第1話 開戦 その②

午後15時32分

俺は幼馴染の真理と昔から通っている道場にまた今日も来ていた。

「せい!!せい!!」

道場の中は、素振りをしている琉杏の威勢の良い声が響いている。

俺が休憩中にその琉杏の様子を見ていると、真理は、一度素振りをやめて、道場の端っこ…

もとい、俺のいる場所に駆け寄ってきた。

「終わったの?」

「いや、ちょっと休憩しよっかなって」

「なるほど」

真理はあたりを見回す。

すぐ目の前には小さいが、黄金色に輝くトロフィーと、俺の名が刻まれた大きな賞状が飾られてあった。

「まさか、都大会で、一位取るなんてね。小学生の頃はおどおどしていたあの零がさ。」

この道場を見ていると、確かに、ここに真理と一緒に入ったのが、懐かしく思えてくる。

「何年前に入ったんだっけ?」

「多分、6年前。」

「そっか、ちょうど、小3くらい?」

「うん。それくらいの時。」

今でも覚えている。

下校中、この道場に入った時のことを。

あの時はまだ俺は、怖がりで、一人ぼっちで、その時の友達は真理しか居なかったのだ。

でも、俺の剣道が、俺のこの竹刀が、俺のことを変えてくれたんだ。

俺はすぐ横に置いてある、竹刀と木刀に目をやる。

どちらの柄も黒く汚れていて、何度も握っていた形跡が残っている。

俺は細く笑って、心の中で、「ありがとう。」と呟いた。

そうしたら、なんか、2本の竹刀と木刀が、「こちらこそ」なんて言っているような気がした。

「それじゃあ、俺も素振りしようかな。あと5000回はしよっと。」

「今日は師匠がいないから、素振りに徹底してるの?」

「うん。もっと早く振りたいからね。」

そういうと、俺は畳の真ん中に立って、また素振りを一回、一回、丁寧に振った。

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