第39話 38、いきなり実践!? 上
「マーガレットさん、おはようございます!」
「おはよう、レダ(カレン)!今日もよろしく頼むよ~」
朝食後、突然、レダが用事で出かけると言い出したので、本日の占いはカレンが請け負うことになった。
(昨日、レダさんは、マーガレットさんを呼び捨てで呼んでいたけど・・・)
カレンは、マーガレットへの敬称の有無を気にしていたのだが、レダはそのくらいの誤差で、マーガレットがカレンを偽物だと見破ることはないと断言した。そして、“今まで通りのカレンのやり方でいいんだよ”と、太鼓判まで押してくれたのである。
(レダさんが大丈夫って、ハッキリ言うのは、やっぱりこの家が何かしらの補正を掛けてくれているということなのかしら?)
カレンは、都合のいい解釈をしてしまう。当然、補正を掛けているのが、実は自分自身かもしれないという疑いは全く持っていない。
「今朝は市場に、サマーポルチーニが出ていてね。香りもまあまあ良かったから、仕入れて来たんだよ」
「ポルチーニ茸ですか!美味しそうですね~」
カレンは、いつもの調子でマーガレットの話に、合いの手を打つ。が、しかし、何か引っかかった。
(んー、えーっと、ポルチーニ茸って、イシュタル共和国から輸入していたような気が・・・)
「そういえば、街道の封鎖は終わったのですか?」
「いいや、街道はね、皇帝陛下が仲裁を買って出たらしいけど、まだ解決していないんだ。ポルチーニ茸を持ち込んだ商人は、イシュタル共和国から来たそうだよ。何でも街道以外の道を通ったとか。あの険しい山道を超えて来るなんて、感心したよ」
(街道以外の道を通ったっていうのは、ちょっと考えられない気がする・・・)
カレンは、その商人の話は嘘だと思った。何故なら、オルセント王国とイシュタル共和国の間には、標高四千メートル級の険しい岩山が連なっているからである。今回、封鎖された街道が、唯一の輸送路となっているのは周知の事実であり、あの険しい岩山を商人が荷物を抱えて数日で乗り越えるのは不可能だ。
(―――――魔法でも使わない限りはね)
「マーガレットさん、その商人さんを疑うのは申し訳ないのですが、あのモンモルト山脈ですよ。荷物を抱えた商人が、あんなに高くて険しい山を超えるのは、無理じゃないですか?」
「うーん、確かに・・・。あんたと話していると頭が冷えて来たよ。あの山を越えるなんて、嘘以外考えられないね」
マーガレットは、カレンの話を素直に受け入れた。
「そう考えると、あのポルチーニ茸は、もはや気持ち悪い代物だとしか思えなくなってきたよ。客が体調を壊したらいけないから、処分しないといけないねぇ」
眉間に皺を寄せて、マーガレットは深刻な口ぶりで、ポルチーニ茸を廃棄すると言い出した。カレンは、ハッとする。
「マーガレットさん。そのポルチーニ茸を見せてもらうことは出来ますか?安全かどうか確認してみたいのでー」
「そうかい?それなら、一度、店に戻って取ってくるよ。悪いものだったら、購入した他の奴らにも知らせないとね!!」
「ええ、確かに。では、お手数ですけど、お願いし・・・」
マーガレットはカレンが話し終わるのを待たずに、慌てて店から出て行った。店に一人残されたカレンは首を捻る。
(どうしよう!?あいにくレダさんは留守中だし、私が善し悪しを判断出来ると良いけど・・・)
カレンは、立ち上がると腕を組んで、部屋の中をウロウロと歩きながら、マーガレットが戻って来たらどうしようかと考える。すでに、カレンの中で、商人が怪しいというのは決定事項だ。後は、どういう経路で、ニルス帝国の市場へ持ち込まれたのかというのが重要になって来る。そして、その商品がまともな代物なのかどうかということも。
(とりあえず、今、私に出来るのは記憶を読むことと、物を移動させること。この能力を使って、レダさんか、殿下にこの話を伝えて帰って来てもらった方がいいわよね・・・。だけど、どうしたら・・・)
カレンは、エドリックがここで懐からレダの手紙を出したシーンを、急に思い出した。
(これだ!!!)
カレンは紙とペンを引き出しから取り出すと、同じ内容の手紙を二つ書いた。
“市場・怪。家へ戻れ。K”
簡潔に書かれた内容を一読して、小さく折りたたむ。そして、小さな手紙を一つ、掌にのせると、アルフレッドが今朝来ていた白シャツの胸のポケットを思い浮かべた。
(よし、あのポケットの中へ、これを送る!!)
アルフレッドのアドバイスを思い返し、スッと吸い込む。すると、掌から紙が消えた。そして、イメージの中で、それをアルフレッドのポケットの中へ、パッと押し込んだ。
(これで上手く送れたはず。次はレダさんへ・・・)
二つ目の小さな手紙も同じ手順で掌に乗せ、レダのフードに付いているポケットへ向けて送った。
(この手紙に気付いて、早く戻って来てくれるといいのだけど)
カレンは、緊張をほぐすために深呼吸を一つした。その次の瞬間、店のドアを勢いよくバンッと開いて、カレンの目の前に現れたのは・・・。
「大丈夫か!!!」
血相を変えて、飛び込んで来たのはアルフレッドだった。勢いよく店内に走り込み、カレンをぎゅっと抱きしめる。
「えっ、早っ!?殿下、早くないですか?お仕事中だったのでは?」
カレンは、想像以上に早く帰って来たアルフレッドを見上げる。
「一大事だから俺を呼んだんだろう?何より優先するに決まっている!!で、どうした!?」
何があったのかを早く聞きたそうなアルフレッドへ、カレンは事の顛末を簡潔に話した。今、マーガレットが、その怪しい商人から買ったきのこを店へ取りに帰ったというところまでを。
「なるほどな。商人も怪しいが、カレンと話している間に、マーガレットが正気を取り戻したというのなら、商品へ何らかの呪いがかけられていたという可能性もある。念のため、俺もその衝立の裏で、カレンたちの話を聞いていいか?」
「はい、是非お願いします」
アルフレッドは、部屋の隅に置いてあった衝立の裏へ。そして、何があっても良いようにと密かに銀狐の姿に戻り、臨戦態勢を整えておいた。
―――――数分後、ドアをノックする音がした。カレンは、ドアを開ける。
「待たせたね。取って来たよー!」
マーガレットは、ポルチーニ茸がいっぱい入った籠を抱えていた。
(香りは、普通のポルチーニ茸みたいだけど・・・。殿下の言うように呪いの類が掛かっている可能性があるなら、においもあまり嗅がない方が良さそうね)
「マーガレットさん、どうぞこちらへ」
カレンに促されて、マーガレットはテーブルに籠を置き、椅子に座る。
「では、これが怪しいものかどうか見てみます」
カレンは両手を籠に翳し、早速、ポルチーニ茸の記憶を辿り始めた。
――――――見えて来たのは、倉庫のような場所だった。そこにある人影・・・。
「あーーーーっ!!!」
「おおっと、レダ(カレン)、大丈夫かい?そんなに驚くような何かが分かったのかい?」
突然、大声を上げたカレンを、マーガレットが心配する。勿論、衝立の裏で、アルフレッドも心配していた。
「いえ、失礼しました。もう少し見させて下さい」
カレンはもう一度、ポルチーニ茸に手を翳した。程なく、先ほどの映像が脳裏に浮かび上がって来る。
――――――倉庫の中には、女がひとりと男が数人いた。そして、その女は・・・。黒魔女レベッカだったのである。
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