第12話 ランチ

 俺たちはまずランチに行く。場所は日奈子が選んでいた。駅ビルの6階にあるレストランだ。

 俺たちは向かい合って座った。


「でも、ほんと、さっきはありがとう」


「ああいうの多いのか?」


「そんなに多くないよ。たまにあるけど」


「やっぱりか。可愛いのも大変だな」


「だ、だから、そんな急に言わないでよ」


「は? 何をだよ」


「可愛いってこと」


「いつも言われてるだろ。クラスのアイドルなんだから」


「そうだけど。陽太に言われると照れるから」


「なんでだよ」


「素の私だからよ。猫かぶってたら受け流せるけど、そうじゃないんだから」


「そ、そうか。わかった。言わないようにする」


「……それも何か嫌ね」


「は?」


「やっぱり撤回。言っていいから」


「なんだよ」


「女の子はいつでも可愛いって言って欲しいのよ。だから、陽太も言って」


 言うなと言ったり、言えと言ったり、よくわからんな。でも、ここは素直に従っておいた方が良さそうだ。


「わかった。可愛いと思ったら言うよ」


「うん。で、今は?」


「今? ……可愛いよ」


 俺は照れながら言った。


「そ、そう。ありがと」


 日奈子も照れているようだ。


「ていうか、お前はいつも可愛いだろ」


「はあ? だからそういうところが……」


「え、今のダメだったか」


「はぁ。もういいわよ。私は可愛いし」


「ほんと、自分で言うところがお前は面白いよな」


「何よ。いいでしょ。クラスのアイドルって言われてるんだし」


「そうだなあ」


「クラスのアイドルとデートできるんだから感謝しなさい」


「お前、これデートって言って良かったのか?」


 意識するから言わないようにするって言ってたが。


「い、いいのよ。もう認めるわよ。デートって」


「恋人同士じゃなくてもデートになるのか?」


「なるんじゃないの。男女2人で待ち合わせて遊んでるんだし」


「そ、そうか」


 デートと意識すると俺も恥ずかしくなってきた。


「だから、今日は楽しもう!」


 日奈子が笑顔で言った。その顔はクラスのアイドルにふさわしい破壊力があった。


「お、おう。そうだな」


 その後に食べた食事はあまり味が分からなかった。



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