第2話 石川日奈子
石川日奈子もクラスの親睦会に行かなかった、ということがわかっても別に俺は仲間だとは思わない。こいつの事情はきっと何か複雑なものがあるのだろう。なにしろ、こいつはクラスで中心的な場所に居ることぐらいは知っている。そして、俺はその複雑な事情には興味が無かった。
なので、俺は石川日奈子にそれ以上話かけることはない。向こうも話しかけてこなかった。2人の間には沈黙しかない。
そのまま電車は熊本駅前まで到着した。終点だ。俺が立ち上がると石川日奈子も立ち上がった。2人で並んで電車を降りる。そのままJRの駅に向けて歩き出した。
「私は上熊本方面だけど」
石川が俺を向いて言う。
「俺は宇土だ」
「そっか。逆だね。じゃあね!」
石川は改札に入っていった。
久しぶりに女子と話したな。そんなことを考えながら俺は帰宅した。
◇◇◇
翌日、登校するとクラスメイト達は昨日の親睦会の話題で盛り上がっているようだ。俺は関係ないので、自分の机で本を読む。
そこに石川日奈子が登校してきた。
「おはよう!」
「おはよう、日奈子。昨日来れたら良かったのに。すごく楽しかったよ」
「そうなんだ。残念だなあ。ちょうど家の用事があったから」
「ほんと残念。クラスのアイドル日奈子には是非来て欲しかったなあ」
俺はつい話を聞いてしまった。それにしても、石川は行きたくなかったから行かなかったと言ってなかったか。だが、今は『家の用事があったから』と言っていた。昨日は俺に嘘をついていたのか。
今日、石川が俺に話しかけてくることは無かった。俺ももちろん、話しかけることは無い。クラスのアイドルらしいし、そんなやつと話したらどう思われることか。
放課後になり、俺は図書室に行く。何か個人的な勉強になりそうな本を探す。社会科学系、工学系、を手当たり次第読んでいる。面白そうな本を10冊ほど見繕たが、一度に借りられるのは4冊までだ。どれを借りるべきか吟味するため、座って少しだけ読んでみる。
俺は借りるべき4冊を決めるとそれを借り、下校することにした。校門を出て路面電車の電停に行く。もう結構な時間が経っているから下校する生徒は少ない。電停には生徒は一人しか居なかった。
「あ、笹垣君」
また、石川日奈子だ。2日連続かよ。俺は無視して少し離れたところに立つ。だが、石川の方から俺に近づいてきた。
「また、無視?」
「ああ、居たのか」
気がつかなかった振りをする。
「私、結構目立つ方だと思うんだけどな」
確かにそうだ。美しく長い髪、スタイルも良く、遠目からでも彼女と分かる。
「帰り今なの? 遅かったね」
「図書室に寄ってたからな」
「そうなんだ。私は友達と話してたらこんな時間になっちゃった」
聞かないのに自分が遅くなった理由を教えてくれた。
俺が黙っていると彼女もそのまま黙っていた。そのうち、電車が来た。俺は彼女を無視して先に乗り込む。席が空いているのならば座るのはいつも一番後ろだ。ここに座れば片側は誰も居ない。だが、もう片側に石川が座ってきた。
俺は嫌そうに彼女を見るが、彼女はそのまま話しかけてきた。
「今日は空いているね」
「空いているなら、なぜわざわざ俺の隣に座ってきたんだ」
「だって、話したいから」
「……何か話があるのか?」
「特にないよ。ただ、電車の中、暇だから話したかっただけ」
俺はため息をついた。
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