだよ」


「あ……心配かなって」


「そりゃ……心配だけどさ」


 しかし、何が心配なんだ。自分でもよくわからんな。


「とにかく、私の人気は落ちてもいいから。クラスのアイドルじゃ無くなっても別にいいよ」


「そうなのか?」


「うん。でも、まだまだ私がクラスのアイドルらしいけどね」


「自信あるんだな」


「まあね、自分でも可愛いとは思ってるから」


「お前、自分で言うなよ」


「いいでしょ、今は素なんだから」


 俺と日奈子はその後もいろいろと話した。気がついたらもう結構な時間だ。


「あ、こんな時間。じゃあ、行こうか」


 日奈子が立ち上がろうとする。


「ちょっと待て。まだサービスしてもらってないぞ」


 俺は忘れずに言った。


「あ、ごめんごめん。忘れてた」


「忘れるなよ」


「にしても、好きだねえ」


 日奈子がニヤニヤしている。


「いいだろ」


「ふふ。じゃあ、いくよ……にゃあ」


 日奈子が猫のポーズを取る。俺はやっぱり恥ずかしくなって目をそらした。


「ふふ、これを見てる陽太も可愛いよ」


「う、うるせえ」


「満足してもらえたかな?」


「……うん」


「ふふふ。して欲しいときは言ってね」


「自分から言えねえだろ」


「そうなんだ。でも、いつでもいいからね。じゃ、行こう!」


 日奈子が俺の手を取った。俺も立ち上がる。電停まで俺と日奈子は手をつないだままだった。

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