G氏の声を盗み聞きしたおしゃべりバードの場合

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【余呉町】


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 松の林の奥、泉のそばでイスカが羽繕いをしていると、空から声がした。


「明日は山火事が起こるよ」


 すると、林の中で最も年老いた樹が応えた。


「それは恐ろしいことだ。他の樹にも伝え、実を落とすように言わなければ」


 しかし、老いた樹はまた、嘆いて言った。


「しかし、私の周りの若い木々は自分の実を落とすことに必死になって、遠くの樹まではこのことが伝わらないだろう。林の木々のすべてが備えられないとは、悲しいことだ」


 それを聞いていたイスカは飛び立つと、林の縁まで飛んで若い樹の枝に止まってはこう歌った。


「老いたトウヒが悲しむことは、聞いた逃避がかなわないこと。

 炎が燃やして更地になって、おのおの肥やしにただ地に帰る。

 声の限りに叫んでみても、朝の狭霧に眩んで消える」


 それを聞いた若い樹の内の多くは鳥の言う事ときにもとめなかったが、いくつかの樹は念の為にと実を落とす準備を始めた。


 そして、次の朝。


 果たして林の中程から火の手が上がり、林一帯は焼け野になった。しかし、奥の老樹の周囲と縁の何箇所かの灰の下には松かさが眠っており、野草のいない冬の時期に芽を出し、やがて松の林が再び蘇った。


 このことを獣たちは称え、イスカは善い鳥として語りぐさになったのである。


 それを面白く思わなかったのがカササギであった。


 カササギは人里に住む鳥だったが、光るものに目がなく、節操なしに盗みを働くため鼻つまみ者だった。


 しかも、おしゃべり好きで聞いた話を言いふらさずにはいられなかったので、誰もがカササギに心を許そうとしなかったのである。


 しかし、そうと知らないカササギは同じように喋って聞かせたイスカと自分の何が違うのかと腹を立て、イスカを貶めてやろうと心に決めた。


 そこで、里の家々を周って屋根に乗ってこう歌った。


「いつかやら林燃えるともてはやし、呪い吐いたはイスカの声か」


 しかし、イスカが義の鳥であることは皆が知っていたから、カササギの歌には耳を貸さなかった。


 これにますます腹を立てたカササギは腹立ち紛れにこう歌って飛び去った。


「悲しきは話聞かずに伝聞に、天の声とはただし聞こえず」


 あまりに大きな声でカササギが歌うので、里の者が石を投げつけると、カササギは呪いの予言を吐きながら飛び去っていった。


 曰く、「非によりてみずからにより流されて、哀れ財貨の失せたることよ」とのことである。


 この予言を恐れた里の人々は空からの声を聞いたイスカに助言を求めようと林の奥へと人を使わせた。


 話を聞いたイスカはしばらく羽繕いをしていたが、やがて一度だけこう歌った。


「火の出る日を聞き枝に止まって、月なみなツキで命を拾う。

 水に沈めば翡翠を得るが、みずから進んで火は被らない。

 否の有りどころを探してみても、人の頼りはただその心」


 そして、飛び立つと林のさらに奥へと消えていったのである。


 人々は歌の意味を測りかねたが、イスカがそれきり姿を見せなかったので落胆し、里へと戻った。


 それから、月の満ち欠けが何巡かしたころである。里のある家から炎が上がった。里の人々は逃げ惑い、カササギの呪いかと恐れおののいた。だが、その時林の奥から水が天へと吹き出し、雨となって里の炎を消し止めた。


 人々が困惑していると、イスカが飛んできて事情を話した。曰く、「カササギが火によって仕返しをすると歌っていたので、林の奥の泉で待っていた。カササギがどこで聞いているかわからないため、はっきりとは伝えず、時期に合わせて泉の栓を抜いたのだ」という。そう話すイスカのくちばしは栓を抜くために歪み、ねじれてしまっていた。


 火によるを非によると聞き間違えていたのだと人々は笑い、イスカに感謝をしたが、歌を思い返すと恐ろしくなった。水によって人々の財産はすべて流されていたからである。すると、カササギが人々の上で嘲るように同じ予言を歌った。


 イスカは「これで罪過は水に流された」と言ったが、人々は鳥たちの霊力を畏れ、どんな鳥の声も遮ろうとすることはなくなったそうである。


 だが、この逸話のために、秘密を守るものは真実を隠し、そのために口が曲がるのだということだ。


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 一言:飛鳥命名イスカ起源説を採用しています。

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