第12話 過去
明応9年 某日
長く続く戦乱の世、各地で飢饉と疫病が相次いでいた。それによって、多くの者が、命を奪われ、物を奪われ、住む場所を奪われ、飢えに苦しみが広がっていた。そして、怨霊が増え、魑魅魍魎が増え、負の連鎖が起こり続けていた。
其れこそ、常に戦を行っていた者達が、戦を停める程に。
そんな中、ある村も危機に瀕していた。食べ物はまだあるものの、複数の怨霊が集まり魑魅魍魎となり、村に害を及ぼそうとしていた。
その村の、村長には2人の娘がいる。15歳と8歳になる姉妹。母親は早くに亡くなり、3人は村人と協力して仲良く暮らしていた。
今、対策の為に村長の家に集まる村人。
「お姉ちゃん、今日も一緒に遊べないの?」
「ごめんね。 今、手が離せなくて落ち着いたら一緒に遊ぼうね」
亡き母の手作り人形を、抱える妹の頭を撫でる姉
「うん!」
笑いながら頷き、部屋に入り1人で人形遊びを始める妹。そんな、妹を寂しそうに、見つめる姉である
村長の部屋では
「村長さ、決めてもらえねぇか。一刻の余裕もねぇだよ」
「うぅむ。それは、分かっておるが……」
「むらの外さ、暴れてる悪霊鎮めるのに、人身御供の娘っ子さ、村長の娘さんしかいないだよ」
「外に、山賊見かけただ。今、襲われたらひとたまりもねぇべ」
中々、首を縦にふれず悩み続ける村長。襖が開いて姉が部屋に入る
「お父様、元武家の娘として覚悟は出来ております。」
「……
「このままでは、村は滅んでしまいます。幸いわが家は、妹が居ます。明日、人身御供となり鎮めましょう」
「お願ぇします!」
言い、三つ指ついて父親に頭を下げる妙絵と一斉に頭を下げる村人達。
「……分かった。」
苦渋の顔で頷く父親。頭を上げてほっとした表情になる村人達。村人達は妙絵に、お礼を言って家を出た
「……妙絵すまん。変われるものなら、変わってやりたいが……」
「ありがとうございます。お父様、どうかあの娘のことを、宜しくお願いします」
何か堪える表情で頷く父親。その夜は、何時もより豪華な食事となった。妹は不思議そうにしていた。父親が、良いことがあったと言うと素直に信じて3人最後の食事を楽しんだ
「そめ、寝るまでの間一緒に遊びましょう」
「ほんと? いいの?」
優しく微笑んで、頷く妙絵。満面の笑みで嬉しそうに、人形を持ってくるそめ。
そめが、眠るまで一緒に遊ぶ2人であった
翌日、朝日が昇る前の薄暗い早朝、井戸の前で、体を清める為、冷水を被る妙絵。部屋から悲痛な面持ちで見つめる父親。
もうすぐ16歳となり、中々の器量良しの娘。世が平和なら良い縁談もあったろう幸せな生活が送れたはず……自然と右手を握りしめる父親
着々と、用意をこなし白衣を来て父親と共に向かった
朝日が登った頃、そめが目を覚ました。
「お父様? お姉ちゃん?」
何時もなら台所に居る筈の姉、父親の姿がなく、1人分の朝食のみ、用意されているのを見て、人形を抱えて外に出た
何時もなら人の姿があるのに、何処を見ても人の姿は無い。故に、そめが村の外に出ても誰も気付かないでいた。
そして、この行動が後に村の明暗を、分ける事となる
暫く歩くと、人の話し声が聞こえて来る。
声の聞こえた方に歩いていき、目の前の光景に固まるそめ
姉の妙絵は、白衣が完全にはだけ下の袴は完全に脱げている。四つん這いの妙絵に、見たこと無い男達が、腰をぶつけている
すると、そめの存在に気付いた妙絵と男達
「そめ?! な、何故ここに……っ?」
驚いた妙絵の顔を摑み、自分の腰に当てる。
「そ、そめ……逃げろ……そいつら……山賊…」
呼ばれて顔だけ向けると、全身、切り傷と殴られたあざがある父親が、男達に抑えられている
そこに昨日、家に来ていた男達の姿もあったが、そめの視線に、気付き目を逸らす
「へっ、ガキでも、女は女だな」
そめを見ていた山賊の1人が、厭らしい笑みを浮かべ近付いた。体を震わせ人形を、抱え直し1歩下がるそめ
「ぬ、ぬおぉぉぉお!……ちか……ぐはぁ!」
