今は昔、M山の話

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 三峰山の社は狼が守っている。畑の野菜をイノシシから守ってくださるありがたい神様だが、実際に山の中でお逢いすると麓に出るまで見られている気配が途切れないのでいささか恐ろしいのも本音だ。


 そんな山の中で一人の娘が神隠しにあった。何人かで連れ立って山に入ったのを見ていた者がいたが、帰ってきた頃には一人減っていたというのだ。器量が良く長者のせがれに嫁ぐ話も出ていたほどの娘だったので、暫くの間村人総出で山中を探し回ったが、ついに見つかることはなかった。


 家の者たちも仕方がないということで最後には納得したのだが、ある日娘が親の枕元に立つと噂がたった。曰く、母親の枕元に娘が現れ、さめざめと泣くのだという。母親がどうしてそんなに泣いているのかと問うと、娘は苦しそうに喉を抑えるとスッと消えるのだという。


 噂が広まるに連れて尾ひれも付き、長者のせがれの耳に入った頃には娘の容姿はひどく腫れ上がった瘤と、額から滝のように流れる血で恐ろしげに化粧した娘が恨み言を吐くという話になっていた。それを哀れに思ったせがれは親の伝手で高僧を招くと、娘が今どうしているのか訪ねた。


 その高僧が言うには、娘の恐ろしげな様は風聞の伝わるうちに変じたものだろうが、たしかに未練を残して成仏に至っていないということであった。ところが、その高僧に娘の躯がどうなっているかと聞いても口をつぐんで話そうとしない。


 これを聞きつけた母親が娘の躯だけでもと三峯神社に百度の参りをすると、その帰り道に狼が立ちふさがった。常頃ならばするりと道脇に消えていくものだが、その日に限って狼は座り込んで動かない。母親が困っていると、周囲の木陰から何対もの瞳が覗いていることに気がついた。


 思わず母親が後ずさると、狼がこちらに詰めてくる。そうして後ろ後ろへと追い込まれるうちに、紅葉の木の下にたどり着いた。


 紅葉は夏の盛りにも関わらず色付き、下草も草の錦が広がっている。


 母親が奇妙に思っていると、狼が紅葉の木の下を掘り始めた。それを後ろから見ていると、見覚えのある袖が土の下から除く。慌てて母親が駆け寄ると、狼がまさに娘の顔を掘り出すところであった。これには母親も叫び声を上げたが、狼は構わずに娘の躯を掘り出すと、そのまま山の中へと消えていった。


 娘の首にははっきりと締められた痕が残っており、彼女と山に入った若い衆を調べると、長者のせがれに見初められた娘を妬んだ者たちが結託し、彼女を穢して土に埋めたと言うことがわかった。それを知った長者のせがれは世をはかなんで高僧のもとで仏法に帰依した。


 これを語り継ぐ人々は、三峯神社の神通力と高僧の慈悲、どちらをも称えたという。


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 一言:最近書き直しが増えている……。

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