三章 おれと彼女とAI美少女
「そっ。あたし、
「い、一応……」
その言い方に、
「なによ、その『一応』って。堂々と『おれの彼女だ!』って紹介しなさいよね」
「そうね。女子のほうからこれだけハッキリ言ってきているんだもの。男が言葉を濁すなんて失礼だわ」
と、さきらもうなずきながら口にした。
美少女ふたりから同時に責められ、
「そ、そんなこと言ったって……」
『一応……』などと言う言い方が
――だって、仕方ないだろ! おれみたいな冴えないやつに、学校でもトップクラスの人気のギャルの彼女がいるなんて、どうしても信じられないんだよ!
心のなかだけでそう叫ぶ。
――それに、おれは……。
口どころか、胸のなかですら言葉にしたくない思いに唇を噛みしめる。
「でっ、ゆ~じ。この美人ちゃん、誰? こんな知り合い、いたの?」
「あ、いや、こいつは……」
『こいつ』などと言う呼び方をしてはよけい誤解を招きかねないわけだが、そんなことにも気がつかないほど動転していた。
そんな
「はじめまして。わたしは、さきら。今日からわたしも、あなたたちと同じ
――なんで、お前がおれを呼び捨てにしてるんだ!
「いままでフランスにいて、日本ははじめてなの。よろしくね」
――そうか。フランス出身だっけ。それじゃ仕方がないな。
と、なぜか納得してしまう
「へえ、やるじゃん、ゆ~じ! こんな美人ちゃんを痴漢から助けるなんてさ」
表情といい、仕種といい、これ以上ないほどのギャルっぷり。校内の人気投票で常に上位に位置しているのも納得の姿なのだった。
「それじゃ改めて。あたしは
「ええ。ありがとう」
「って、あれ? その目の色……もしかして、アンドロイド?」
「ええ」
「うわっー、すごい! 最近では、アンドロイドも普通に街で暮らしはじめてるって聞いてたけど、本物を見るのははじめてだよ」
そう言って、遠慮の欠片もない視線でジロジロとさきらの全身を眺めまわす。
「ちょ、ちょっと、
「だって、こんな美人ちゃんだよ。たっぷり拝まなかったらもったいないじゃない」
「いやあ、しっかし、ほんとにきれいだわあ。こんなきれいな娘、はじめて見たわ」
「美少女型だから」
「うわっ。自分で美少女って言い切っちゃうんだ」
と、
そんな
「形式名だもの」
「うんうん、これだけの美少女だったら自分で名乗っても許しちゃうよねえ。いかにも、お
「制作者がフランス人だから。『
「ふうん。なるほどねえ。でも……」
と、
「
と、指を伸ばし、ぷっくらとふくらんださきらの胸をツンツンつつく。
――初対面でさすがにそれは、やりすぎだろ!
『世の中には二種類の人間がいる! すでに出会っている友だちと、まだ出会っていない友だちだ!』
全力でそう主張するような性格。その
「うわあっ。おっきい上にやわらか~。人間の女の子そのままの感触だわあ」
実は
「完全人間共生型アンドロイドだから。性行為も可能なように、徹底して人間の感触を再現しているのよ」
「へえ、そうなんだあ。ゆ~じもさわってみなよ。ほらほら、すっごく気持ちいいよ」
「そんなわけにいくか!」
相手はアンドロイド。ただの物。頭ではそう思っていても、見た目は完全無欠の人間の女の子。その胸にさわるなど、とてもできるものではない。それはそれとしても――。
絶世の清楚系美少女と派手で陽キャのギャル。タイプはちがえど、めったにいない美少女ふたりが妙にイチャついているのだ。注目の度合いはいままでの比ではない。まわり中の視線が集中し、
逃げ出したい。
この場から、全速力で走って逃げたい。
しかし、この状況で逃げ出すなんて許されるのか……?
そう真剣に思い悩む
「おい、見ろよ。
「ちぇっ。なんだって、あんなやつが
「しかも、なんだよ。今日はメチャクチャかわいい娘まで一緒じゃねえか」
「許せねえ。少しはわけろ!」
「って、おい。あの目の色……あれ、アンドロイドだぜ! すげえ。はじめて見た」
「バカ、見るな! アンドロイドの目を見ると精神を破壊されるって噂だぞ」
「そんなの、ネット上の都市伝説だろ。実際、さっきから見てるけど、おれたちなんともないじゃないか」
「しっかし、ほんと、きれいだよなあ。アンドロイドとは言え、なんだってあんな美少女が
その声につづき、鋭い舌打ちと共に明らかに聞かせるための独り言がつづいた。
「ちっ。人殺しの息子のくせによ」
人殺しの息子。
その言葉に――。
――事実だ。仕方がない。
と、
しかし、聞き流そうとはしないものがいた。
「ちょっと! なによ、その言い方。ゆ~じのお父さんがなにをしたにせよ、ゆ~じには関係ないでしょ。謝りなさい!」
チラリ、と、さきらが
「人殺しの息子?」
「大したことじゃない。おれの親父は、おれが子どもの頃に、ふたりの人を殺した。無期懲役の判決を受けていまも刑務所に入っている。それだけのことだ」
さきらは納得したようにうなずいた。
「そう。それだけのことね。たしかに」
その一言に――。
聞きようによっては冷淡な言葉。しかし、
「もういい、
「なに言ってんの⁉ こいつらは、ゆ~じを侮辱したんだよ⁉ ゆ~じだって遠慮せずに怒っていいんだよ。『親父のしたことと、おれは関係ない』って」
「いいんだ。それより、急ごう。もうすぐ始業式だ」
それを見た男子生徒の一団は一様に舌打ちの音を立てたのだった。
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