不肖 鮫島 帰宅させていただきます

四矢

第1話 不肖、鮫島 帰宅させていただきます

 PCの時計は17時15分を指した。業務時間の終了だ。今夜は早く帰宅して4歳の息子とお風呂に入る約束をしている。


 不肖、鮫島、退社させていただきます。


 机の上を片付けようとしたとき、向こうの席の方から課長の勝又がこちらに向かってくる。


 勝又は鮫島が所属している部署の課長だ。いつもニヤついて笑いながら話しかけてくるし、重要なことをきちんと連携してくれないので、個人的にはあまり好きではない。


 今日も半分にやけながら「鮫島くん、少し頼めるかな?」なんて言ってくる。


 こちらは帰る気持ちを全開で出しているにも関わらず、気が付かないのだろうか。それとも、気づいたうえでの行動か?


「明日の朝いちのミーティングで資料が必要なんだけど」


 明日の朝いちで必要だからといってなんなんだ。そんな資料は同僚の武藤でもいいし、後輩の山本でも対応できるはずだ。俺がやる義理は無い。


 即座に勝又の後ろに回り込み、腰に手を回して抱えあげてバックドロップをかまし、脳天から直撃して伸びた身体を担いで窓の外に放り捨てた。そして、その光景を目撃していた全員を端からぶっ飛ばして気絶させ、トラックに担いで積み込んで、東京湾の底に沈める。完全犯罪の完成だ……


 そんな妄想をしている場合ではない。退社できないピンチ。


 勝又は既に自席に戻り、資料作成に必要な情報をメールで送ってきている。


 やらなければいけないのか。子どもとの時間を犠牲にして。周りにいる連中を見回したが、武藤も、山本も目を合わせてくれない。冷てえ奴らだ。


 上等じゃねえか!!1時間掛からずに終わらしてやんよ。おらっ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る