第4話 日奈子の会話
翌日、俺は本を読んでいる振りをしながら、石川日奈子のグループの会話を耳をそば立てて聞いていた。石川が言ったことが本当かを確認するためだ。
「日奈子、土日暇? みんなで遊びに行きたいんだけど」
「ごめん、由美。土曜は家の用事があって。日曜はまだ分からないけど行けるようなら連絡する」
「そっか。じゃあ、一華は?」
なるほど、確かに石川は遊びを断っている。また家の用事か。本当は何も無いんだろうな。
「なあ、石川。そんなに家の用事が頻繁にあるのか?」
これを聞いてきたのは、前に俺の胸ぐらをつかんで来た目つきが悪い男子だ。
「うん。井川君、ごめんね。うち、法事とか多いんだ」
「それなら仕方ねえけど。日曜は来いよ」
「うーん、厳しいかも」
「なんだよ、付き合いわりーな」
「ごめんね」
なるほどね。俺はメッセージを送ってみることにした。
笹垣『ほんとは法事とかないんだろ』
しばらくすると、メッセージが返ってくる。
石川『当たり前でしょ』
笹垣『悪いやつ』
石川『笹垣君ははいいやつだもんね』
なんかむかつく。思わず石川を見てしまう。
石川『こっち見ちゃダメでしょ』
しまった。見ないようにしてメッセージを送る。
笹垣『すまん』
石川『私は話しかけてもいいんだよ』
昨日の電車で俺は石川に教室では話しかけないように言っておいた。俺のようなはぐれ者が急にクラスのアイドルである石川日奈子と話し出したら間違いなく反感を買う。
笹垣『やめろ』
石川『どうしようかなあ』
笹垣『お前、ほんと性格悪いな』
石川『笹垣君はいい人だもんね』
笹垣『からかうな』
石川『私はほんとにそう思ってるから。自分が性格悪いって分かってるし』
それに何と返そうかと考えていたときだった。
「ねえ、誰とメッセージしてるの?」
グループの女子が石川に話しかけている。
「ああ、家族よ」
「嘘。何か顔がにやけてたけど」
「え、そんなことない」
「彼氏だったりして」
「か、彼氏とか居ないから」
「怪しい」
「もう。あ、先生来た」
ちょうど先生が入ってきた。それにしても、石川の顔、にやけてたのか。しかし、俺の顔もそうだったかもしれない。気を付けなくては。
休み時間になると俺はまたメッセージを送った。
笹垣『にやけながら俺とやりとりしてたのか?』
石川『うるさいわね。本音出せるから私も楽しいのよ』
笹垣『そうか。役に立ったなら何よりだ』
石川『あんたも気を付けてよ。顔にやけてるから』
はあ? 俺の方見てるのか? 思わず石川の方を見る。石川がこっちを見ていた。慌てて顔を背ける。
笹垣『なんでこっち見てるんだよ』
石川『次、教室移動だからもうほとんど人居ないよ』
思わず顔を上げると確かにもう数人しか残っていない。
「やば、そうだった」
俺は慌てて準備をして教室を出た。石川はしばらく遅れてから出たようで、ギリギリに来ていた。
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