第17話
皇宮パーティー当日。
回復薬を渡して二日後の昼。
私は公爵に呼び出された。
一昨日、グライナー家から部屋へと戻ってから使用人に起こされるまでずっと寝ていた。
その間、食事を一回もとりにいっていないのに使用人達の中に私を心配してみにきてくれたものは誰もいなかった。
薄情だなと思いながら、身支度をする。
最近平民の格好をしていたからか、久しぶりにドレスを着なければならないと思うと気分が下がる。
私はこの世界にきてドレスを着るたびに思う。
'コルセットなんてクソ喰らえ!'と。
内臓が口から出てくるのではと錯覚するほど苦しいのに……
美しく見せるためとはいえ、現代で生きてきた私には理解できない考えだ。
私は苦しいのを我慢しながら、公爵の部屋まで向かう。
途中何度か吐きそうになった。
「お呼びでしょうか。お父様」
私は頬が引き攣りそうになるのを感じながら精一杯笑顔を作る。
「今から我々は皇宮に向かう。わかっていると思うが勝手な真似はするなよ」
公爵は遠回しに、こっそりパーティーに参加しようとするなと言っている。
「はい。わかっています」
言われなくても参加するつもりはない。
私がどれだけこの日を待っていたと思っている。
カメリア家の者が全員いなくなるこの日を。
「なら、いい。絶対に部屋から出るな。大人しくしていろ。いいな」
「はい。お父様」
私は悲しくて涙を我慢しているって感じの表情を作る。
実際はさっさと皇宮に行け、と思っているが怪しまれる訳にはいかないので嫌でも演技しないといけない。
「用はもうない。さっさと出ていけ」
「はい。お父様。失礼します」
私は言われた通りさっさと出ていき部屋へと戻る。
公爵達がパーティーに出かけるまでは大人しく部屋で待つ。
待つこと二時間。
ようやく三人は外に現れた。
三人の服装は派手で、遠くから見ても目立つ。
さっさと行って欲しいのに、何故か馬車の前で使用人たちと話している。
まだなの?と苛立ちながら部屋の窓から見ていると、ようやく公爵達が馬車に乗って皇宮へと向かっていった。
今すぐ、部屋から抜け出したかったが、計画を実行するにはまだ早い。
公爵からの指示で使用人たちは私の行動に目を光らせている。
こんな状況で何かを探している姿でも見られたら困る。
公爵は馬鹿だが、万が一探しているのが白い椿だとバレたら困る。
空が暗くなるまでは待たないといけない。
チャンスはこの一回だけ。
場所は知っているが、あとは時間の問題。
公爵達が帰ってくる前に、使用人達にも気づかれずに見つけなければいけない。
それさえ見つければ儀式は成功する。
私は高鳴る鼓動を感じながら、公爵達が乗っている馬車が小さくなっていくのを部屋の窓から見送る。
その日の夜。
ようやく外に出ても誰かわからなくなるからい、空が暗くなった。
今ならバレずに移動できる。
本当なら転移魔法でその場まで行きたいが初代の結界で魔法は弾かれるので自力で行くしかない。
私は扉をそっと開け誰もいないか確認する。
誰もいないとわかると音を立てずに廊下を歩いて外まで行く。
話し声が聞こえると物陰に隠れ、通り過ぎるのを待つ。
それを繰り返すこと30分。
普通にいけば10分程度でつく距離だが、誰にもバレずにいくとなればそれくらいかかる。
私は椿の庭に入り銅像の前までいく。
今は咲く季節ではないので椿を見れないが、ゲームでここを見たときイラストだったが感動したのを覚えている。
実際に咲いた椿を見れば感動するのだろう。
100本分の椿を一度に見ることができるのだから。
「これが初代カメリア家の当主、アイリーン・カメリア。かっこいいわね」
銅像からでも感じる威厳に本音が漏れる。
「……いや、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ。時間がないんだし」
私は首を横に振り邪念を追い払う。
私は落ち着きを取り戻し、ゲームの設定に書かれていた内容を思い出す。
まず最初に銅像の足元にある一輪の椿を右回りに5回、左回りに7回回す。
そして、最後に9回回す。
そうするとくっついて取れなかった椿が外れる。
これは魔法でくっつけられているので手順さえ守れば誰でも取れる仕組みになっている。
