第13話 協力



 文献を読み終えて、思案する仙人



「(文献の通りなら、祓うのは可能だ。少し大変だが……しかし、それでいいのか? 彼女達を魑魅魍魎の1つとして祓って)」



 文献最後に、書いてあったこと、そして……自身の気持ちは

 考え込む仙人の、邪魔にならない様に、静かに待つ通哉。



「……私の考えは、彼女達の魂を解放して、あの地に止まる魑魅魍魎を完全に祓いたいと思います」



「っ?! それは、可能ですか? そもそもあの娘達の魂は、残ってると思いますか? 残っていたとしても……それは……できるならば、と思いますが……」



 徐に、自身の考えを話した仙人。考えを聞いて驚く通哉



「おそらくですが、残っていると思います。ただ……解放するにしても、そのまま祓うにしても、1つ問題があります」



「問題? それは、一体何でしょうか?」



「既に、取り憑かれている女の子の事です。廃屋で祓いだしたら、繫がっている、女の子にもかなり影響が及びます。

 当然、結界で守りますが、もし結界以上の負荷が掛かって、破られたら女の子は一溜まりもありません。

 誰か、側にいていざと言うとき守ってもらう必要があります」



 

「なるほど。私の知り合いに、力を持った人物は居ないですね……うぅむ」



 仙人や空峰の知り合いなら、強い力を持った人は居る。だが、皆忙しく来れてもかなり時間が掛かってしまう。待ってる間に、女の子が亡くなってしまう。如何するか、考えていると



「では私で、如何でしょうか?」



「なっ? 千草ちぐさ?!」




 先程から案内などしてくれた女性が、用意した物を机の上に置きながら言う



「貴女は?」



「千成 通哉の娘で、千草と言います。それで、人手が居るなら手伝います」



 正座で座り頭を下げて自己紹介する千草



「馬鹿な事は言うんじゃない! 1度も実践の経験がない、お前の手に負える相手ではないんだぞ! 」



「それは、実践してみなければ分かりませんよ。それに、一刻の猶予もないのですよね?」



 思わず立ち上がり大きな声を出す通哉。対照的に、冷静に淡々と話す千草。正座のまま仙人に向き直り



「確かに、本体を祓うのは私では出来ないでしょう。でも、守りを固めるだけなら私でも、問題ないと思いますが」



「……一切の戦闘に関わらず、家で結界を重ね強固にして、不足の事態に備えてもらう、と言った所か……どうですか? 時間や余裕がない状態ですので、私としては、お願いしたいです。」



 抑揚のない声で言う、千草の話をまとめて聞く仙人



「それは……そうですが……確かに、千草は私より強い霊力を持っているが……」



「お父さん、私はこの時の為に、修行してきました。行かせて下さい」



 淡々と話し頭を下げる千草



「分かった、くれぐれも無理のないように。高見さん、娘を宜しくお願いします」




「ありがとうございます、お父さん。高見さん宜しくお願いします。私の事は、千草とお呼び下さい」




「こちらこそありがとうございます。千草さん宜しくお願いします」



 用意して貰った物を持ち、千草と一緒に社務所を出る仙人



「千草さんこれを、持っていて下さい」



「これは、御守りですか?」



 頷きながら、千草に自分の作った御守りを渡すが



「必要ありません。大丈夫です。それとも、私の力を疑ってますか」



 淡々と話し変わらず無表情で仙人を見る



「疑ってる訳ではないんだ。何かあるか分からないから念のためにな」



「必要ありません。行きますよ」



 一瞬睨む様に見て、仙人の横を通り抜け先に進む千草

 少しだけ苦笑いを浮かべ歩く仙人である



「あっ、仙人さん! 準備出来ました?」



「高見さん其方の方は?」

 


 2人の所に戻った仙人と千草



「初めまして、宮司の娘で千成 千草と申します。今回のお祓いに協力させて頂きます」



「私が、廃屋に行ってる間は彼女が斉藤さん宅に残り守ってくれます」



「それは、ありがとうございます。立川 浩子と言います。宜しくお願いします」



「初めまして。付き添いになるのかな、暁月 絵美です。宜しくお願いします」



 それぞれ頭を下げて自己紹介をする3人。すぐに、車に乗って



「まず、斉藤さん宅に行って下さい。結界を張ります」



 頷いて発進させる浩子


「千草さん、絵巻1つ1つに九字印書いてもらえますか? 私は、経文を札に書いて行きます」



「分かりました。お任せ下さい」



 油性ペンと絵巻を受け取り書いていく千草



「九字印って何ですか?」



助手席に座ってる絵美が質問したら



「……気が散るので、静かにしてもらえますか?」



「んなっ?!」



 無表情の千草に、ぴしゃりと言われ変な声を出す絵美に



「絵美さんすまないが、今は、用意に集中させて下さい」



「あっ、ごめんなさい」



 何時もと違うトーンで仙人に、言われ縮こまりながら謝る絵美。浩子は運転しながら絵美に、小声で何か言うと、頷く絵美。家に着くまで、何も言わないで前を向いていたのだった




  その頃、斉藤宅では



美優の顔を拭き終わった桂子は、娘のベットの前で座り込んでいた。焦点の合わない顔で



「美優……美優……どうして、なんで、私じゃないの……」



 ずっと独り言を呟いていると



「ママ……ママ……こっち向いて」



「っ?! 美優?! 美優なの!」



 桂子の前には、元気な姿の娘が笑顔で立っていた

 酷い隈がある両目から涙が溢れている桂子に、ふわっと抱きしめる美優。桂子は美優に抱き返して



「美優、戻ったのね……あぁ美優」



「もう、大丈夫だよ。   一緒に……ア・ソ・ボ・ウ・ネ 」



 嗚咽をもらしながら、美優が左手ごと鋏で刺していたを抱きしめる桂子。


 

 それを、入り口反対側の隅で、古い人形を抱きしめ見つめている女の子。口元が、歪に笑っていた。それは、冷笑とも嬌笑ともとれる笑みであった














  




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