第10話 畏怖


 目的の家に着いた仙人達。浩子がインターホンを押すと、扉が空いた。



「姉さん、思ったより、早かったのね。それで、其方の人が……」



「初めまして、高見 仙人です。今日は宜しくお願いします」



 出て来たのは、30代位の女性、斉藤 桂子 窶れていて見た目より年上に見える



「初めまして。斉藤 桂子です。今日は娘の除霊をして貰えるのでしょうか?」



 若干不安と言うより、半信半疑の雰囲気で聞いてくる



「そうですね。先ずは、状態を視てそれから祓います」



「桂子、高見さんは、今まで来たインチキとは違って、本物の人よ。ここに来る途中に見させて頂いたの」



 姉である浩子に言われ、桂子は驚いた顔で仙人を見る。絵美は、同じように経験した事があるので、苦笑いしていた



「分かりました。娘を元に戻して下さい。お願いします」



「分かりました」



 頭を下げる桂子に、頷く仙人。桂子の案内で、娘 美優の元に行く。今回は、状態が分からないので、先に視る事にした仙人。

 扉の前に、行くと突然中から、悲鳴とも雄叫びにも聞こえる声がした。慌てて中に入る桂子、すると



「いぃぃやぉぁぁぁ! 来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで!! 怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐い怖い恐いぃいぃう!」



 ベットの上で両手、両足、体をベルトで固定されトイレに行けないので、管を通してある状態にも関わらず、あらん限りの力で暴れていた



「み、美優?! 如何したの?!」



「今まで、こんなに動く事は、なかったのですか?」



 酷く狼狽える桂子の姿を見て、確認する仙人



「今までも動いたり、その、左手に鋏刺したりあったのですが、ここまで声を上げて暴れる事はなかったです」



「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」



 更に、目を見開き、首を激しく横に振りだした



「(もしかして、俺に怯えている。いや、あの様子は、何か違うような……しかし)」



 娘の今までにないほどの、変わりように動けずに居る桂子の前に、1歩進むと



「びぃぃぃいいい! 違う違う違う違う違う違う違う遊ぶの違う遊ぶの違う遊ぶの違う遊ぶの違うううえぇぇぇぇぇぇぇげぼっ」



 今まで以上に、恐怖に顔が引き攣り目が開き暴れる取り憑いてる者。声を出し過ぎて暴れ過ぎた為か、胃液が逆流して吐いてしまった。白目をむいて気絶する



「あぁ?! 美優? 美優?! しっかりして!」



 顔面蒼白になり仙人を押しのけ、娘の元に駆け寄る桂子。顔の回りを拭いている



「……不躾ですみません。綺麗になってからでいいので、気を失っている今、視させて頂けますか?」



「……ごめんなさい」



「それは……」



「……無理です」



 仙人の問いかけに、娘の顔を拭きながら答える桂子


「ちょっと、桂子……」



「っ! うるさい!! 出て行って!!」



 睨み付けて言う桂子。その顔は、姉である浩子ですら、見たことない表情で、息を飲んだ浩子



「分かりました。失礼します」



 頭を下げて部屋を出る仙人。その後に続いて部屋を出る浩子。外から見ていた絵美は、何とも言えない表情をしていた



「ごめんなさい。高見さん……高見さんは悪くないのに」



「私が近付いた事で、彼女に取り憑いてる何が、過敏に反応していたので、私が原因の1つと思います。それ以外にもあると思うのですが……」



 歯切れの悪い言い方になる仙人



「触らないと、視えないんですか?」



 妹の時を思い出して聞く絵美



「触ったら、ほぼ確実に分かる……と言いたいですが、今回はそれでも視えないと思います」



「えっ? もしかして、打つ手無しですか? あの子は助からないんですか?!」



 仙人の言葉で、慌てる浩子



「何と言うか、絡みあってると言うべきか……彼女に取り憑いてる者以外の干渉もあります。ここで、祓うのは、難しいです。今はですが」



「それは、もしかして……あの、今のままではお祓い出来ないのでしょうか。あんな妹の姿は初めて見ました。美優も、これ以上苦しんでほしくないです」



 仙人の言わんとする事が、分かったのか驚いた顔で仙人を見ながら言う浩子



「今回の原因となっている廃屋に行く必要があります。そうしないと、今のままでも祓えますが、それをしたら100%彼女は亡くなります」



 強引に祓うと死ぬと言われ浩子は息を飲む



「とにかく、どのような状態で場所なのか視てみたいです。側まで行くと、何があるか分かりません。なので、ある程度の距離まで送って頂けますか? 後は、1人で行きます」



「分かりました。ご案内します」



 頷く仙人。そして、黒鞄からお守りを2つ取り出して、絵美と浩子に渡す



「何が起こるか分かりません。それは、神社で授かるお守りよりは、力は強いです。持っていて下さい。ポケットに入れるだけで大丈夫です」



 それぞれ受け取り、ポケットに入れる。



「廃屋に行く前に、コップか茶碗に塩水を作って頂けますか。塩は小さじ3杯ほどでお願いします」



「分かりました。すぐ持って来ますね」



 1階に降りる浩子。2人になって絵美が



「あの……仙人さん、大丈夫ですか? 文句言われたりしてましたよね。それに……」



「大丈夫です。似たような事はありましたから。それと、肝試しに行って、取り憑かれた人のお祓いもした事ありますから大丈夫です」



 心配そうに聞いてくる絵美に、安心して貰うように話す仙人。

 浩子がコップを持って来た



「用意出来ました。どうぞ」



 受け取ると、塩水に人差し指をつけて、扉の上下、左右の壁の何カ所、文字を書いていく仙人



「経文を書いて彼女の負担を少し減らします。軽い結界のような役割もします」



「軽くですか? もっと強力なのは出来ないのですか?」



 仙人の説明を聞いて疑問に思う浩子



「もっと強く出来ますが、ハッキリとしていない状態で強くするのは、危険です。彼女のそばで祓えるなら問題ないです。今回のように、離れた位置の時は、結界を張ってるとばれて、より強い力で取り憑きに来て結界を破ったら彼女の命の危機に直結します。これは、1種の保険みたいなものです」



「色々あるのですね。ごめんなさい。」



 納得して謝ると



「私は大丈夫です。答えれる事は、お答えしますよ」



 仙人はそう言ったが、書き終わるまで静かに待つ2人。


 全て書き終わり



「今、出来ることはやったので、向かいます。途中まで案内お願いします」



「分かりました。ご案内します」



 3人車に乗って廃屋に向かうのだった



 



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