なぜこの通りに回さないといけないのかは理由は書かれていなかったので知らない。
そもそも白い椿が手に入ればいいので、そういうことはどうでもいい。
私はさっさと目的を果たそうと続ける。
椿を銅像の左手の上に乗せる。
これが最初に作られたときの本当の姿だ。
だが初代はわざと魔法で椿を足元のところに変更した。
これには理由がある。
この理由は書いてあったので知っている。
椿は他の花と違い丸ごと落ちる。
それが人間の首が落ちる姿と一人では生きていけなくなった者達の姿と重なるため、人々はそれを縁起が悪いと思い、椿の花を嫌っていた。
だが初代だけは違った。
例え落ちたとしても綺麗だ。
愛でればいい、と。
人々は最初こそ反論したが、初代がこう言うと何も言い返せずに黙った。
「椿を人間として例えているが、もしそうなら人間も一度落ちたらそこで終わりなのかい?誰かが手を差し伸べるチャンスはないというのかい?」
その言葉に誰も何も言えなくなったが、それでも初代のことが気に食わず陰で言うのもはまだいた。
全員が何も言わなくなったのは初代が公爵となり、一年が経った頃だ。
親を亡くした子供や、戦争で腕や足をなくした人に家と仕事を与えたときからだ。
この者達は椿の花に例えられ迫害されていた者達だった。
そんな彼らを救った初代は椿の花を愛する変わり者から、国を救った英雄ともう一つカメリアの王という名で国中の人に尊敬され、愛された。
つまり、最初のお題は弱い者を救う意志があるのか試す試練だ。
興味がなければこんなことをしようとはしない。
実際、歴代当主達の中で初代の求めるものが何かわかったのは3人しかいない。
他の者達はこんな簡単なことにすら気づかない欲の塊の馬鹿達だった。
「……なるほど、ここが第二の試練場ね」
左手に椿を乗せてから少しして足元に魔法陣が現れ、気づいたら洞窟の中にいた。
ゲームでこの場所は見ていないのでこんな風になっていたのかと感動する。
ここのクリア条件も知っているのでその通りにする。
それを繰り返すこと5回。
最後の試練場へと私は連れてこられた。
その場所とは初代のお墓があるところだ。
ここは魔法で隠されているため絶対に初代が認めなければ入れない場所だ。
墓の近くには一本の木が植えてあり、すぐにこれが白い椿の木だと気づく。
銅像の周りに植えられているのは赤い椿。
何故、植えてある場所も当主の花の色も赤と白で分けられているのかも理由がある。
それは花言葉だ。
赤は「控えめな素晴らしさ」「謙虚な美徳」
白は「完全なる美しさ」「申し分のない魅力」
赤い花の当主は白い当主より、初代に認められず劣っているためその花言葉のように生きろという意味がある。
白い花の当主は初代の意志を受け継いでいるため、その花言葉のようだと例えられる。
つまり、赤と白の椿には圧倒的な力の差があると示すため。
初代にそんな意図はなかったが、皇帝や神殿、魔塔、民が望んだためそうなった。
何故白の方が上になったかというと初代が白い服を好んで着ていたからだ。
そのため初代は赤より白の方が好きだと思われ、白の方が上だとされた。
私はゆっくりと初代のお墓に近づく。
私の前に来た人は700年も前。
そんな昔だとお墓が汚いのは仕方ない。
私はなるべく綺麗にしようと掃除するが道具がないので大したことはできない。
「アイリーン様。来るのが遅くなってしまい申し訳ありません。次に来るときはお墓を綺麗にし、お花を添えると約束します」
私は座礼をする。
「では、また来ます」
そう言って立ち上がりこの場から去ろうとする。
だが、本当は早く現れてくれと心の中で祈っていた。
歴代三人が儀式に成功したのはここで初代と会い認められたからだ。
そのときに言った言葉がさっき私が言った言葉だ。
お墓参りをしなかったことへの謝罪と今度はお墓を綺麗にする道具を持ってここに来る。
私は花も持ってくるとも約束したが。
だから、どうかお願い!初代よ、現れてくれ!
ゆっくりと立ち上がり、初代が現れるのを待つ。
その想いが通じたのか、私が立ち上がりきる前に目の前が光る。
その光は神々しくて温かった。
私がその光を眺めていると、中から初代が現れた!
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