鉱山で働くKさんが受けたインタビューの場合
【ソラン県】
>【小山】
【ナディールシャー】
>【セイヨウカラハナソウ】(ホップ)
>【シャープ】
【柳原】
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ドイツ人の身体には血とビールが流れている。これは歴史的に見ても明らかで、かつての皇帝がビールの品質を保証するために、世界初の食品衛生法を定めたほどだ。俺達ドイツ人は若いホップで作ったビールとブルーヴルストがあれば、たとえ暗い鉱山の中へも恐れることなく足を踏み入れることができた。それが本物の男ってやつだ。
ところが、あの壁が崩れてから何もかもが変わっちまった。「われわれが国民」だかなんだか知らねえが、東と西で睨み合ってたのが一気に混ざって、大混乱だ。しかもそのドサクサに紛れてよそ者共が紛れ込んできやがった。
あのよそ者共は本物の男じゃねえ。血の腸詰めには蕎麦を混ぜやがるし、ビールの代わりにウォッカを飲んでるもんだからタバコを吸うと息に火が付くって話だ。そんなよそ者共が俺達の鉱山に我が物顔で入ってくるせいで、隣に住んでたカールは可哀想に、会社からクビになっちまった。カールのところには6歳になる娘と2歳の息子、それにこの11月に産まれる赤ん坊だっているんだ。それをあのよそ者共が追い出しやがった。
鉱山の中では誰もが互いを信じねえと駄目だ。お天道様の見えない地の底で、頼りになるのは手元の明かりと長年の勘、そして後ろにいる誰かがしっかり仕事をしてるってえ確信だ。だから、俺達の間には血よりも濃いホップでできた結束、家族の結束が必要なんだ。それでこそ、鉱山の外にある小山を作れるってもんさ。
ところが、あのよそ者共にはそれが無え。だから、平気で俺達の家族を追い出して「ツルハシ振りごっこ」をしてられるんだと思ってたよ。
そんなことを愚痴りながら、バーで兄弟たちとその日も飲んでいると、扉が開く音がして全員がそちらを見た。
そこには最近入ってきた、よそ者の痩せた鉱山夫モドキが立っていた。そのモドキは俺達の白けた視線を意にも介さずカウンターにつく。
「ウォッカとヴルスト」
モドキがバーテンダーのティルマンに注文する。ティルマンは愛想の良い男だが、俺達と同じ愛国者さ。だから、モドキの注文なんてまともに聞いてやる筋合いはねえ。モドキに出されたのはヌルいミルクと裏が透けて見えるようなヴルストだった。
「おい、俺が頼んだのはウォッカだ」
「それで我慢しな」
モドキが不満げに言うのをティルマンは素気なく交わす。
「お前らはウォッカを飲んで育つんだろ」
「ママのミルク飲んで帰りな」
酔っ払った他の席の客が調子に乗って囃し立てる。店の中は爆笑で包まれ、モドキ一人だけが不快気な顔。全く良い気味だ。
モドキは俺の姿に気がついて助けを乞うようにこちらを見たが、俺だってコイツを助けてやる義理は無え。同じ席の仲間達と酒に夢中のフリをして無視を決め込んでやると、奴さんはミルクを飲み干して、カウンターに金を投げ渡しながら外に出ていった。
その姿があまりにも惨めだったもんだから、店内は大爆笑。俺もその夜は良い気分で眠れたもんだ。
ところが、数日後。鉱山で事故が起きやがった。若い新入りの仲間がマイトの扱いを間違えて、何人もの仲間たちが生き埋めになっちまった。新入りは泣き出しそうだったが、今はそんなことより、仲間たちを出してやることが先決だ。昼夜と瓦礫を退け続けたが、二日経っても一向に道が繋がらねえ。誰もが諦めかけた時だ。瓦礫の端が崩れ、そこから手が伸びてきた。
慌てて総出で瓦礫をどけてやると、そこにはあのよそ者のモドキが顔中を真っ黒にして這い出てくる。全員で引き出してやると、そいつは息も絶え絶えにこう言った。
「まだ6人が生きている。だが、飲水がない」
そう言うと立ち上がり、ふらつきながら外へと歩き始める。
慌てて全員で止めたんだが、そいつは必死で外に出ようとする。聞いてみれば、こう言いやがった。
「俺なら水筒を4本抱えても生存者の場所まで這っていける。今は時間がないんだ」
これには驚いたね。生き埋めになっている連中には、この前バーでこいつをバカにした連中も混じっているはずだ。なのに、こいつの眼ときたら何も迷っちゃいない。
知らず、俺達はこいつを止める手を緩めていた。すると、無理が祟ったのか男が体制を崩すのを慌てて抱きとめる。その時、男の足に縄が結わえてあるのに気がついた。途中で迷わないように結んであるのかと思ったが、よく見れば定期的に小さく引っ張られている縄がな。なおも水、水をとうわ言のようにつぶやく男を全員で抱えると、目配せをし合う。
「あんた、あんたの足の縄に麻袋を結わえてやれば、水は届く。だからもう休んで良いんだ」
俺がそう言うと、男は安心したように笑って気を失った。そして、仲間たちが男を丁寧に外に運ぶのを見送りながら、俺は縄に結わえる袋を見繕い始めたんだ。
それからのことは、新聞にも乗っている通りさ。麻袋に詰め込んだ水とパンは無事生存者まで届き、瓦礫が退けられるまでの一週間、仲間たちの命をつなぎ続けた。奇跡の生還なんて囃し立てられるが、もしあいつが瓦礫の隙間を抜けてこなけりゃ全員お陀仏よ。
だから、俺達の中であいつを笑うやつはもう一人もいねえ。バーで誰かがあいつを笑うようなことがあれば、全員で鋭い目つきでもって睨みつけてやる。そうすると、笑ったやつはおどおどとしてうつむいちまうのさ。
正直、よそ者共は今でも気に食わねえ。実際、仕事を奴らに取られてるのは事実だからな。だが、そんなよそ者共、血とビールではなく、蕎麦とウォッカが流れているような奴らだが、そんな中にも本物の男ってのはいる。それを俺達は知ってるのさ。
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一言:なんで声で話さなかったんだろう……?
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