第3話 本当の私
「ため息ついて……今日は疲れたの?」
俺のため息を見て、石川日奈子が聞いてくる。
「お前にな」
「なんで? 私、教室では話しかけてないでしょ」
教室じゃなくて今のお前になんだけどな。でも、さすがにそれを言いはしなかった。
「そういえば、お前、昨日の親睦会、用事があっていけなかったのか?」
俺は教室で石川が言ったことを確かめてみた。
「ううん。行きたくなかったから行かなかっただけ。笹垣君と一緒って昨日言ったでしょ」
「教室では用事があって、って言ってただろ」
「あー、もちろん嘘だよ」
石川は当然のように言った。
「お前、クラスメイトに嘘ついてたのか」
「当然。笹垣君は真面目だね」
「はぁ?」
「それともクラスメイト想いなのかな」
「なんでだよ」
クラスに全く交わろうとしない俺は当然、クラスメイト想いなどではない。クラスメイトなどどうでもいい。
「だって、笹垣君はクラスメイトに正直に言うでしょ? 行きたくないって。私はクラスメイトなんてどうでもいいから嘘つくんだよ」
そういうことか。
「笹垣君も嘘つけばいいのに。正直に言う必要ないでしょ」
「それは……そうだけど」
「私より笹垣君の方がよっぽどクラスメイトを大事に想ってるよ」
俺の方を見ながら笑顔で言う。そんなことはない。石川日奈子はクラスのアイドルだ。みんなから注目を浴び、賞賛され、憧れられている。と思っていたが、本人はクラスメイトのことをたいして大事には思っていないようだ。
「お前……猫かぶってるのか」
「にゃあ」
石川がふざけて手を曲げ、猫のまねをして俺を見る。だが、それが思いのほか可愛いものだから俺は照れてしまい、顔をそらした。
「ふふ、そうだよ。今の私がほんとの私」
「……そんなの俺に見せていいのか?」
「いいでしょ。笹垣君はクラスメイトの枠外に居るんだから」
確かにそうだ。俺はクラスの誰とも馴れ合っていない。クラスで何かやるときも絶対に参加しないし、友達も居ないから、こいつの本当の姿を言うことも無い。仮に言ったとしても誰も信用しないだろう。
「お前、変わったやつだな」
「そう? 笹垣君と同じだと思うけど」
俺と同じか。確かにそうかもしれない。クラスに馴染めないことを隠すか隠さないか、ただそれだけの違いだ。
「はあ。俺に話しかけてきた意味が分かったよ」
「でしょ? だから、友達になろうよ」
石川がスマホを出す。
「なんだよ」
「連絡先。交換しよ。そしたら、私も学校で素を出したメッセージで息抜きできるし」
「俺のメリットは?」
「必要なクラスの情報を教えられる。それに、暇なら私にメッセージ送って息抜きできるよ」
確かにクラスのグループに入ってないから必要な情報が来なくて困ったことはあった。
「分かったよ」
俺は石川と連絡先を交換した。
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