第11話 待ち合わせ

 土曜日10時半。俺は熊本駅前にいた。ここにはちょっとした噴水がある。その前で待ち合わせだ。俺はこういう経験は無い。何を着ていくか悩んだが、彼女でも無いのだし、結局いつもの黒ずくめの服だ。


 待ち合わせは11時だが、俺は少し早く来ていた。そこにメッセージが届く。


日奈子『ごめん、少し遅れる』


陽太『大丈夫だ』


 11時を15分過ぎても日奈子は来ない。遅れるとは連絡が来ていたが、俺は少し心配になって駅の改札の方に行ってみることにした。


 すると、そこに日奈子は居た。だが、周りに男が3人ほど居て話しかけられている。ナンパか。日奈子は壁際に追い詰められて動けないようだった。


 俺は急いで日奈子の元に行く。


「日奈子、大丈夫か」


「陽太!」


 男どもが俺を見る。


「なんだよ、お前。俺はこの子と話ししてるんだから邪魔するな」


「はあ? なんだと?」


 俺は3人をにらみ返す。3人はひるんだようだが、それでもまだ俺に言ってくる


「俺らはこの子に用があるんだ。お前、何なんだよ」


 確かに。俺は日奈子の何なんだろう。だが、ここは本当のことを言うまでもないか。


「俺は彼氏だが?」


 俺は3人をにらむ。


「なんだよ、彼氏持ちかよ。つまんね。行こうぜ」


 あっさりと3人は引き下がって去って行った。


「ありがとう、陽太」


 日奈子は俺の腕をつかんで言った。相当恐かったようだ。


「気にするな。すまんな、勝手に彼氏とか言って」


「ううん。こういうときなんだからいいよ。ちょっと嬉しかったし」


「ん?」


「あ、こっちの話。さ、行こう!」


 日奈子は駅の外に歩いて行った。

 それにしても、日奈子の私服は初めて見たが、白系統のワンピースに水色のさわやかな上着。やつらが声を掛けたくなるのも分かるぐらいの可愛さだ。


「どうしたの?」


 俺が日奈子の服に見とれて動かないで居ると日奈子が俺を見て言った。


「私服初めて見たけど、似合ってるなって思って」


「そ、そう? ありがと。陽太もいい感じだよ」


「俺はいつものダサい格好だから。日奈子の横を歩くの恥ずかしいな」


「何言ってるの。彼氏なんでしょ」


 俺の腕を日奈子が引っ張る。


「それは追い払うための嘘だろ」


「そうだけど、もう彼氏って言っちゃったんだから。責任取ってよ」


「なんでだよ、まったく」


 今日は日奈子の彼氏ごっこに付き合わされるのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る