第2話 エレベーター

 勝又課長から頼まれた仕事は超人的な速さで終わらした。理不尽な仕事による怒りが手に伝わっていたのだろう。


 この仕事の対応中は部内中の人が振り返るほどの打鍵音でキーボードを叩いていたことが伝説になっていると、後々に聞いた。知らないところで勝手に伝説にするのは止めてほしい。


 勝又へメールを送付して、次の仕事を頼まれないように速攻でパソコンの電源を落とし、荷物をまとめて部署の居室を出た。


 廊下で左腕にはめている時計を見ると針はまだ18時前を指していた。これならば、まだ子どもとのお風呂に間に合う。


 下に降りるエレベーターのボタンを押して、上の階から降りてくる様子を見ながらしばらく待っていると扉が開いた。中にはスーツを着た男が2人が既に乗っていた。


 ひとりは部長の片平。こいつは勝又以上にクセが強くダダ絡みをしてくるので個人的には好きではない。ただ、直属の上司のため折り合いをつけながら付き合っている。そして、もうひとりは、なんと社長の小泉だった。


 なんてこった、嫌な予感しかしない。


 鮫島は軽く一礼をしてエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押して扉を閉めた。


 「何も起こらないでくれ」

 ただひたすらに、それだけを願いながら時が過ぎるのを願った。


 「鮫島くん、この前に出してくれた提案なんだけど、社長が興味あるそうだよ」


 やはり絡んできたか、片平!!今じゃねえよ!!


 フルマラソンを走った後に渡されるのがスポーツドリンクではなく、あんみつが提供されるぐらい、今じゃない。


 「よかったら、直接、少し説明してくれないか」


 小泉社長はそういうと、途中の階のボタンを押して同意というか、半ば強制的に同行を促している。


 「よくないわ!!」

 小泉と片平を途中階で開いたエレベーターのドアから蹴り出して、即座に扉を閉めて、エレベーターを下へ動かす。俺は子どもとお風呂に入るのだ!!


 なんて一瞬頭の中で思い描いた想像を行動に移せるわけもなく、渋々、途中階で降りて3人で会議室へと向かった。


 なかなか会社の外に出られない。

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不肖 鮫島 帰宅させていただきます ナオ船 @carrack

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