配達ステータスN/Aの手紙の話

【NADP】

 >【アシュバ】

【ユーゴー】

 >【アラゴン】

 >【ギュヴェチ】

【イバゲ】


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 夢の中、栗毛のアシュバがお前を背中に乗せて空を駆けるように草原を進んでいた。もとを辿ればかつて先祖たちが元という国を作った頃に、貢物として差し出された馬の血統だ。遡ればはるかインドに祖先を持つこの馬は、疲れと恐れを知らず一日に千里を駆けるとの触れ込みだったが、まさにそのように走っていた。


 彼の国は西はローマから南はチベットまで広大な牧草地を我々のものにしていたと聞く。しかし、草原で馬とともに死ぬ我らにはそれほど大きな土地は必要なかった。身に過ぎた物を得た者の末路とは明らかなもので、 100年と経たぬ内に漢人が建てた新しい国によって我々は高原の奥へと帰ることになったそうである。


 しかし、たかだか100年、されど100年。遊牧民はその遠い旅の中でいくつかの戦利品を持ち帰った。この馬もその一つだ。


「いいかい、息子よ。お前の祖先は確かに偉大な国を作った。しかし、その遥か前から、我々はもっと偉大な土地で生きてきたのだ」


 私の父は良くそう私に行って聞かせたが、幼い私はその意味がわからずに青い狼の物語をねだったものだった。その度に父が寂しそうな瞳をしていたのを覚えている。


 父の血は何十年も前に大地へと帰ったが、その言葉の意味を理解したのはそれから何年も経ってのことだった。


 高原に戻ってからも我々は広大な土地を歩き続けた。ただし、それはかつてのように羊を増やすためではなく、西方地域と漢人の国の間を結ぶためだ。海の道と陸の道に山の道、それぞれが通る土地の違うが故に、どの道も血管となってこの大地を結んでいたのである。


 そうして出会ったムスリムの商人は羊が子羊を生むように銀を増やすと恐れられていたが、我々にとっては良い隣人であった。彼らの獲物は農民であり、羊を伴って生きる我々は対等な商売相手でしかなかったからである。彼らとの話はいずれお前に語ってあげよう。


 しかし、今記しておきたいのは、この国。オスマンと呼ばれるこの国が我々の住む土地ではないということだ。この国はかつての元の様に広大な土地を手に収めようとしている。ただし、元と異なるのは羊を育む土地のためではなく、銀の輝きを得るために土地を求めていることだ。


 私にはこのオスマンが草原を忘れた我々の先祖と同じ道をたどる気がしてならない。息子よ。私は隊商の一人としてこの国に来た。しかし、お前はこの国に来ることがないかもしれない。


 この国は欲望の上に欺瞞を重ねた巨大なゲルのようなものだ。欲望は誰のものでもなく、やがて誰かがそれを奪っていく。そうやって柱を失ったゲルは天幕を支えることはできないだろう。ゲルならば新しい柱を手に入れれば建て直すこともできるだろうが、この国の家は柱と木の板、そして粘土で形作られている。


 息子よ、お前は漢人にそそのかされ、祖先が走ったこの土地を明け渡そうとしているらしいな。だが、本当に最後まで残るのはお前が乗るアシュバのように、土地に馴染んだものだけなのだ。祖先から受け継いだ生き方を売り渡すに足るものか、このオスマンのように欺瞞を被ったゲルではないかをよく見極めるのだ。


 今私はキュヴェチという煮物を食べながらこの手紙を書いている。この料理はローマでも食べられているそうだが、私が食べているものとは違う形の料理として食べられているそうだ。それはローマがオスマンではないからである。


 息子よ、私が父から聞いた言葉をお前に伝えるたびに、お前はかつての私のようにした。だから、いずれお前も私の理解したことを同じように理解してくれると信じている。


 私はこの手紙を同胞に託したら、アラゴンという土地へ行こうと思っている。その土地へついたらまた手紙を書く。旅に出たときにはお前の妻の腹にいた子供も、今は生まれているだろうか。なにか困ったことがあれば、ジュチ大叔父殿を頼るように。草原の風を忘れるなよ。


 テキン・ハ の子、マカラ・ハ より

 マカラ・ハ の子、テム・ハ へ


(ゴビ砂漠で見つかった血のついた竹簡より)


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 一言:届いたからと言って何も変わらなかったとは思います。

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