第15話 デート

「なんか……ごめんね」


 日奈子が俺に謝る。


「謝らなくていいよ。いつかは見つかるとは思っていたから」


「そうだけど。でも、由美には誰にも言わないように言ったから」


「そうだな。あの子は信頼できそうだ」


「うん。大丈夫だと思う。でも……」


 そう言って日奈子はため息をついた。


「どうした?」


「せっかく楽しかったのに、何か台無しになっちゃって。どうする? もう帰る?」


 日奈子は残念そうに言った。せっかく楽しそうだったのにこのまま帰ると後悔しそうだ。


「駅ビルぶらぶら見るんじゃなかったのか? まだ全然見てないぞ」


「……うん。陽太はいいの?」


「俺はいいって。今のことなんか忘れて楽しめよ」


「そうだね。わかった。楽しもう!」


 日奈子は元気が出たようだ。


「じゃあ、下の階から見ようか」


 俺と日奈子は5階に移動した。そうやって、一階ずつ気になるものが無いか見ていった。時には日奈子が気に入った洋服を見つけ、その試着を俺が見たりした。また、日奈子が俺に試着させることもあった。


 結局、日奈子は洋服を2着買った。俺は買う気は無かったがシャツを1枚買った。


「じゃあ、最後、軽く何か飲んで帰ろうか」


「そうだな」


 俺たちはチェーンのコーヒー店に入り、そこで飲み物を買って座った。もう、足がかなり疲れたし、少し休みたい。


「はぁ、楽しかった。由美が現れたときはどうなるかって思ったけど、ありがとね」


「俺も楽しかったから」


「そう? 良かった。陽太はこういうことあまりしないでしょ」


「そうだな。日奈子はよくやってるんだろ」


「うーん、猫かぶりモードならね」


「なるほどな」


「にゃあ」


 また、日奈子は猫のポーズを取った。俺は思わず照れてしまう。


「ふふ、今日楽しかったからサービス」


「……ありがとな」


「あら、お礼なんて珍しい」


「そんなことないだろ。俺は日奈子に感謝してるぞ」


「え、そうなの? いつも私の話ばかり聞いてもらってて迷惑かなって思ってたけど」


「俺ははぐれ者だから誰も話すやつなんて居ないし、日奈子と話すことで世間と繋がっている気がするよ」


「そうなんだ。私で良ければいつでも話すから。必要なら呼んでね」


「わかった」


「そう言いながらいっつも呼び出すのは私だけなんだから」


「まあ、帰りの電車で話すし」


「学校で私と話したいとか思わないの?」


「思わないな。メッセージもあるし」


「そっか。そうだよね」


 日奈子は少し寂しそうに少し下を向いた。


「俺はメッセージの方が話しやすいだけだから。お前と話したいとは思ってるよ」


「そ、そう?」


「そうだよ。俺からメッセージ送ることも多いだろ」


「そういえば、そうね。フフ」


 日奈子は少し笑った。


「はぁ。楽しかった今日ももう終わりか」


「また、来ればいいだろ」


「ほんと? また、誘っていい?」


「ああ、俺は暇だからいつでもいいぞ」


「わかった。じゃあ、またデートしよ」


「デ、デートか」


 そう言われると妙に意識してしまう。


「うん。デート。しようね」


「わかったよ」


 俺たちは帰路についた。


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