第5話 放課後

 放課後になった。俺は何の予定も無い。それが普通だ。授業が終わるとすぐに教室を出た。


 そのまま路面電車の停留所に向かう。今日は帰りの生徒でいっぱいだ。石川日奈子の姿は無い。おそらく、来るとしたら俺の後ろからだろう。ふと振り返ったがそれらしき姿は無かった。


 ここ2日は一緒に帰ったが別に約束しているわけでは無い。俺は電車に乗り込んだ。


 しばらくすると、石川からメッセージが来た。


石川『今、どこ?』


笹垣『電車の中だけど』


石川『はあ?』


 石川から怒りのスタンプが届く。どうも怒っているようだ。


石川『なんで先に行くのよ』


笹垣『一緒に帰る約束してたっけ?』


 俺が忘れていただけだろうか。


石川『してないけど』


 なんだよ、やっぱりしてないじゃないか。


石川『私が素を出せるのはあんたの前だけって言ったでしょ』


笹垣『だから?』


石川『一緒に帰ってよ』


 それならそうと先に言っておけよ。


笹垣『分かったよ。明日からな』


石川『だめ、通町筋で降りて。パル玉の前に居て』


 有名待ち合わせスポットに居ろと。


笹垣『なんでだよ』


石川『私のストレスを発散したいから』


 猫をかぶってストレスがたまっているらしい。ふと、昨日の猫のポーズが浮かぶ。あれは可愛かったな。仕方ない、行くか。


笹垣『分かったよ』


 俺は仕方なく通町筋で降りた。パル玉とは旧パルコ前にある回転する石のボールだ。正式にはグラニットボールというらしい。熊本の待ち合わせスポットとして定番だ。俺はその近くに行き、スマホでWeb小説でも読みながら石川を待った。


「お待たせ」


 10分ほど待つと石川日奈子が到着した。


「よし、じゃあ帰るか」


 俺は停留所の方に歩き出す。


「ちょっと!」


 すると、石川が俺の腕をつかんで引き留めた。


「ん? なんだ?」


「せっかく降りたんだから、どこか寄ろうよ」


「はあ?」


 俺は驚いて石川を見た。まるで放課後デートかよ。


「私の話も聞いて欲しいから。だめ?」


 石川が上目遣いで俺を見てくる。


「俺の前で猫かぶるなよ」


「ときどきは可愛いところも見せとかないとね」


「いらんいらん」


「なんでよ」


 素の方が俺は好きだ、なんて言えないな。


「そんなことしなくても行くから」


「そっか。じゃあ、行こう!」


 石川は俺の腕を引っ張って進み出した。

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