第14話 森本由美

「見ーちゃった」


 森本は俺たちにそう言って近づいてきた。


 日奈子は慌てて俺の腕を放す。顔がみるみる赤くなっていた。


「由美、今のは……」


「とりあえず、詳しく聞かせてもらおうかな」


 俺たちは森本さんの後ろについていき、隣の書店に併設されているカフェに座った。


「本屋に居たら日奈子が見えたから声かけようと近づいたらびっくりしたよ。で、いつから付き合ってるの?」


「付き合ってないから」


 日奈子がすぐに反論する。


「え、あれで付き合ってないの!?」


 森本さんが驚いて俺たちを見た。


「腕組んでたよね?」


「あれは……ちょっと、じゃれあってただけで」


「付き合ってないのに?」


「うん……」


 日奈子が下を向く。


「笹垣君、だよね。うちのクラスの」


 森本さんが俺に聞く。


「ああ、そうだ」


「ほんとに付き合ってないの?」


「付き合ってない」


「ふーん、じゃあ、どうして今日二人で会ってるの?」


「それは……」


「デートだよね?」


 確かにデートとさっき認めたばかりだったが……。


「ひ……石川さんの話を聞こうと思って来ただけだ」


 日奈子ではなく石川さんと言い換えた。


「話? 何か相談してたの?」


「そ、そうなんだよ」


 日奈子が話を合わせる。


「ふーん、休日にねえ。まあ、いいけど。私にとってはいいことだしね」


 森本さんが日奈子に言った。


「いいこと?」


 俺がよく分からず森本さんに言う。


「うん。実は昨日、日奈子に相談してたんだ」


「あー、そうだったな」


 俺は昨日、日奈子が森本さんに相談を受けたから一緒に帰れなかったのだ。


「え、知ってるの?」


「あ、日奈子から聞いてたから」


「日奈子!?」


 しまった。つい、日奈子と言ってしまった。


「親しくなったから名前で呼んでるだけだから。いちいち反応しないで」


 日奈子が森本さんに言う。


「し、親しいんだ。だって、教室ではそんなの見せてないよね」


「うん……。周りがうるさくなるかなあって思って」


「そうなんだ。秘密の関係かぁ」


 森本さんがニヤニヤし始めた。


「それで、森本さんの相談って何だったんだ?」


 俺が話を戻す。


「あー、恋愛相談。私が好きな人が居て、その人が日奈子を好きなんじゃないかって思ってて……。日奈子はどうなんだろうなあって」


 なるほど、だから日奈子が居ないといけなかったのか。


「私は好きじゃ無いってちゃんと言ったよ」


 日奈子が言う。


「うん。でも、不安だったけど、2人見て安心したよ」


「何よ。陽太ともそんなんじゃ無いから」


「陽太!」


「だから、いちいち反応しないで」


 日奈子がほとんど素の状態になっている。やっぱり、森本さんとは相当親しいと言うことだろう。


「でも、日奈子は、い……あー、あの人とはこんなデートとかしてないんでしょ?」


「するわけないでしょ」


「じゃあ、笹垣君の方が親しいって事でいいよね」


「当たり前でしょ。陽太が男子では一番……その……親友だから」


 親友か。俺は日奈子にとっての何なのかがようやく分かった。


「そっか。うん、ほんと良かった。安心して、2人のことは誰にも言わないから。約束する」


「ほんと、言わないでよ」


「わかってるって。そして、応援してるから」


「応援?」


「うん。2人が上手くいけば私も安心だもん」


「だから、そんなんじゃないから」


 日奈子が赤くなっている。


「わかったわかった。さ、お邪魔虫は退散しますね。笹垣君、日奈子のこと、よろしくね!」


 森本さんは去って行った。

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