残された力を振り絞り、男達を払いのけそめを助けに行こうとしたが、後ろから刀で複数刺されて倒れる父親
「ぐっ……そ…め……」
力尽きた父親
「っは、お父様?! そ、そめは……っく、妹だけにはぁ……手を出さないで!」
必死の形相で、懇願する妙絵に
「それは、俺達をお前がしっかり気持ちよく出来たらな」
「わ、分かりました」
下賎な笑みを浮かべ妙絵に群がる山賊達。その中に、興奮している村の男達が混ざっていた。
男達が満足するまで、永遠と思われる中続いた
「うっ……え……あ……」
見るも無惨に汚され、目の焦点も合わず虚ろな表情の妙絵。目の前にあるものが放り投げられて、目を見開く
「なん……で……そ…め…」
そこに、変わり果てたそめの姿があった。目は開いたまま、口からは男から出されたものが垂れ、体は傷つき汚れていた。
手を伸ばし妹の体を触って固まる妙絵。妹の体は既に冷たくなっていた。震える手で、妹と側に落ちている人形を引き寄せ、体を隠すように上から抱きしめ嗚咽を漏らす妙絵
「ガキは初めてだが、結構楽しめたぜ。ギャハハハハー!」
妙絵の背中を見ながら大笑いを上げる山賊達。けど、妙絵の耳には聞こえていなかった
なぜなら、村の為と思い人身御供になると、決心したのに。
村人に裏切られ、保身の為に売られ、辱められ、目の前で家族を殺された。溢れんばかりの憎悪・憎しみ・殺意・怒り・悲しみ・苦しみが、体を渦巻く
其れこそ、彼女の感情に気付き取り込もうと、近付いた魑魅魍魎を逆に取り込み膨れ上がっていた。
「……ない」
「あっ?」
「許さ……ない……ろす……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス!!!」
顔を上げた妙絵の顔は、忿怒に染まり血涙を流し髪が逆立ち男達を睨みつける
「ひっ? くっ、このアマ……あっ?」
側にいた山賊が、刀で斬りかかろうとして、振り上げた右腕の肘から先が刈り取られた
「ギャアァァァァァァァア?! 俺の、俺の腕がぁ!」
腕を抑えのたうち回る男を、体に取り込んだ魑魅魍魎が食べた。
それを、見た男達は、恐怖で我先にと逃げ出した。だが、どんなに逃げようとも、捕まり食べられる男達
村の男達は土下座して許しを請いたが、全て食べられた
「そめ……ずっと一緒よ……」
抱いているそめの顔を見るときは、優しい表情の妙絵。魑魅魍魎の力で、自身の体に人形ごと取り込むと、表情を戻した
「全て……殺す……」
妙絵は、村に行き村人全てを飲み込んだ。残っていた村人は、妙絵が人身御供になるのは、知っていた。だが、山賊と組んでいたのは知らなかった。
でも、そんな事は妙絵に関係ない。男・女・老人・子供・全て関係なく取り込み、更に膨れ上がる妙絵
体は既に、人ではなく魑魅魍魎と化していた。
それでも、憎悪・怒りは止まらない。廻りの全てを憎み取り込もうとしていた。
だが
「ぐっ……がぁ……あァァォァァア!」
叫び声を上げながら、かつて自分が辱められた場所に封印された。
この時代の11代目[安倍晴明]の手によって
「……彼女の気持ち、考え、感情はある程度読めました。本当なら彼女達を救ってあげたいのですが、私では封印するので、手一杯。情け無い話しです」
ポツリと零した言葉が、聞こえた後に控える従者
「この戦乱の世では仕方ないかと。各地で、似たような事が起こっております。今は其れ等を、鎮める事で、手一杯なのです。救いは、後の平和になった時代の[安倍晴明]様に託しましょう」
振り返り頷く安倍晴明。前を向き深く頭を下げて立ち去った。次の場所に向けて
「……確かに、胸糞悪いな」
「……えっ?」
読み終えて、ポツリと呟く仙人。
「あっ、いや、何でもありません」
「不謹慎と思いますが、私も同じ気持ちです。」
真剣な表情で言う通哉。仙人も真剣な表情で頷く
「(何が、あったかは、ほぼ分かった。で、どうする?)」
これから、どう動くか考える仙人であった
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